タレントの麻木久仁子さんが還暦を迎えたことをきっかけに今年4月に放送大学に入学。好きな科目だけ学べる「選科履修生」として、「がんとともに生きる(’18)」「フードシステムと日本農業(’22)」「食と健康(’18)」「食の安全(’21)」の4科目を受講し、「4科目とも90点以上を取ることができました。80点以上が『A』判定で、私はすべて(最高評価の)『マルA』をいただきました」と報告した。麻木さんが、大学での学びについて語った。
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麻木さんは2010年に脳梗塞(こうそく)を経験、2012年に初期の乳がんが見つかった。食生活を見直し、国際薬膳師、国際中医師、温活指導士の資格を取得。食を通して「体を温め、免疫力を高める」という考えなどを多方面で提案してきた。昨年60歳になったことがきっかけに漠然と学びたいと思っていたことを「いつかやろう」ではなく「今やろう」と決意し、放送大学の門戸をたたいたという。
――前期の過程を終えた放送大学の印象は?
“大学感”がありました。カルチャーセンターとは違って「まさに大学だな」と感じました。
――講義の方はどうでしたか?
「食と健康(’18)」「食の安全(’21)は化学や生物などの基礎的なことを理解する必要があったので最初は少しあたふたしてしまったのですが、回を重ねるごとに“食”について理解を深めることができました。実生活の中でも、普段何気なく接していたニュースや情報に対するリテラシーが上がったと思います。
例えば、CMや情報番組などで「体にいいですよ」と言われたとき、入学前は漠然と「そうなんだ」と聞いていたのですが、「こういうふうに摂取されて、こうやって代謝されるから体にいいのかな」と思えるようになりました。いい意味で批判的に見ることもできるようになりましたし、日常生活に直結して役に立っているなと感じます。自分自身の“食”というテーマに沿って役に立ちそうな講義だけを選んだのですが、「間違いなかった!」という実感があります。
――「フードシステムと日本農業(’22)」は?
驚いたのが、私たちが支払っている食材費の中で最も多くの割合を占めるのが流通に掛かる費用だということでした。そのことを知ってからはトラックのドライバー不足の問題とか、どこかの倉庫で火災が発生したとか、どこどこでストライキが起こったなど、以前は“食”というテーマに関係するとは思えなかったことが実は私たちの“食”に関係していることを知りました。食材の値上がりも生産地だけの問題ではなく、食材が私たちに届くまでに多くの過程を経て膨大なコストが掛かっていることが影響しているのですね。
「フードシステムと日本農業(’22)」」は大きな概念で多様なことを扱っています。私自身講義を受けるまでは“食をシステムで捉える”という発想がなかったので、毎回毎回が新鮮でした。新しく触れる知識の量も多くて教科書が線だらけになってしまったのですが、娘から「全部に線を引いてるじゃない」「大事なとこだけ引くものでしょ」と突っ込まれてしまいました(笑い)。
――「がんとともに生きる(’18)」も受講されました。
「がんとともに生きる」は“治療以外のがんを取り巻くものごと”をテーマにした講義で、例えば「がんサバイバーがどう仕事を続けるのか」「家族にがんの方がいる人はどう生活するのか」「がんと闘っている人を地域がどうフォローするのか」などを学びます。
先日、用事があって「国立がん研究センター」(東京都中央区)に行きました。国立がん研究センターの8階は「患者サポートセンター」になっていて、「がん相談支援センター」などもあります。学んだことは机上だけで終わらずに生活に密着しているのだなと実感しましたね。
――生活への影響はありましたか?
私は講義を聴講するだけなので、すでに確立した知識を受け取るだけなのですが、この講義の上流では学者の方が日々研究を重ねて学説を生み出しているのだと思います。そういうことの恩恵が連鎖して、現実の人々の生活に落とし込まれて、スーパーの売り場の構成になったり、私たち消費者の行動に影響しているのだと想像することができるようになると、学問の世界に対する尊敬の念が生まれました。
放送大学に入学する前は“学問と生活の中で感じることが結びつく”という感覚がなかったのですが、例えばフードロス問題の解決には心理学も関連してくるとか。日々の生活をより良きものにするためには、理論やエビデンスが大切で、それをもとにさまざまな社会のシステムが構築される。その中で私たちの意識も変わり生活も変わるんだなと。
――麻木さんの世界がどんどん広がっていきそうですね。
今はまだインプットを始めたばかりなのですが、前期の科目を受けたことで視野が広がりました。後期の科目を受講することでさらにたくさんのことを学びたいと思っています。そうやってどんどん知識と視野を広げていけば、“食”に関するアウトプットにつなげることができるんじゃないかなと思っています。例えば今後“食”に関する発信をするときも放送大学に入学する前とは違った視点を持った発信ができればと思っています。
――4月に入学したというニュースが出たときの周囲の反応は?
子育てや仕事が一段落したり、定年退職した人など私の周りには時間ができて学びたいと思っている人がたくさんいます。そういう人たちから「大学だから入学したら語学から何から全部やらなきゃいけないんでしょ?」「大変すぎて私には無理」と思っている人が多かったみたいです。「自分の好きな科目だけ受講することなんてできるの?」とたくさん聞かれました。でも実際には自分の生活に合わせて、科目数も、時間も、分野も自由にセレクトできるので、ハードルは高くはない。思い立ったときこそが始めどきですので「自分のペースに合わせて負担のない形から始めることができますよ」と答えています。
―ー今後は?
しっかり学んで、学んだことをアウトプットしていきたいです。年を取ってもいくつになっても、学べば人は変われると思いますし、だからこそ学ぶことは楽しいと感じています。