名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
人気アニメ「プリキュア」シリーズの劇場版アニメ最新作「映画プリキュアオールスターズF」(田中裕太監督)。シリーズ20周年を記念した作品で、第1弾「ふたりはプリキュア」から放送中の第20弾「ひろがるスカイ!プリキュア」までテレビアニメ全20シリーズの78人のプリキュアが集結した。歴代プリキュアが集結する劇場版アニメは、2018年公開の「映画HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ」(宮本浩史監督)以来、約5年ぶりとなった。「Go!プリンセスプリキュア」や劇場版アニメ「映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!」「映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて」などの田中裕太さんが監督を務め、田中仁さんが脚本を担当し、同シリーズで数々の変身シーンや原画を手がけてきた板岡錦さんが総作画監督、キャラクターデザインとして参加するなど豪華スタッフが集まった。田中監督、板岡さんに制作の裏側、劇場版のオリジナルキャラクターのキュアシュプリームの制作秘話などを聞いた。
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田中監督 最初は20周年というのを大きく掲げた企画でもなくて、20周年っぽいこともやらなければいけないのかな?くらいのざっくばらんな感じから少しずつ企画が始まった覚えがあります。最初はオールスターズにするつもりもなかったのですが、20周年記念映画にしようとした時、オールスターズとまではいかなくても、比較的最近のプリキュアが集結する映画だったら自分でもできるかもしれない……というところからスタートしました。
田中監督 初めてですね。テレビシリーズの「HUGっと!プリキュア」でオールスターズ回をやったことはありますが、あれは特にドラマもなくキャラ見せに特化したからできたのであって、映画としてしっかりしたストーリーがありつつ、78人全員を見せるのは難しい。人数を絞ろうと思っていたのですが、進める中で結局オールスターズっぽくなってきました。
田中監督 自分の中で最初に設定したのがそのテーマでした。僕自身が「プリキュアって何?」とよく分からなくなってきたことがあったんです。長年やってくる中で、世間の評価を含めてプリキュアは多様化していますし、「プリキュアって何?」と聞かれると、一言では説明しにくい。そういう気持ちが自分の中にありました。20周年という看板がありますし、自分自身の思いも含めて「プリキュアって何?」ともう一度問い直すことで、一本の映画として描けることがあるのではないかと思いました。
田中監督 結局、答えは一つに絞りきれない。「これがプリキュアだ!」と大きく一つにまとめられたらよかったのですが、こちら側から定義を決めて当てはめるのは今回のテーマに反してしまうのでやめようと思いました。「2023年の今、プリキュアはこうだよね」というところに着地したつもりです。ここからまた全く新しいプリキュアが生まれ、もっと色々な可能性が広がっていってほしい。そう願っています。そういう部分も全部含めて「プリキュア」なんじゃないかなと思っています。
板岡さん 僕が一方的に「やりたい!」と言ったんです。田中監督が映画をやると聞いたので、どうしてもやりたかった。総作監がまだ決まってないという話だったので、ワンチャンあるかな?と思いまして。
板岡さん できると思っていなかったんです。自分の能力、求められている方向性として作監ではないだろうとも思っていたところがあって。今でこそ経験を積んで多少作監をやるようになったとはいえ、監督は、友達だからいいよ……という考えをする人ではなくて、いいものを作るためにどうするか?を最優先するので、自分が選ばれるのか?と分からないところもありました。でも、どうしてもやりたかった。監督とは付き合いが長く、素晴らしい演出をするのはよく知っています。原画マンとしてではなく、作画監督という同じような立ち位置で一緒に仕事がしたかったんです。自分から言わなくて、ほかの人がやったら後悔すると思いました。自分から言って選ばれなかったら、諦めはつきますし。監督としては、僕を作監にとは思っていなかったんじゃないかな? 大変なシーンの原画をやらせようとしていたのかもしれないですし。
田中監督 一原画マンとして良質なカットを量産してほしいという思いはありました。今まではそうだったので。
板岡さん 確かにこれまではそうだよね。今回も何も言わなければ、そうだろうなと思っていました。
田中監督 板岡さん以外も考えはしたのですが、板岡さんは一番熱意があったし、一緒にチャレンジしようと決めました。作監として一緒にやったことはなかったので、未知数ではありましたが、やると決めたのなら、ガッツリやっていこう!とスタートしました。おかげでキュアシュプリームもそうですが、映画のオリジナルキャラクターは本当にいいデザインになりました。
板岡さん 本当? 大人の対応じゃなくて?
田中監督 本当ですよ。
田中監督 キュアシュプリームはプリキュアを極めて狭い視点でしか捉えていない存在です。プリキュアを強くて格好いいものとだけしか見ておらず、単にそれを模倣しているだけなんです。そういう表面的な部分だけしか理解しておらず、じゃあなぜプリキュアはそんなに強いのか? なぜ困難から立ち上がれるのか?という本質を全く分かっていない。そんなキュアシュプリームに対して、プリキュアってそれだけじゃないよね?と伝えることで、これまでプリキュアが20年描き続けてきたことを再確認したい……そういうイメージから生まれた存在です。
板岡さん デザイン面での話としては、まずはキュアシュプリームをデザインして、シュプリームが分かれてプーカになったり、強そうなシュプリームβになったり、変身前のプリムもいたり……とほかのキャラクターが派生していく形でデザインしていきました。監督にメモをもらって描き始めようとしたのですが、最初はメモを一切無視したんです。監督はそれを見て、よく分からない!?という表情をしていました(笑い)。
田中監督 結構攻めていましたからね。最終的なデザインにも要素が残ってはいるんですが、どうなんだろうこれは? 嫌いじゃないけど、大丈夫かな?となりまして。映画のゲストキャラは基本的にデザインの自由度が高いのですが、その分判断も慎重になります。
板岡さん 最初に描いたシュプリームは、白目がないキャラでしたし。
田中監督 キュアシュプリームは78人のプリキュアに一度勝っている存在なので、その説得力が果たして出せるかな?と。
板岡さん 監督のメモを基にもう一案を描き、最初の案と合体させたのが今のキュアシュプリームです。下半身はほぼ最初の案ですね。
田中監督 プリキュアのまねをしているので、プリキュア的なエッセンスはありつつも、ちょっと違う。例えばアクセサリー部分で言うとハートが逆さに付いていたりするんですが、それがそもそも何なのか、解釈を間違えていたり、よく分かっていないままくっつけている。そんなイメージです。
田中監督 劇中では特に明言していませんが、黒くなったキュアシュプリームをスタッフ間で「シュプリームβ」と呼んでいました。巨大化したものは「Γ」ですね。最初に出会った姿は「シュプリーム・オリジン」です。設定上の分類の呼称です。
板岡さん βは可愛いではなく、格好いいに全振りした顔になっています。鬼っぽいというか。目の中のハイライトをウサギにしています。βになる前の最初のキュアシュプリームの時から背中に紋様が入っています。映画ならではの攻めたデザインです。βのイメージのメモはあったんでしたっけ?
田中監督 最初のメモのキュアシュプリームがβに近いかもしれません。イメージは最初からありました。
田中監督 78人全員を出すのは難しいので、シナリオの段階から各シリーズから1、2人くらいにキャラを絞って、代表方式にしようとしました。企画段階でロードムービーのようにしたかったので、代表プリキュアたちで即席チームを作り、旅をするお話にすることを考えていました。チーム分けは、いろいろこねくり回して、最終的に今のチームになりました。
田中監督 キュアスカイチームは直近の主人公3人を集めて、そこにキュアシュプリームを入れることを割と初期から考えていました。ほかのチームは、最初は単純に属性とかで分けることを考えていたのですが、それだけでは話がうまく転がらなくて。出会いは想像できても、それ以降の展開があまり広がらなかったりしてたので、そこでまた別の組み合わせを考えたり、と。これまでのオールスターズは各シリーズごとのメンバーで行動することが多かったように思います。ほかのシリーズのキャラとの交流もなくはなかったと思いますが、今回はそこを掘り下げてみたかった。尺が許せばもっと深掘りしたかったんですけどね。
板岡さん 監督が全シリーズをしっかり把握しているから、こういうことができるんです。このキャラとこのキャラが絡むとこうなる……とちゃんと想像できるのは、キャラのことをしっかり知っていないとできない。田中監督だからできることです。
田中監督 ララとゆかりは、当初の目的が一番達成できた部分だと思います。
板岡さん あのシーンを担当した原画が超うまいんですよ。それもあって、画面の説得力もすごく高い。芝居がうまいんですよね。
田中監督 単純にうまい人が入ってくれたことが大きいです。若手がすごく頑張ってくれました。説明が煩雑なので詳細は割愛しますが、東映アニメーション社内には研修生と呼ばれている人たちがいまして、その中の若手アニメーターたちが今回たくさんこの作品に参加してくれました。それがみんな上手だったんです。僕はこれまで若手の研修生たちと一緒に仕事をしたことが少なく、どんな人がいるのかあまり知らなかったのですが、これはうれしい誤算でした。
板岡さん 原画をやり始めて1、2年くらいの若手です。うまいですよね。自分はほとんどやることがないくらいでした(笑い)。本当に、顔を整えるだけでしたね。この人たちは将来、アニメ業界を引っ張っていくんだな……と感じました。熱量があり、研究熱心で向上心もありますし、どんどん伸びていきます。びっくりしますよ。300、400カットくらいはそういう若手がやってくれました。
田中監督 本当に助かりましたね。アクションだけでなく、日常芝居もすごく繊細に描いてくる。映画全体に広範囲で入ってくれたのでトータルとして良いシーンが増えた印象ですね。それは彼らの力が大きいと思います。自由だし、アレンジを効かせてくるし、きっちり考えて芝居をさせてくれています。
板岡さん こうやったら面白くなる!とどんどん入れ込んでくる。こんなにいっぱいラフ原を描いているけど、これ全部、清書して原画にするんだよ?と思いながら、見ていました。でも、それは大切なことですよね。
板岡さん 単純にキャラがいっぱい出てくるし、設定も増えるので、描き手は大変です。各シリーズで描き方が全然違いますし。前髪が透けるの? まつげは何本? 瞳の中は色トレスなの、実線なの?といろいろ違うんです。プリキュアは目が命みたいなこともありますし。
田中監督 完璧に設定通りに描くと多分合わないんですけど。
板岡さん それは、一人で描けばその人なりのなじみ方をするからです。その人のフィルターを通してアウトプットすると、頭身なども調整するでしょうし、ある程度なじむ。その結果だと思います。それと監督の手腕が大きいと思います。
田中監督 挿入歌合わせの都合上、展開が速すぎて見えにくいかもしれませんが……。たくさんのキャラが出ています。
板岡さん 基本的に関連するキャラは全部押さえているんじゃない?
田中監督 入れられるものは、出し惜しみせずに全部入れました。そこも見どころになっているので、何回も見ていただければうれしいです。
板岡さん 見る度に新たな発見があるはずです。
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