すずめの戸締まり:新海誠監督 全世代に向けた「本当のエンターテインメントに」 「天気の子」の賛否から生まれたヒロイン

劇場版アニメ「すずめの戸締まり」の新海誠監督
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劇場版アニメ「すずめの戸締まり」の新海誠監督

 「君の名は。」(2016年)、「天気の子」(2019年)などで知られる新海誠監督の約3年ぶりとなる新作劇場版アニメ「すずめの戸締まり」が11月11日に公開された。日本各地の廃虚を舞台に、災いの元となる“扉”を閉めていく少女・すずめの解放と成長を描く冒険物語だ。新海監督は「君の名は。」「天気の子」の大ヒットを受け、自身の作家性にも変化があったといい、前作「天気の子」の反響を受けて、新作の構想を形作っていったという。「どの年代の人も取りこぼさないような映画作り」「本当のエンターテインメント」を目指したという「すずめの戸締まり」に懸けた思いを聞いた。

 ◇ヒロインを「愛されるキャラクターに」 子供も楽しめるエンターテイメントを

 「すずめの戸締まり」は、九州の静かな町で暮らす17歳の少女・岩戸鈴芽(いわと・すずめ)が、災い(地震)を呼ぶ扉を閉めて鍵をかける“閉じ師”の青年・宗像草太と出会うところから始まる。やがて、日本各地で次々に扉が開き始め、すずめと草太は“戸締まりの旅”へ出ることになる。

 新海監督は、新作の制作発表の際に「扉を開いていくのではなく、閉じていく物語を作りたいと思った」と語っていた。新作を構想する上で二つのキーワードがあったという。

 「一つは、『場所を悼む物語』にしたいということ。『天気の子』の舞台あいさつで各地を回ったり田舎の実家に帰ったりした時に、かつて栄えていたのに人が減って廃れてしまい、寂しくなった場所を目にする機会が増えたなと思っていました。僕の実家は建築業をやっていて、子供の頃、父親たちがさまざまな建造物を作るのをよく見ていたんですが、そこで建てられた建物の中には今は誰も住んでいなくて、周りは人よりも緑や動物ばかりになっている場所が少なくない。そして、何かを始める時は地鎮祭のような儀式をするけれど、何かが終わっていく時には何もしないですよね。人が亡くなった時にはお葬式で悼むのに、土地や街にはそれがない。じゃあ、人がいなくなった土地や場所、つまり廃墟を悼む、鎮めるという物語はどうだろうかと、ここ何年かずっと考えていました」

 もう一つのキーワードは「異形の者と旅をする少女の物語」だった。草太は、すずめと出会った直後、言葉を話す謎の猫・ダイジンに「おまえは じゃま」と言われたことをきっかけに、すずめが幼いころに使っていた小さな椅子に姿を変えられてしまう。ダイジンを追いかけ、すずめは椅子になった草太と共に旅をすることになる。

 新海監督は、前作「天気の子」の反響を受けて、新作の構想をまとめていった。「天気の子」について新海監督は「“正しくない物語”を作りたいという気持ちが強かった。世界を救わない物語を作りたい、と」と語ったことがあるが、「天気の子」の主人公・森嶋帆高に対する批判の声も少なくなかったという。

 「作品に対しては、本当にいろいろなことを言っていただいて、褒めていただけることもあるし、あんまり褒められないこともあるし、はっきり批判されることもあります。ただ、やはり次の作品を作る時のヒントになるのは、批判の言葉なんです。『天気の子』であれば『帆高が自分勝手すぎて感情移入できなかった』という意見がありました。僕はそういう意見につながらない映画になるよう慎重に作っていったつもりではあるんですけど、『やっぱり足りなかったんだ』という気持ちになりました。それは、キャラクターがセルフィッシュな行動をしたとしても愛することができるようなセットアップが足りなかったということもある。少なくとも主役として立たせるんだったら、もっと愛されるキャラクターにしたいと思いました」

 多くの人に愛される主人公として、「物おじせずにどんどん世界を切り開いていき、僕自身も観客も見たことない景色の場所まで連れて行ってくれるような、前に走っていくようなキャラクター」であるヒロイン・すずめが生まれたという。

 幼い子供たちに映画を楽しんでもらいたいという願いもあった。

 「『天気の子』でも子供が劇場に見に来てくれていたんですけど、『子供たちには悪いな』と思っていたんです。『天気の子』は、小学校高学年、あるいは中学生ぐらいだったら存分に楽しめるかもしれないけど、さすがに6歳以下くらいの小さな子には難しいんじゃないかと。せっかく映画館に来てもらったのに退屈させるなんて申し訳ないという気持ちも強くありました。次こそは、どの年代も取りこぼさないような映画作りができればいいなと強く思いました。僕たちの仕事は、エンターテインメント映画を作ること。笑ったり泣いたり、感情をジェットコースターに乗っているみたいに上下させることができるのがやっぱり本当のエンターテインメントだと思うので、そういうものにしたいと思ったんです」

 「場所を悼む物語」「異形の者と旅をする少女の物語」という二つのキーワードと、子供たちを含めた幅広い世代に楽しんでもらいたいという思いから、たくましいヒロインが活躍するロードムービー「すずめの戸締まり」が形作られていった。

 ◇「君の名は。」時代は描けなかった関係性 「観客に作らせてもらっている」

 新海監督は、「すずめの戸締まり」では、キャラクター同士の関係性の描き方にも変化があったと語る。「君の名は。」「天気の子」では、メインキャラクターの男女には恋愛に近い関係が描かれているが、「すずめの戸締まり」のすずめと草太はバディーだ。また、すずめと叔母の岩戸環(たまき)の関係性も印象的で、すずめの保護者として生きてきた環は、実はすずめに対して複雑な感情も抱いている。

 「『君の名は。』で描いた運命の赤い糸のような恋愛関係を描くことに、以前ほどの興味を持てなくなっていて。それよりももう少し違う関係性を描きたいと思って作り始めました。また、すずめと草太の関係以外にも、叔母とめいの関係性というのは、『君の名は。』を作った40代前半の自分ではまだ描けなかった、自分が年を重ねて子供が成長したり、親子関係を考える機会が増えたりした結果、興味が強くなり、描きたくなったモチーフだと思います」

 すずめと環の関係性については、「これまでは描く必要がなかったというか、描くつもりもなかった」とも語る。

 「僕は自主制作から作品作りを始めて、観客の層もすごく限られていたんです。すごく狭いけど親密なコミュニティーの中でもの作りをしばらくやってきて、そこから段々観客を少し広げることができればいいなと。ただ、それでもハイティーンから30代ぐらいの人たちに向けて、思春期の時の思いとリンクして見てもらえばいいなという気持ちがかつてはずっとあったんです。だけど、作品を重ねていくと、観客の年齢層が段々広がっていき、期待される部分も変わってくる。だから、『すずめの戸締まり』では、今まで僕が作ってきた作品を見てくれた観客が、環のようなキャラクターを作らせてくれたような感覚があります。最初の頃の自分の作家性からすると、環とすずめ、叔母とめいの関係を描くようなタイプの作家ではなかったような気がするのですが、今はそういう描写にもとても興味があって。観客に求められて、観客に作らせてもらってるという感覚が強いですね」

 商業デビュー作である「ほしのこえ」(2002年)から20年。新海監督が作り上げた「すずめの戸締まり」は、アニメーション監督としての一つの到達点なのかもしれない。すずめたちの冒険を劇場で見てほしい。

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