君たちはどう生きるか:スタジオジブリ制作スタッフが語る裏側 宮崎駿監督の絵コンテを読み解く日々

「君たちはどう生きるか」の取材会に登場したスタジオジブリの奥井敦さん(左)と古城環さん
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「君たちはどう生きるか」の取材会に登場したスタジオジブリの奥井敦さん(左)と古城環さん

 スタジオジブリの宮崎駿監督の最新作となる劇場版アニメ「君たちはどう生きるか」の取材会がDolby Japan(東京都中央区)で行われた。同作の撮影監督を務めたスタジオジブリの奥井敦さん、ポストプロダクションと呼ばれる撮影後の作業を担当した古城環さんが登場し、制作の裏側を語った。

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 「君たちはどう生きるか」は、2013年公開の「風立ちぬ」以来、約10年ぶりとなる宮崎監督の長編アニメ。宮崎監督が原作、脚本を手掛けた。古城さんは、制作について「宮崎監督からの指示はすごく少ない。基本的には絵コンテから、なぜその指示が書いてあるのかを読み解く日々」と語った。とあるシーンでは「ドアノブの音だけがなぜか『無音になる』と書いてあった」といい、「なぜ無音なのか、不思議でならない。どうしようか?と1日悩み、なぜそうなのかを読み解いた結果、今の形になっています」と説明した。宮崎監督の絵コンテには、擬音が多く書いてあるといい、それを読み解き、音響を制作しているという。

 「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994年)以降、撮影監督、映像演出として全てのスタジオジブリ作品に参加し、宮崎監督とは30年以上制作を共にしているという奥井さんは「(宮崎監督が)どうしてほしいかがなんとなく分かるところがある。目指しているものは、宮崎が想定しているであろう画面に何かをプラスしたもの。ただ指示通りにやればいいのではなくて、それを膨らませて画面を仕上げるということをやってきました。過程で相談することはなく、仕上げたものを見せる。現状は、望んでいるものが見えつつやっているのかなと」とこだわりを語った。

 「君たちはどう生きるか」は、通常版のほか、ドルビーシネマ版、IMAX版と多様な形態で上映されている。同作のドルビーシネマ上映を決めた理由として、奥井さんは、光の表現について説明した。

 「以前はフィルムで撮影をして映像を作っていましたが、今はデジタルに移行している。フィルムでは多重露光をかけて光を表現するのですが、ハイライトの階調をどれだけ明るくしてもきっちり光が残ってくれる。ところが、デジタルでは、光が光らなくなってしまった。明るくしようとすると白く飛ばすしかない」と、デジタルの表現の幅の狭まりを感じていたという。そんな中、海外でドルビーアトモスの鮮明な色彩と幅広いコントラストを表現するハイダイナミックレンジ(HDR)映像を見て、「黒、ハイライトの見え方に衝撃を受けた。この技術を使って、ぜひ次の作品をやりたいと思った」という。

 ドルビーシネマでは、ドルビーアトモスと呼ばれる立体音響技術が採用されている。音響面を担当した古城さんは「宮崎監督が『風立ちぬ』の際にモノラルを採用しているので、ドルビーアトモスを採用したことで『うるさい』と言われないように気をつけました。音響チームの合言葉は『引き算』。迷ったら音を落としましょうと。空間の広がりを大切にして制作しました」と説明した。

 古城さんはドルビーアトモスの魅力は「没入感」といい、「私たちは、作品を見る皆さんに『物語がしみてくるような効果を持っているんじゃないか』と信じながら技術を使う。完成までに試行錯誤をしている部分が、一番素直に表現されている状態がドルビーシネマ。あくまで我々は宮崎監督から支持されたことをどう伝えるかを考える。技術を使い、監督が満足するものを作る」と思いを語った。奥井さんも「技術論を言いたいわけではなくて、技術を使って出来上がった映像を感じてほしい。常日ごろ、観客の皆さんに一番いいものを見てもらいたいと考えながら制作をしています」と話した。

 「君たちはどう生きるか」は、2022年12月にポスタービジュアルがお披露目されたが、あらすじ、キャスト、主題歌などが事前に明かされないまま、7月14日に公開された。公開から約1カ月後となる8月18日に場面写真が公開され、メインキャストも発表された。俳優の山時聡真さんが主人公・眞人を演じるほか、菅田将暉さん、柴咲コウさん、あいみょんさん、木村佳乃さん、木村拓哉さん、大竹しのぶさん、竹下景子さん、風吹ジュンさん、阿川佐和子さん、滝沢カレンさん、國村隼さん、小林薫さん、火野正平さんが声優として出演している。

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