坂泰斗×新垣樽助:アニメ「アンダーニンジャ」の生々しさ 独特の緊張感 「すごい空気感!」「こんなの初めて」

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 「ヤングマガジン」(講談社)で連載中のマンガが原作のテレビアニメ「アンダーニンジャ」がTBSほかで放送されている。「アイアムアヒーロー」などで知られるマンガ家の花沢健吾さんのマンガが原作で、戦後消滅したとされる忍者が現代でも暗躍している世界を舞台に、ニート同然の暮らしを送る末端の忍者・雲隠九郎がある重大な“忍務(にんむ)に身を投じていく……というストーリー。10月に放送を開始し、独特のリアリティーのある映像が話題になっている。声優陣の演技も独特のリアリティーがあり、生々しい。主人公・雲隠九郎役の坂泰斗さん、宅配便の配達員として潜伏する忍者・加藤役の新垣樽助さんに収録の裏側を聞いた。

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 ◇“色がない”演技とは?

 --原作の印象は?

 坂さん 花沢先生の作品をこれまでも読ませていただいていたのですが、「アンダーニンジャ」はこれまでにない作品だと感じました。よりオフビートで、シュールの極みといいますか、分かりやすい笑いどころではなく、普通に言っていることが何か面白くて、引っかかります。マンガを読みながら、間やしゃべり方を想像しますが、アニメになった時、僕らは正解を提示しないといけません。それが表現できるのか? 皆様の頭の中で再生していたこのテンポ感を出せるのか?と緊張感がありました。
 新垣さん オーディションの時に資料を見て、加藤の人となりが分からないところもあって、そこで初めて原作に触れました。花沢先生の絵柄によるところもあるのですが、第一印象は、目の奥が読めなかったんです。光があるのか、ないのか分からない。本当に笑っているのかも分からない。ぼんやりとそういう印象で読み進めていたんですけど、作品自体にちりばめられている要素が、実は本筋につながってくることがどんどん分かってきて、一読者として熱中して全部読んでしまいました。すっかりファンになりました。吸引力のある作品です。
 坂さん 「ルサンチマン」「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「アイアムアヒーロー」と花沢先生の作品をずっと読んできましたが、先生の作品の登場人物は、言ってしまえば、人間の汚い部分も出ていて、利己的で等身大で、憎めない。確かにこういう人いるな……と思う。説得力があるんですよね。
 新垣さん 汚い表情もあるんですよね。例えば、女の子は、汚い表情でも可愛く見えます。リアルなところがあり、ドキッとします。
 坂さん 本当にそうですね! みんなクセが強いけど、可愛い。
 新垣さん 生々しい色気があるんですよね。

 --「アンダーニンジャ」のアニメは、演技も生々しさを感じます。

 坂さん 実は、最初の収録はもっと生っぽかったんです。
 新垣さん この空気感はすごいぞ!とみんなが顔を見合わせました。
 坂さん 九郎に関しては、考えれば考えるほど、僕の我が出てしまう。原作を読んで、九郎は“色がない”と感じました。透明ではないんですけど、色がない。会話をする相手の色に染まるリトマス紙のようです。加藤と話している時は緊張感があって、加藤の厳しいキャラクター性がより際立つ。(日比)奇跡と話している時は、変だけどでも憎めないところが際立つ。相手の色を増幅させるキャラクターなのかな?と勝手に解釈をしていました。先日発売された「アンダーニンジャ」のファンブックの先生のインタビューで、九郎について「しゃべる相手の色を増幅させる」と書いてあり、間違っていなかったんだ!とうれしくなりました。共演している方々のお芝居を受けて、それを返して、さらに返してもらう……という掛け合いに挑もうとしました。こんなことは初めてでした。
 新垣さん アニメの場合、情報を加える、足し算することが多く、それが役者の共通認識としてあるのですが、今回はそこを調整しないといけませんでした。

 ◇足し算ではなく“出さないこと”を意識

 --加藤を演じる際に意識したことは?

 新垣さん オーディションの時、加藤のビジュアルを見たら、全部、配達員の格好だったんです。忍者だよね? 何の話だろう?と予想できませんでした。「キャリア(中忍以上)」と書いてあるけど、画(え)と説明がマッチしていないなと。それに、笑顔の設定画もあったんです。そこに引っ張られて、根はいい人なのかな?と思ったりして、フワッとした状態で、原作を読み進めると、全然違う(笑い)。これをお芝居として出すにはどうしよう?となりました。

 --どうやって演じようとした?

 新垣さん 九郎と共通しているところもあり、相手がいることで、加藤というキャラクターの輪郭がはっきりするところがあります。“出さないこと”を意識しようとしました。第1話の収録に臨む前は、相手をイメージすることしかできなかったので、すごく迷っていたんですけど、自分の中の結論としては、読者として俯瞰(ふかん)して読んでいる感覚を一旦捨てようとしました。加藤は、自分というものを絶対に見せなくて、何かの目的があって行動しているのは明らかなんだけど、そこが見えない。ただ、雲隠一族に対する思いは漏れている。見えていることだけを見ようとしました。九郎のことを知らないわけで、探ろうとして、ちょっときつい言葉をかけて反応を見ています。知らない状態なんだけど、知りたいと思っている。その方向性だけを決めて、見えていることだけを見て、それを重ねていこうとしました。

 --第1話の加藤の初登場シーンは緊張感がありました。

 坂さん ビビッとした緊張感がありますね。
 新垣さん 加藤が見せないようにしているところを出さないようにしました。足し算で芝居に意味を持たせたくなるけど、自分の勘ぐりや予想、解釈を入れると違うんです。加藤が見ているものに対して反応することに徹しました。
 坂さん 掛け合いで収録させていただけたこともありがたかったです。正直、別々の収録だったら成立しなかったと思います。
 新垣さん 本当にそうですね。最初の掛け合いは、本当に探り合いでしたし。
 坂さん どう出るのか分からない。それが緊張につながっています。

 --足し算をしないことが共通認識としてあった?

 新垣さん そうですね。ニュートラルにやるという結論を出したのは、もしかしたら僕だけかもしれない……と分からないまま、第1話の収録に行ったのですが、最初の屋上のシーンで、皆さんの演技を聞いて、よかった!そうですよね!となりました。
 坂さん そうそう。これだ!これだ!となりました。刺激的でしたね。
 新垣さん みんなも探っていましたよね。やっぱりそうだよね!と空気が練りあげられている感じが楽しかったです。

 --会話が淡々としているようにも聞こえて、それが独特のテンポ感になっているのも魅力的です。

 坂さん スイッチをオフにしているような感じですね。
 新垣さん 家で家族としゃべっているようなテンションなのかな?
 坂さん 途中の話数から参加したキャストの方が、現場の雰囲気を見て、こんな感じなんですか!?とびっくりしていたこともありました。足し算ではないので、初めてアニメの出演する方や新人の方だと大変かもしれません。
 新垣さん 足し算がなくて、声優としては両手を縛られた状態みたいになるので(笑い)。
 坂さん せりふのボールドもある程度、無視してもOKをいただけることもありますし。
 新垣さん お芝居を優先してくれるんですね。
 坂さん 皆さん、細かなアドリブを少しずつ仕込んでくるんですよね。やるぞ!というアドリブではなく、スッと入ってくるようなアドリブなんですよね。
 新垣さん ある程度、自由に演じさせていただき、それを画で表現していただいているんです。

 --アニメとして完成したものを見て感じたことは?

 新垣さん 安アパートの暗さがよく出ていて、土壁の汚れが表現されていたり、照明が部屋の真ん中を照らしているから四隅が暗くなっていたり……とリアルすぎて怖くなるくらいです。第3話ですごい!と思ったのが、川戸さんが靴下で屋上の瓦を踏むシーンです。靴下の崩れ具合、瓦の音もリアルで、そういう細部も生々しいんです。キャラクターの動きも生っぽさがあります。この動きに対して、アドリブを入れないともったいないな……と思いました。入れておいてよかったです。
 坂さん きっと監督の中で全部計算をして、僕らのアドリブを拾ってくださっていたんですよね。

 ◇意外な二人!?

 --互いの役者としての印象は?

 坂さん この業界に入って最初の頃、ある作品で新垣さんとご一緒させていただいたことがあったのですが、本当に面倒見がよくて、優しくて朗らかなんです。人として、役者としてすごくすてきな方です。
 新垣さん うれしいな。落ちこんだ時に、これを読もう(笑い)。
 坂さん 柔らかいイメージが強かったので、加藤を演じられると聞いた時、想像できないところもありました。でも、アフレコでご一緒させていただくと、加藤は新垣さん以外、考えられなくなりました。大人じゃないと出せない緊張感、落ち着きがあるんですね。若手がクールな緊張感を出そうとすると、格好よくなりすぎてしまう。もちろん加藤は格好いいんですけど、ピリついている感じがすごいんです。これまで新垣さんと共演させていただいた時からは、考えられないような雰囲気でした。新垣さんは普段、朗らかに包み込んでくださる方ですし。
 新垣さん 坂君とは以前、共演させていただいた時、初々しくて若々しく、ニコニコしていて、すごくいい子だな!と思っていました。その時、演じていたのは素直ないい子だったので、今回はびっくりました。坂君がやるんだ!?と予想できませんでした。九郎の底知れない闇を感じるお芝居で、しかも生っぽい。こんな一面があったんだ!とびっくりしました。新たな魅力を見せてもらって、すごく楽しかったです。
 坂さん お互い想像できないところが楽しかったですね。

 --お二人を含めて声優陣の想像できないような演技が魅力になっています。

 坂さん そうですね。ただ、大野さん役のチョーさんだけは、そうそう!となるんですけど(笑い)。
 新垣さん 満場一致でこの人だね!となる人がもう一人います。高千穂お姉さん役のくじらさん(笑い)。
 坂さん そうですね。最高なんです!
 新垣さん くじらさんなのか高千穂お姉さんなのか分からなくなる。
 坂さん テンションもそのままなんですよね。

 --最後に、今後の放送を楽しみにしている人に向けてメッセージをお願いします。

 坂さん 「アンダーニンジャ」ほど今後を語るのが難しい作品はないかもしれません……。原作を読まずにアニメから触れてくださった方は、ネットで検索をしないで、フラットに最終回まで見てほしいですね。
 新垣さん 確かにそう! 第1話の収録の時、みんなといろいろしゃべりたくなって、興奮してネタバレをしゃべったら、種﨑敦美ちゃんに「え!? まだそこまで読んでいないんですけど……」とびっくりされてしまったことがありました。悪いことをしました。配慮が足りないですね。謝りました。
 坂さん でも言いたくなる(笑い)。
 新垣さん それくらいの衝撃が待っています。これまであまり気にしていなかったことが、今後つながってくるので、全部を疑って見てください。
 坂さん 細かなせりふも面白いですし、ぜひ注目してください。次回予告を飛ばさずに見てほしいですね。シビれます。
 新垣さん 現場でも話題になっていたよね。
 坂さん 第7話のサブタイトルも注目ですね。どうなっているの!?となるはずです。

 「アンダーニンジャ」はまだまだ先が読めない展開が待っているようだ。今後の展開、坂さん、新垣さんら声優陣の演技にぜひ注目してほしい。

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