機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島:手描きにこだわった美術 土の匂い 昔のガンプラCM風も 美術監督・金子雄司に聞く

「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」の一場面(C)創通・サンライズ
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「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」の一場面(C)創通・サンライズ

 アニメ「機動戦士ガンダム」のアニメーションディレクターやキャラクターデザインなどを担当した安彦良和さんが監督を務める劇場版アニメ「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」。1979年に放送された「機動戦士ガンダム」(ファーストガンダム)のテレビアニメ第15話「ククルス・ドアンの島」が劇場版アニメとして制作されることになった。劇場版「ククルス・ドアンの島」は、ファーストガンダムのような懐かしさがありつつ、新しさもある映像に仕上がっている。美しい背景、美術が魅力の一つになっており、安彦監督は、美術監督の金子雄司さんの手描きの背景を絶賛している。金子さんに、美術の制作の裏側を聞いた。

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 ◇ファーストガンダムの印象を大事に

 ファーストガンダムが放送されたのは1979~80年に放送。当時のアニメは、アナログで制作されていた。制作環境のデジタル化が進む中、「ククルス・ドアンの島」の美術は手描きにこだわった。

 「安彦さんは『手描きなんでしょ』とうれしそうにおっしゃってくださいました。(総作画監督、キャラクターデザインの)田村篤さんもファーストガンダムの印象を大事にしたいという思いがありましたし、手描きの印象が残れば……と心がけました。作品ごとに、スケジュールに合わせて手描きの割合を考えるのですが、個人的には作品に迷惑を掛けない範囲で、手描きでやりたいという気持ちがあります。『ククルス・ドアンの島』に関しても、できる限り手描きでやろうとしました。ほかの作品と比べて極端に多いわけではないのですが、トータルで60、70%くらいが手描きです。戦闘シーンなどはデジタルでなければ難しいところもありますが」

 「ククルス・ドアンの島」では、手描きならではの魅力を表現した。ノスタルジックなだけでなく、最新技術とアナログの技法を融合することで、新しい表現を目指した。

 「アニメの背景は、筆の跡を消して、写真のような表現を目指して進化してきたのですが、昔の作品の筆の跡を積極的に残してもいいのかな?と感じていました。昨年公開された『閃光のハサウェイ』を見た人から『色気があった』という感想を聞いたことがありました。その人は、ファーストガンダム以降をあまり見ていなかったんです。『閃光のハサウェイ』は、オトナの色気があり、僕もすごい!と思って見ていたのですが、『ククルス・ドアンの島』は、アムロが畑を耕しますしね。同じ『ガンダム』でもまた違うので、そこは勇気を持って、懐かしさのあるものも描こうとしました」

 確かに「ガンダム」シリーズは、作品によって美術の印象が異なる。「ガンダム」らしい美術とは……。

 「『ガンダム』らしい美術は、意外にバラバラなんです。最初は、中村光毅さん、それ以降は東潤一さん、美峰の方々……と偉大な方々が手がけられてきました。僕は足元にもおよばないので、失礼します……とやらせていただきました。僕が最初に『ガンダム』に関わらせていただいたのは、『ガンダムvsハローキティ』のキティちゃんの家でして……」

 ◇「MSV」のパッケージのイメージも

 「ククルス・ドアンの島」の舞台は宇宙空間ではなく、地球のとある島だ。食事、家畜の乳搾り、土を耕すなどロボットアニメだが、“生”を感じるシーンも多い。

 「手触りがあるものというのは、田村さんがすごくこだわったところです。安彦さんも『土臭くていいんじゃないか』とおっしゃっていましたし、土臭いことを堂々とやるのが大事だと思っていました。ドアンと子供たちが暮らした塔は、長い期間暮らしたわけではありませんが、子供たちにとっては長く暮らした記憶になると思います。長く暮らしているような生活感とか出そうとしました」

 一方、ホワイトベースは、土の匂いこそしないが、どこか懐かしさを感じるところがある。

 「ホワイトベースは、ファーストガンダムの印象を大事にしようとしました。ファーストガンダムの時は、モニターが青やピンクだったり、色が結構可愛らしいんですね。アニメの表現が進化する中で、実際のイージス艦などのモニターを参考に色を変えていったのですが、今回は昔の塗色に戻しています。『MSV』のプラモデルのパッケージのような質感を入れようともしました。サザンクロス隊のドックは、昔のガンプラのCMのイメージです。『ゴジラ』シリーズなどの川北紘一さんが手がけられたCMですね」

 「ファーストガンダムはリアルタイムではありませんが、小学生の時に『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』を見たり、『ガンダム』シリーズがどんどん広がっていくのを見てきた」という金子さん。安彦監督と「ガンダム」シリーズを愛するスタッフによって「ククルス・ドアンの島」は制作された。

 「安彦さんは、本当に速いし、正確なんです。サラッとレベルが高いことを言うので、自分の引き出しを総動員しながらやらせていただきました。田村さんらスタッフの皆さんが『ガンダム』に対する並々ならぬ思いがあり、(副監督の)イムガヒさんがテキパキ、しっかり料理をしてくださる」

 金子さんは「僕の師匠は、アニメの美術について『実写で言うところの撮影監督とライティングを担っている』と言っていました。それが画面の印象を左右します。料理で言うと、皿なのかもしれません。皿によって料理の印象が変わりますし」とも話す。

 「ククルス・ドアンの島」は、素晴らしい料理、素晴らしい皿がそろった。その映像美を堪能してほしい。

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