11月末から東京・大阪などで上演されるミュージカル「東京ラブストーリー」に出演する女優の熊谷彩春さん。柴門ふみさんの人気マンガを初めてミュージカル化した同作で、メインキャストの一人、関口さとみを演じる。10代のころからミュージカル女優として活躍し、2019年の「レ・ミゼラブル」では、コゼット役を史上最年少で演じ話題となった熊谷さんは現在22歳。鈴木保奈美さんと織田裕二さん共演のテレビドラマ(1991年)が大ヒットしたのは生まれる前の話で、「母はドラマを見ていた世代だったので、私が出演すると決まったとき一番びっくりしていました」と明かす熊谷さんに話を聞いた。
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「東京ラブストーリー」は、「家族の食卓」「あすなろ白書」を手掛けた柴門ふみさんのマンガが原作で、米国に住んでいた経験を持ち、自由気ままに生き、恋愛にも真っすぐな赤名リカが主人公。リカに好意を寄せられる永尾完治(カンチ)や、完治の高校の同級生・三上健一、同じく完治の高校の同級生で完治が思いを寄せる関口さとみらが織りなすラブストーリー。2021年に再ドラマ化された。
大ヒットトレンディードラマとして、「名前だけは知っていました」といい、ミュージカルへの出演オファーを受け、初めて原作を読んだという熊谷さん。
「4人の若者が東京で必死に頑張っている姿を描いた群像劇で、いつの時代でも共感できる内容だと思いました。マンガが描かれたのは随分と前ですが、私たちのような今の若者が読んでも共感し、感動できる作品だなって。ミュージカルは2018年に舞台を移しているので、メールもLINEもあります。でも、(原作と同じように)気持ちのすれ違いなどを表現しているので、また新しい形の東京ラブストーリーになっていると思います」とミュージカルへの期待感を口にする。
演じるさとみについては「ドラマ放送当時(1991年)は、女性からの批判の声があって、『人気がすごく低かった』と聞いていて。最初にさとみを演じることを母に伝えたら『あの関口さとみ。嫌いだった』と爆笑されました」と告白する。
一方で、「さとみを演じると分かった上で原作を読むと、不安定な気持ちの中、本当の自分を探して、恋を経験し、傷ついて。最終的に安心できる場所にたどり着く、という彼女の成長過程が見られて。今の自分と重なる部分もありますし、私自身、今22歳という年齢で、まだ自分というものが確立できていない状態なので、すごく共感もしました。さとみは“魔性の女”なんて言われたりしますけど、本人にはもちろん自覚はなくて、必死に生きていた結果、ああなってしまったんだなと思いました」と印象を語った。
幼稚園の先生として働くさとみを演じるにあたって、資格を持つ友人の協力を得て、自ら一日の仕事を体験。さらには“生まれ故郷”の愛媛県を訪問した。
「さとみは今治出身ということで、『行ってみよう』と思いたって、一人旅をしてきました。今治の町を巡ったり、海岸に行ってみたり、名物を食べたり、地ビールを飲んだりして、この場所でさとみは育ったんだって、肌で感じたりしました」と振り返る。
役作りにおいては「経験できることは全部やりたいと常に思っています」ときっぱりと言い切る熊谷さん。目の見えない女性を演じた2022年の「笑う男」のときは、視覚障害について学べる施設に足を運び、“暗闇の中での生活”を経験したという。また、2021年の「魍魎の匣(もうりょうのはこ)」のときも、事件の発端となる武蔵小金井駅に稽古(けいこ)の後、一人で向かい、「夜1時間くらいホームから電車眺めてみたり、周辺を散歩してみたりしました。かなり怪しい人でしたね(笑い)」と打ち明けるなど、役への真摯(しんし)な姿勢がうかがえる。
そんな熊谷さんは改めて、ミュージカル「東京ラブストーリー」の関口さとみ役について、「孤独で葛藤している様子だったり、不安や恐ろしさ、人とのつながりの中で心が揺らぐ女性というのは、私にとってもすごく挑戦」と位置づける。
続けて「表に見えていることと心の中で思っていることが違う、というところがたくさんあって、そこでのボタンの掛け違いが一つのテーマでもあるので、その部分をより繊細に演じて、見てくださる方には共感してもらいたいですし、さとみはすごく運命に振り回されるのですが、実は芯がすごく強い。それも元から強かったわけではなく、どんどんと強くなっていく様子が劇中では見えるので、その成長過程が表現できたら」と本番に向け、使命感をのぞかせた。
劇中には登場人物の心情に寄り添ったオリジナル楽曲が多数登場する。熊谷さんは「稽古を重ねてきて、音楽に合わせることで気持ちを伝えやすかったり、ミュージカルだからこそ表現できる部分があると感じています」と話すと、「リカ、カンチ、さとみ、三上の群像劇で、一曲の中で4人それそれが心情を歌ったりもするので、それはドラマでは表現できない、ミュージカルならではの魅力だと思います」とアピールしていた。