全領域異常解決室
第7話 すべてお話します 物語はここから始まった
11月20日(水)放送分
よしながふみさんの人気マンガを実写化したNHKの「ドラマ10『大奥』」(総合、火曜午後10時)のシーズン2に出演する愛希れいかさん。11月7日にスタートした「幕末編」で徳川幕府13代将軍・徳川家定を演じている。元宝塚トップ娘役で、2021年の同局の大河ドラマ「青天を衝(つ)け」」などへの出演はあるものの、映像の世界では「まだ1年生」と語る愛希さんが「大奥」家定役での挑戦を振り返った。
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「大奥」は、若い男性のみに感染する奇病の影響で、男女が逆転した江戸を舞台にした時代劇。「幕末編」では、女将軍をはじめとする幕府の人々が、“江戸城無血開城”や“大政奉還”のために奔走する姿を描く。
家定は、幼少期から実父の虐待に苦しみ、不遇な人生を送ってきたにもかかわらず、美しく聡明で現実を受け止める芯の強さを持つ。時代の移り変わりの中で、瀧山(古川雄大 さん)や阿部正弘(瀧内公美さん)と信頼を育み、己の人生を追求していく。愛希さんが台本を読んで抱いた最初の印象は「とても複雑な役」だった。
「父親(徳川家慶、高嶋政伸さん)から性的虐待を受けていて、人を信用できず、生きることをあきらめているけど、生き続けているってところで、すごく難しい役だなって。言葉にしてしまうと簡単になってしまうのですが、そう思って、その複雑さをどう表現しようかと悩みました」
家定は、最後の将軍ではないが、壮大な物語の終盤に欠かせない重要なキャラクターだ。演じるにあたって、監督から最初「家定は受け入れる強さを持った人です」とも言われた。
「強さっていろいろあるけれど、家定は受け入れることをちゃんとできる人。自分のさだめを受け入れて、こらえ続ける、それが彼女の強さだと思うと監督はおっしゃっていたので、そこは演じる上で一番に大切にしました」
家定は多くを語らないし、表情にも出さない。また、なかなか笑顔を見せないが、それは彼女の複雑な生い立ちが関係している。一方で、愛希さんは家定の愛情の深さに着目。家定自身が受けるべき愛情を受けてこなかったからこそ、「自分にとって大事な人は本当に大切にしたいのかもしれない」と思った。
「正弘に対して、瀧山に対して、胤篤(天璋院、福士蒼汰さん)に対しての愛情の深さ。特に、正弘のために将軍になった、とまで言える家定は、愛が深くて大きい人なんだと思いました」
映像作品への出演はあるものの、2018年11月の宝塚退団以降も役者としての主戦場は舞台やミュージカルとなっていた愛希さんは、今回の「大奥」の家定役では“ある賭け”に出てみたという。
「舞台って、しっかりと稽古(けいこ)期間があって。そこで作り込んでいくというか。相手と何回も合わせて、一つのものを作り上げる。開幕してからもまだまだ深めるもの。でも映像の現場では、その撮影する瞬間で表現しなくてはいけないので、手前で作り込みすぎてしまうと、現場でガチガチになって順応できなくなってしまうんじゃないかと思ったんです。とにかく原作を読んで、原作から感じた最初の感情を忘れず、自分自身はフラットにナチュラルに行ったらいいかなって思って。それは“賭け”ではあったのですが、挑戦してみました」
現場でもなるべく肩の力を抜くことを意識。愛希さんは「(役作りの)根底には家定が抱えるものや思いがあるのですが、それさえ忘れなければと『身をゆだねる』という賭けに出てみました」と明かす。
「ドラマは1から10まで順に撮るわけではないので、その前は、どういう感覚でどう演じていて、声や表情はどれくらい出していただろうかっていうのは正直、不安にはなりましたし、今もちゃんとつながっていただろうかと不安に思ってはいるのですが……。でも舞台とは違う挑み方をしたことによって、その瞬間に生まれるもの、こんなに言葉を交わしていなくても、会ってすぐにお芝居に入ったとしても、それでも、ここまでできるんだって。もちろん私一人でやれたことではないのですが、相手からもらえるものによって、ここまで自分の感情が動くんだってことに気づかされました」
監督の演出や共演者の演技に「身をゆだねる」という賭けに出た結果、新たな発見もあったという愛希さん。
「いまこの瞬間に起きたことがカメラに収められているという意味で、映像もまたライブだなってすごく感じました。舞台とは違った作り方の中での生な感じが、とても面白くて、すごく勉強になりました」
愛希さんが今回、「大奥」の世界の中で、家定として生きるにあたって、もう一つ大切にしたことがある。それは「振り返らない、引きずらない」だ。
「演じてみてオーケーとなったら、とにかくそれを信じる。あそこダメだったな、とか振り返りすぎない。もちろん、反省すべきところは反省するのですが、それを引きずらないで、なるべく次へ次へと気持ちを切り替えることにしました。宝塚時代も知ってくれていて、今の事務所に入ってからずっと見てきてくれたマネジャーさんのアドバイスで、今回の『大奥』も話し合った上で出演を決めさせていただいたの、その言葉を心にとめて挑みました」
※高嶋政伸さんの「高」ははしごだか