ドラゴンボールDAIMA
第6話 イナヅマ
11月18日(月)放送分
“手塚治虫×浦沢直樹”のマンガが原作のアニメ「PLUTO」がNetflixで10月26日から配信される。浦沢直樹さんが手塚治虫の「鉄腕アトム」の一編「地上最大のロボット」をリメークしたマンガが原作で、アニメは、真木太郎さん、丸山正雄さんがエグゼクティブプロデューサーを務め、丸山さんが創設したスタジオM2が制作する。丸山さんは、手塚治虫が設立したアニメ制作会社・虫プロダクション出身で、「YAWARA!」「MASTERキートン」などの浦沢作品のアニメ化を手掛けてきた。テレビアニメの黎明(れいめい)期から活躍する“生きる伝説”の丸山さんに、令和の時代に同作をアニメ化した狙いを聞いた。
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「PLUTO」は、2003~09年に「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で連載された。人とロボットが共存する社会で、世界で最も優秀なロボットが次々に暗殺される怪事件が発生し、真相を追うロボット捜査官・ゲジヒト、アトムが世界を破滅に導く史上最悪の憎しみの存在に気付く……というストーリー。アニメは「紅の豚」「新世紀エヴァンゲリオン」などの作画監督の河口俊夫さんが監督を務めた。
丸山さんは1965年に虫プロに入社し、1972年にマッドハウスを設立。2011年にはMAPPAを設立し、現在はM2の代表取締役を務める。「あしたのジョー」「千年女優」「サマーウォーズ」「この世界の片隅に」など数々の名作を手掛けてきた。
丸山さんは2009年2月発売の同作のコミックス第7巻で、あとがきを書いたことがあった。虫プロ出身で浦沢作品をアニメ化してきたこともあり「アニメにするんだったら自分がやるしかない」とつづった。
「『YAWARA』以降、浦沢作品が始まれば必ず目を通していて、『地上最大のロボット』をやるとうことなので、手塚の子としては、僕がアニメ化しなくちゃいけないと、そういう頭で最初から読んでしました。あとがきを書いてほしいと言われ、そこで『僕がアニメ化するしかない』と書いた。4巻くらいで終わると思って、そう書いたんだけど、終わらない。連載が終わった時、これをアニメ化するには、お金やスタッフの問題を含めて、僕にはできないと言っていた。スペシャルなら何とかできるかな?と思った時期もありました。その話が流れて、ホッとしたところもありました。その後もいくつか企画が立ち上がり、基本的にはできないと思っていた。M2というプリプロの会社を作ったので、何でもやりたいことをやっていいということだったので、パイロット版を作ったんです。パイロット版は予算も何も関係なく作りたいように作った。それを見て、浦沢先生は『いいんじゃない』と言ってくれた。ただ、テレビの30分枠では難しい。作る時間、お金が必要になる。お尻が決まっていたら、できるわけがない。しばらくして配信の時代になってきた。パイロット版の通りにできるかどうか?といろいろなところと交渉しつつ、Netflixだとこの形がありうるということでした」
アニメ化するためには、越えなければいけない壁がいくつもあった。
「本当にパイロット通りできるのか? 失敗がちょっとありまして、好きにやってしまったものだから、このクオリティーを確保できるのか? 今からできないとは言えない。それが一番のプレッシャーでした。結果何とか完成しました。一番心配だったのが、僕が70歳を超えていたこと。完成するには、どれくらいかかるか分からないわけですよ。少なくとも5、7年は間違いない。結果、10年だったんですけど。元気に仕事ができるかは、保証の限りではない。逆に言うと、何が何でもやらなくちゃならないから、元気だったのはこの作品があったからかもしれない(笑い)」
「PLUTO」のアニメ化は具体的に何が大変なのだろうか?
「浦沢さんのキャラクターに準ずることです。プロポーション、芝居付けなどを表現するために、すごく画力が必要なんです。線一本が違ってもダメで、誰が見ても浦沢さんのキャラクターにしなければいけない。全カット統一するところが大変。あとは、ストーリーです。重いストーリーなので、どれだけ再現できるのか? 最初の企画で2時間の劇場版にしようともしたんだけど、それでは全部できない。浦沢さんは『自分で考えなさい』『やれるもんだったらやってください』と言葉をいただいた。どうやってまとめるのか?と考えることに時間がかかった。結果、挫折したんです。どうしてもダイジェストになってしまう。伏線を外すことはできない。遊び、ふくらみの部分を切ることもできるけど、それもできないので、ちゃんとフォーローする。構成案としては1時間、8本しかない。それしかない!と思った時、配信の話があったんです。それならできる。途中で死んでもやるしかない。浦沢さんが死ぬ気で作ったマンガだから、アニメも死ぬ気でやるしかない」
死ぬ気で作ったアニメ「PLUTO」は“完璧”にも見えるが……。
「パイロット版に準じたものができたか?というのも心配。僕なりに一定のものはできたけど、どうしてもここはこうしたいというところもある。ものづくりっていうのは、作る側の不満はいつもある。完成して、これでいいというものはありえない。次は、こうしたい……となるから頑張る。魅力ある欠陥商品とずっと言っていて、多少の欠陥はあるし、100%完璧なものは、ものづくりにおいて、ないと思うんですよ。そういう意味で、いかに魅力のあるものができるかなんです。やりすぎなくらいやる。やりすぎの作品を作りたい。現場と常にそういう話をしていました」
手塚治虫の作品は、令和の時代も色あせない魅力がある。「PLUTO」はそんな手塚作品の遺伝子を受け継いだ作品だ。丸山さんは、手塚作品の魅力をどのように感じているのだろうか?
「浦沢さんが先日『手塚治虫はマンガ界のメジャーだけど、実は大いなるマイナーな作家ではないか』とも言っていました。勧善懲悪だけじゃない。勝つ者の悲しみとか、負けた者のつらさが入っている。僕が虫プロに入った時、手塚治虫はあんまり好きじゃなかったんです。健康的で、正しいことを描いているんじゃないかと。特に『鉄腕アトム』は、10万馬力で空を飛んで、悪いやつをやっつける……というのが好きじゃなかった。10年くらいたってから読み直してみて、ちょっと違うかも?と思った。テレビアニメの『鉄腕アトム』はそうなんだけど、原作は違う。手塚さんの発想がすごい。勝つ者よりも負ける者に、気持ちを入れる。弱者に対する愛情のあふれている」
丸山さんは、手塚治虫と一緒に仕事をする中で“手塚イズム”を受け継いだ。
「そばにいて、感じたことなのですが、本当に仕事は好きなんですよ。マンガを描くのが好きで、アニメも好き。アニメに関しても本当は自分でやりたいけど、手が回らないだけなんです。仕事が好きだから、できない仕事を取ってきてしまう。アクションもギャグも政治的なものも何でもやる。やることが面白い。それに。面白さを見つけるのがうまい。この世界観の中で何を言いたいのか? 何が面白いのか?を見つける人がうまくて、それは僕が手塚さんのDNAをわずかに受け継いでいるところです。僕がマッドハウスでやっていた時もいろいろなアニメをやるんです。見ようによっては支離滅裂。何でも好きだし、面白くしようとする。手塚イズムだと僕は思うんです」
「手塚さんが作るのは、エンターテインメントなんですよ」とも語る。
「何が面白いの? 面白さに何を込められるか?をやっていく。虫プロを作った当時、アニメのスタッフなんてほとんどいないけど、週一本のアニメを作ってしまった。僕もアニメについて素人だった。手塚さんは、人がいなかろうが、お金がなかろうが、時間がなかろうが、やってしまう。虫プロ時代、言うことが毎回違うもんだから、大変でした。言われた通りにやったら、怒られるんです。『言われた通りにやりました』と言ったら『僕はそんなことを言ってない』となる。多分、翌日になったら考えが変わっているんですよ。今こう思っているから、こんなことを言うはずがない……と。20代の頃、悔しくてね。言った通りにやるとダメなんだけど、言われたことを自分なりに解釈してやった時は、大体OKなんです。ものづくりの基本は、そこにあるということも教えてもらいました。僕もそれを踏襲していて、毎日言うことが違う。同じことを言っている方がおかしい。それでは進歩しない」
「鉄腕アトム」のテレビアニメの放送が始まった1963年から約60年がたった。人類は戦争を続け、AIの問題が取りざたされ……と「PLUTO」が令和の時代にアニメ化されることは必然だったのかもしれない。
「手塚さんの作品には常にそういうものがある。時代が後から追っかけてくるようなところがあって、この作品は特にその典型。戦争は永遠の問題だし、AIの発想がやっぱり優れている。手塚先生は千里眼を持っているんです。『PLUTO』はイラク戦争の時代に描かれ、今も説得力があり、古くならない。すごいことです。この作品ができたことに、何か運命があるという気もします。映像化して世界に向けて配信することは、日本のマンガ界だけではなく、大きな意味があり、運命だと思っている。そこは多少誇っていいのかな」
※手塚治虫/手塚プロダクションの「塚」は旧字体
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