西島秀俊:「ユニコーンに乗って」での可愛さが話題 “当たり役”が“当たり役”を呼ぶ51歳

連続ドラマ「ユニコーンに乗って」で中年サラリーマンの小鳥智志を演じた西島秀俊さん
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連続ドラマ「ユニコーンに乗って」で中年サラリーマンの小鳥智志を演じた西島秀俊さん

 9月6日に最終話(第10話)が放送された連続ドラマ「ユニコーンに乗って」(TBS系、火曜午後10時)。女優の永野芽郁さん演じる主人公・成川佐奈が仕事と恋に奮闘する作品で、佐奈の年上部下となる中年サラリーマンの小鳥智志を演じたのが俳優の西島秀俊さんだ。小鳥は仕事にまつわる名言を残す一方でコミカルな一面も見せ、視聴者は「可愛い」「癒やし」と盛り上がった。円熟味のある演技で存在感を発揮する西島さんの魅力に迫る。

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 ◇安心感と真摯さを兼備 「おじさん部下」とマッチ

 「ユニコーンに乗って」は、「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」(フジテレビ系)などの大北はるかさんのオリジナル作。自ら起業した教育系企業「ドリームポニー」の最高経営責任者(CEO)を26歳で務める佐奈の元にある日突然、会社の雰囲気とは全く異なる元銀行員・小鳥が転職してきたことで、佐奈の仕事と恋の環境が一変して……という物語。

 西島さんが演じた小鳥は、26年間勤めた地方銀行を辞め、48歳で転職活動をスタート。転職サイトで見つけたドリームポニーに興味を持ち、面接を受け採用され、佐奈の部下になる。若いメンバーたちとのギャップに戸惑いながら、自分なりの貢献の仕方を模索するという役どころだった。

 放送前の会見で西島さんは、佐奈のビジネスパートナー・須崎功役の杉野遥亮さんを「恋愛担当」、自身を「仕事担当」と表現していたが、その通りに小鳥は佐奈や須崎の支えとなった。

 小鳥は、第2話(7月12日放送)で須崎に「自分の仕事に誇りを持っていれば、どんなことでもやりがいに変わります」、第9話(8月30日放送)で須崎に「(転職の)怖さも人生の醍醐味だと思っています」、最終話で佐奈に「人生は仕事だけじゃありません」と、人生の先輩の立場から助言し、その度にSNSで「小鳥さんの名言がしみる」といった声が上がった。

 一方、小鳥は「おじさん部下」として随所でチャーミングな一面を見せた。第1話で黒のタートルネックにデニムという“スティーブ・ジョブズ風”の服装で登場したり、第9話でドヤ顔で電動キックボードに乗ったりして、「可愛い」と視聴者の心をわしづかみにした。

 放送を通じて小鳥が愛される人物であり続けたのは、小鳥の生真面目な部分と、ドリームポニーの個性的な面々の間に立って、陰に日向(ひなた)にサポートしてきた献身的な役割、そしてどこからともなく醸し出される可愛さを西島さんが見事に演じきったからだろう。大人の男の渋さが増した端正なルックスと鍛え抜かれた肉体を持つ西島さんは、視聴者が気構えることのない安心感と、人々を助けるヒーローのような真摯(しんし)さを兼ね備える。こうした要素が小鳥の人物像とマッチしたといえるだろう。

 ◇公安警察からエプロン姿まで ギャップが話題

 西島さんは現在51歳。同世代の俳優と比べると、作品の規模を問わない自在性や演じてきた役の幅広さが際立つ。

 NHK大河ドラマ「八重の桜」(2013年)やNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「おかえりモネ」(2021年)といった話題作に出演する一方で、テレビ東京系の深夜の連続ドラマ「きのう何食べた?」(2019年)で内野聖陽さんと同性カップルを演じ、視聴者を驚かせた。

 作品ごとに見せる顔も多彩だ。人気刑事ドラマシリーズ「MOZU」で警視庁公安部のエース、連続ドラマ「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(2017年)で公安警察というシリアスな役を演じたかと思えば、「おかえりモネ」では主人公を気象予報士へと導く憧れの上司でありつつ、自身もつらい過去や苦悩を抱える多面性のある役を好演。「きのう何食べた?」ではエプロン姿やツンデレぶりを披露し、硬派な役とのギャップが話題になった。

 そして、カンヌ国際映画祭をはじめ、数々の賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)。西島さんが演じた家福悠介は、大きな喪失感と痛みを抱えた主人公だったが、この難役を見事に演じきり、世界的な評価を得た。

 今年は、映画「シン・ウルトラマン」(樋口真嗣監督)、ドラマ「仮面ライダーBLACK SUN」(白石和彌監督、Amazon Prime Video)と、特撮作品に立て続けに出演。大和ハウス工業のCMでも、ヒーロースーツに身を包むダイワマン役を務めたりと、まさに八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せている。

 ◇ソフトな雰囲気で自然と作品に溶け込む

 西島さんがこれほど幅広い役をこなすのは、作品のジャンルを問わない「懐の深さ」があるからだろう。役と真っすぐ真摯に向き合い、醸し出すソフトな雰囲気でもって自然と作品に溶け込み、役に深みを持たせている印象がある。その結果として「実際に存在しないのは分かってるけど、どこかにいそう、むしろいてほしい」というキャラクターが生まれるのではないだろうか。

 主演映画「グッバイ・クルエル・ワールド」(大森立嗣監督、公開中)の公開記念舞台あいさつで、共演の三浦友和さんは西島さんについて「ニュートラルな俳優の代表選手。現場でこんなに落ち着いている俳優はいません。みんな緊張してトゲトゲするのですが、そういうのがまったくないのが信じられません」と評していた。

 西島さんの「懐の深さ」に由来する演技の幅は、役同士が価値のあるギャップを生み出す。「ユニコーンに乗って」のプロデューサーを務めた松本友香さんは、西島さんの起用理由を「強面(こわもて)だったり、公安の役だったりを演じられているイメージが強い中で、ここ数年はエプロンをつけている柔らかい役も演じられていて。そのギャップも含め、絶対すてきな小鳥さんになるなと思いました」と語っていた。西島さん自身の生み出すギャップが制作サイドの期待につながり、西島さんがその期待に誠実に応える。まさに“当たり役”が“当たり役”を生む好循環だ。

 「超甘党」として知られる西島さんは、ティラミスのように大人の「ほろ苦さ」と「甘さ」を併せ持つ。この二つを自然に漂わせ、これからもさまざまな顔を見せてくれるだろう。国内だけでなく、世界からも注目を浴びる西島さんの今後に注目したい。

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