超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、先日開催された東京ゲームショウを振り返ります。
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3年ぶりに全面リアル開催となった東京ゲームショウが幕張メッセ(千葉市美浜区)で9月15日から19日まで開催された。リアル会場とオンライン会場によるハイブリッド開催という点では昨年度と同じだが、コロナ前の東京ゲームショウが復活したと捉えてよいだろう。今のところクラスター発生などの大きなニュースもなく、まずは無事に開催されたことを喜びたい。
もっとも、開催内容をどのように総括するかは、人によってまちまちだろう。会場でよく耳にしたのはハードメーカーによるブース出展が見られなかったことだが、個人的にはそこまで残念だとは感じられなかった。今や大半のゲームがPCを含むマルチプラットフォーム戦略を採用しており、そのハードでしか遊べない独占ソフトの存在感が低下しているからだ。これに伴い、東京ゲームショウ自身もミッションの再定義が必要な時期を迎えているように感じられた。
よく知られているように、東京ゲームショウは家庭用ゲームの祭典として1996年にスタートした。主催団体のコンピュータエンターテインメントソフトウェア協会(現:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、CESA)が開催前年、家庭用ゲームソフトメーカー16社による任意団体として設立されたことが、ショウの性格を体現していた。1997年から春秋の年2回開催になったことも、当時の活況ぶりをよく示していた。
続いての節目となったのが2007年だ。それまで3日間だった会期を、ビジネスデイを延長して4日間とした。そのうえでツールやミドルウエア企業のブースが加わったり、海外の大使館ブース誘致を推進したり、海外への情報発信力を強化したりと、国際トレードショーとしての性格が強化された。展示内容も家庭用ゲームにとどまらず、携帯電話ゲームやeスポーツイベントをはじめ、その時々の流行が幅広く取り入れられた。
では、コロナ禍を経て開催された本年度はどうだっただろうか。多くの来場者が実感したと思われるのが、リアル開催ならではの「つながり」だ。ビジネスデイでは業界人がブース前で互いにあいさつを交わすなど、同窓会的な光景が見られた。一般公開日もブースでの試遊やステージイベントの観覧などを通して、企業と消費者との間で、さまざまな交流が行われた。ゲームショウの主役がゲームから、ゲームを介した人と人とのつながりに移行したように感じられた。
なかでも象徴的だったのがインディー(独立系)ゲームコーナーだ。関係者によると今年度の応募者数は昨年の約2倍に増加し、文字通り世界中のインディが集まったという。ゲームの開発段階からイベントに出展し、ユーザーコミュニティーを盛り上げて、宣伝活動につなげるのがインディーゲームのスタイルだ。リアル開催でその状況が目の当たりになったことで、あらためてインディ-ゲームの現状や勢いを実感した来場者も多かったのではないだろうか。
一方で課題を残したのがオンライン会場だ。内容が昨年より充実していたとはいえ、かえって中途半端な位置づけになった点は否めなかった。ゲームが試遊できない、開催期間が限られていて、終了後に参加できない、リアル会場との連動も乏しいとあっては、存在意義に疑問符が付いたのも否めないだろう。コロナ明けが期待される来年度、リアル開催に一元化するのか。それともオンライン会場のさらなるテコ入れを図るのか。新たな課題になりそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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