ダンダダン
第12話「呪いの家へレッツゴー」
12月19日(木)放送分
男子新体操をテーマにしたオリジナルアニメ「バクテン!!」の劇場版「映画 バクテン!!」(黒柳トシマサ監督)が7月2日に公開される。男子新体操に魅了された少年・双葉翔太郎が、私立蒼秀館高校(アオ高)の男子新体操部に入部し、仲間と共に目標に向かってひた走る姿を描いたアニメで、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で2021年4~6月に放送されたテレビアニメに続き、「舟を編む」などの黒柳さんが監督を務める。黒柳監督にテレビアニメ版、劇場版の制作の裏側を聞いた。
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「バクテン!!」を見て、驚かされるのは、3DCGと手描きが融合したダイナミックな競技シーンだ。部員6人が団体で躍動する姿を見ると、こんな世界があるのか!という驚きがある。男子新体操は、メジャーな競技ではない。黒柳監督も、アニメを手がけるまで競技の知識がほとんどなかったという。
「このアニメの企画が成り立った時に、男子新体操と出会ったので、全くの素人でした。選手がどういったところに気を遣っているのか? どういうふうに見てほしいと思っているのだろう?という認識を取材するところから始めました。例えば、手先の美しさなどの表現は、アニメーターの力が試されます。3Dも関節以外は、手付けで作らないといけません。団体ですし、6人分のキャラクターの労力が必要です。最初に大会を見て、どうやってアニメにするのだろう?と頭をよぎりました。大変な競技をアニメにすることになった……と。アニメをきっかけに、男子新体操を初めて見る人も多いはず。自分がすごい!と思ったこと、衝撃をそのまま表現しようとしました」
競技シーンは、選手を撮影し、モーションキャプチャーすることで作り上げた。しなやかだが、力強さも感じる。
「やるからには、しっかりやらないとダメだろう!とスタッフのみんなの意識が高かったんです。我々は、男子新体操を描かせていただいています。アニメのせいで、競技をしている人を落胆させてはいけないですし、競技のすごさを伝えないといけません。指先まで意識して作りました。筋肉にもこだわりました。ただのマッチョではいけない。意識したのは、鹿のもも肉でした。筋肉は付いているけど美しさがある表現を目指しました」
上下左右に動き回るダイナミックなカメラワークも魅力的だ。キャラクターの表情もしっかり見せることで、繊細な心の動きも表現している。選手が床を蹴る音、着地した音なども印象的だ。
「最初に大会を見に行かせていただいた時、観客席から見てもすごい!と思ったんです。アニメで試技を描く際、最初は観客席から定点で撮ることも考えたのですが、それは新体操を実際に見に行けば、見ることができます。むしろ、選手に合わせてカメラを走らせたらどんなふうに見えるのだろうか?とアニメでしかできないことを考えました。大きなスタジオを借りて、全方位からカメラを撮って、モーションキャプチャーをしています。普通のテレビアニメの規模ではないくらい、こだわりました。音も実際に収録しています。競技を見ていると、ものすごく高く跳ぶので、床を蹴る音、振動が伝わってきて、ドキドキするんです。そこも表現しようとしました」
劇場版では大画面で大迫力の競技シーンを楽しめる。
「ただ、大画面ですから、カメラを回しすぎると酔ってしまうかもしれません。カメラワークを多少抑えたところもあります。キャラクターが成長する中で、どうやってうまくなっているところを見せるのか?というのも考えたんですが、スタッフのみんなも慣れてきて、知識も深まっていったというところもあり、一つ一つの芝居の精度が上がっていきました。スタッフが育て上げてくれたところがあります」
丁寧に作っているのは競技シーンだけではない。キャラクターの日常を丁寧に描いている。食事シーン、息遣いなど細部までこだわった。黒柳監督は「舟を編む」などでこれまで手がけてきた作品でもキャラクターの日常、感情を丁寧に描いてきた。
「料理が出てるけど誰も箸をつけないような雰囲気にはしたくなかったんです。食べるシーンを描くことで、キャラクターがちゃんとこの世界にいると思っていただけるようにすることが、大事な要素で、それが成立して初めて物語が描けると思っていました。自分たちとあまり変わらない子が、すごいことをやっているところを見せたかったんです。『舟を編む』の時も実際に、辞書編纂(へんさん)の方とお話をすると、僕たちと変わらないような方が、一生懸命、辞書を作っている。日常を丁寧に描くことで、そこをしっかり見せたかったんです」
日常をしっかり描いているから、キャラクターに感情移入できる。
「日常のシーンでキャラクターの心情をしっかり感じてもらう。あのキャラクターは、あんなことがあったな……と感じながら、競技を見ると、そのキャラクターを目で追うようになります。だから、日常芝居が大事になってきます。試技シーンでは、キャラクターの心の声、観客の表情を見せようとしませんでした。つまり競技が始まったら、観客の一人になったように見ていただきたかったので」
劇場版では、アオ高男子新体操部がインターハイに出場。“最後の挑戦”が描かれる。キャラクターの心情をより丁寧に描いている。
「特に映画だからということはなく、変わらず一生懸命作ったのですが、映画とテレビでは尺が違います。テレビの短い尺だから表現できることもあります。前向きなキャラクターを描きたいというのが最初のコンセプトとしてあったので、テレビでは、何か問題、変化があっても、すぐに解決するようなテンポで作ろうとしていました。映画は葛藤する時間をテレビより長くしています。もう少しみんなの感情に踏み込んでいこうとしました。夏から翌年の春まで、時間の流れもしっかり描こうとしました。インターハイの夏から始まり、そこから季節がゆっくり変わっていきます。男子新体操そのものを描くのではなく、キャラクターが男子新体操と出会ってどうなったのか?を描こうとしました。最初は少年マンガ的にしようとも思っていたのですが、そうでもなくなりました(笑い)。ほかのスポーツアニメとは一味違うものになったかもしれません。競い合っているようで、そんなに競い合っていないですしね」
高校1年生の主人公・双葉翔太郎を演じるのは土屋神葉さんだ。同じく1年生の美里良夜役の石川界人さんのほか、先輩の七ヶ浜政宗役の小野大輔さん、築館敬助役の近藤隆さん、女川ながよし役の下野紘さん、亘理光太郎役の神谷浩史さんら豪華声優陣が集結した。
「主人公を土屋神葉さんに演じていただくことになり、フレッシュですし、いい1年生になる!と確信しました。そうなると、先輩たちには堂々としてほしい。声優の世界の先輩で方々が、アニメの中でも先輩を演じることでシンクロするかもしれない……と小野さんらに出演していただきました」
劇場版では、神谷さんが演じる2年生の亘理の心の動きが丁寧に描かれているのも印象的だ。
「亘理は難しいキャラクターです。3年生みたいに引退前ではないですし、1年生みたいにまだまだ時間が膨大にあるわけでもなく、ちょっとフワッとしているんですね。どんな気持ちで男子新体操に打ち込んでるんだろう?と最初は僕自身もちょっとつかみづらかったところもあります。映画でフィーチャーすることを決めた時に、分かったこともありました。分かったと同時に、これは大変な役になるな!となった。ここは神谷さんにお願いしようと。『舟を編む』の時から神谷さんのすごさは分かっていましたので、頼れる方に頼ろうとしました」
1年生、2年生、3年生にそれぞれの思いがある。男子新体操に打ち込む高校生のかけがえのない時間を丁寧に描いてきた。劇場版はその集大成になる。
「高校生たちを主人公にして、3年間という限られた時間、その中の1年間の青春を描いてきました。時間の流れは一方通行で、決して過去に戻ることはできません。でも、それが未来につながっています。今のこの時間を一生懸命に生きていく、好きなものに一生懸命になることが、想像以上の未来につながっていきます。『バクテン!!』では、無意識なのでしょうが、そういった気分を持っているキャラクターを描いてきたつもりです。映画を見て、感じるものがあれば、自分たちの生活に置き換えてみて、今という時間を大切にしながら、未来につなげていただけるとうれしいです」
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