BASTARD!!:令和の時代に再アニメ化する意義 伝説のマンガの魅力 尾崎隆晴監督に聞く

「BASTARD!! ー暗黒の破壊神-」の一場面(C)萩原一至/集英社・BASTARD!! 製作委員会
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「BASTARD!! ー暗黒の破壊神-」の一場面(C)萩原一至/集英社・BASTARD!! 製作委員会

 萩原一至さんの“伝説”のファンタジーマンガが原作の新作アニメ「BASTARD!! ー暗黒の破壊神-」(以下、BASTARD!!)。原作は、魅力的なキャラクター、セクシーな描写、高い画力などが人気を集め、“ダークファンタジーマンガの始祖であり金字塔”とも呼ばれ、後の数々のファンタジー作品に影響を与えた。1992~93年にOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)が制作されており、約30年ぶりにアニメ化されたことも話題になっている。伝説の作品ではあるが、令和の時代に再アニメ化する意義とは? 新作アニメを手がける尾崎隆晴監督に聞いた。

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 ◇「BASTARD!!」の衝撃 普遍的な魅力

 「BASTARD!!」は、1987年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)に読み切り「WIZARD!!~爆炎の征服者~」が掲載され、1988年に連載をスタート。「ウルトラジャンプ」(同)などでも連載されたが、長期休載している。コミックスの累計発行部数は3000万部以上。

 近代文明の崩壊から400年後、魔法と剣が支配する混沌(こんとん)の中にあった世界で、かつて世界支配をもくろんだ最強にして最狂、伝説の魔法使いダーク・シュナイダーが復活し、活躍する姿を描いている。新作アニメは、「ゴブリンスレイヤー」などの尾崎さんが監督を務め、「僕のヒーローアカデミア」などの黒田洋介さんがシリーズ構成を担当。「東京リベンジャーズ」などのライデンフィルムが制作するなど豪華スタッフが集結した。第1~13話が、Netflixで6月30日から配信中。

 「BASTARD!!」の連載が始まった1988年はゲーム「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」が発売された年で、剣と魔法の世界を舞台としたファンタジー作品が人気を集めつつあった。「BASTARD!!」は、ファンタジー作品として魅力的だっただけでなく、萩原さんの高い画力、少年マンガらしからぬセクシーシーンなども魅力で、「ジャンプ」読者に大きな衝撃を与えた。尾崎監督も連載開始当初、衝撃を受けた一人だった。

 「最初に読んだのは多分、高校生の頃でした。触れちゃいけないようなエロ、グロもあり、ワクワクしていました。当時の『ジャンプ』のラインアップからすると異端児のような雰囲気があったんです。1980、90年代は、大人になっても見られるような、マンガ、アニメ、ゲームなどが生まれていました。改めて作品に取り組む中で、気付いたことですが、大人になっても楽しめる作品だから、今も伝説的な存在になっているんだと思います。だから、今になってまたアニメ化されるのかもしれません」

 尾崎監督は「異端ではあったけど、実は背骨の部分は健全だったりする」とも話す。

 「愛や勇気、友情を堂々と描いている。ダーク・シュナイダーは自分勝手でわがまま、暴れん坊というイメージがありますが、行動原理を見ると、誰かのために戦っている。真正面から愛や勇気とは言わないけど、結果的にそういうものが見えます。実は健全なんです。エッチなところもあるけど、普遍的なテーマがあるから、今も残っているし、大人になっても見ることができる。今の若い世代の人たちにもその魅力を伝えていきたかった。原作のイメージもあるので、自分の主観が入りすぎるとよくないのですが、いろいろな解釈ができるはずです。今回は、エロ、グロ、格好よさを描きつつ、愛、勇気、友情を描いていこうとしました」

 ◇伝説のスライムシーンにこだわりも

 「BASTARD!!」は長期連載作ということもあり、時代に合わせて絵柄が変化してきた。アニメ化にあたり「あえて昔の絵柄を意識している」という。

 「アニメをリメークする時、ガラッと絵柄を変えることもありますが、ここ何年かは、原点回帰の動きもあります。『BASTARD!!』の普遍性、根底にあるものを大事にして、アニメとして形に残していきたかった。中盤、コミックスの第7~10巻辺りの絵のイメージが強いですし、そのイメージでアニメ化しています。サイバーパンク系など当時の流行も反映されています。その匂いも漂わせています。単なるエロにしたくないところもあります。半裸のマッチョな男が魔法を使うというのは、エロティシズムの中に西洋の彫刻のような美しさもあります。当時のSF、ファンタジー小説の表紙の絵もそういう雰囲気がありました。そこも表現しようとしたところです」

 リメーク作も増える中で、令和の時代に「BASTARD!!」をアニメ化する意義を考えた。

 「フィルムの時代は100年たてば劣化する。デジタルは、フィルムのようにメンテナンスしなくても、バックアップさえとっていれば、ずっと残ります。画質もどんどんクリアになり、繊細な表現ができるようになっている中で、人間の視力で、認知できる映像の限界まできているかもしれません。デジタルとして新旧さまざまな作品があふれている中で、フラットになっているから、昭和の時代を知らない若い世代が、古いものを見て、エモいと言いますし。今だからこそ、古い、新しいに関係なく、思いが伝わるはず。普遍的な作品は残るし、今後もループしながら、進化していくと思います」

 「BASTARD!!」といえば、ヒロインのヨーコの体にスライムがまとわりつき、服を溶かす……というセクシーなシーンが伝説になっている。ファンタジー以外にもさまざまな作品に影響を与えた。

 「真面目な話をした後ではありますが、強烈でしたからね(笑い)。鎖で拘束されたヨーコが、スライムに好きなようにされ……。ヨーコさんのドレスとふんどしを合わせたような衣装もひらひらしていて印象的です。絶対にやりたかったシーンなので、自分でコンテを描いています。せっかくアニメにするので丁寧に描こうとしました」

 新作アニメは、尾崎監督を含めたスタッフの作品愛が込められている。細部までこだわり抜き、アニメ化した。今後、“新たな伝説”として10、20年……と残っていくアニメになるはずだ。

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