解説:Ado、YOASOBI、米津玄師…アニメ×主題歌が踏み出すシナジーの新地平

アニメ主題歌の存在感や、作品との盛り上がりのシナジーも大きく変化してきました。
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アニメ主題歌の存在感や、作品との盛り上がりのシナジーも大きく変化してきました。

 以前からあった人気アーティストとアニメのタイアップだが、昨今は人気アニメ「【推しの子】」のオープニングテーマ「アイドル」が、国内外で大ヒットするなど、新たなフェーズに入ってきている。これまでと何が違うのか、アニメコラムニストの小新井涼さんが解説する。

ウナギノボリ

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 今年話題となった「【推しの子】」とYOASOBIの「アイドル」や、アンコール上映も盛り上がる「ONE PIECE FILM RED」とAdoさんの「新時代」など、昨今アニメと注目アーティストによる楽曲の人気が相乗効果を産み、作品がより一層盛り上がる機会が増えています。アニソン以外も手がけるアーティストによるタイアップは昔から頻繁に行われてきましたが、昨今のそうした盛り上がりには、従来とどのような違いがあるのでしょうか。

 まず思い浮かぶのは、“楽曲が初めからアニメの主題歌としても認識されている”点です。その背景としては、昨今のアニメブームにより、アニメファン以外の層もアニメやその主題歌にこれまで以上に精通し、興味を持つようになったことが大きいと思われます。

 前述の通り、アニソン以外も手がけるアーティストによるタイアップは昔から頻繁に行われてきたため、実はこのアニメブーム以前から、音楽番組やラジオ等でも、“アニメの主題歌が流れること”自体は少なくありませんでした。しかし以前は、作品のタイトルこそ紹介されど、普段アニメを見ない人や、もしかしたら紹介する番組サイドにとってさえ、その楽曲はアニメの主題歌というより“アーティストの楽曲”といった認識の方が強かったように思います。ましてやそんな中で、楽曲を聴いたからといって普段アニメを見ない人たちが「そのアニメを見てみよう」となるかというと……その可能性もいわずもがなです。

 しかし、多くの人がアニメに触れるようになった今では、楽曲が音楽番組等で紹介される際も、話題作の主題歌とあればその点もしっかりアピールされるようになりました。加えて、サブスクリプションサービスなどで気軽にアニメが視聴されるようになったので、楽曲を聴いた視聴者も「今これが話題なんだ、見てみようかな」「サブスクにあるかな」といった興味が生まれる機会がかなり増えたのではないでしょうか。

 このように、“楽曲が話題になることで新規層が増え、作品もより一層盛り上がる”という作品と楽曲の双方向的な相乗効果が、これまで以上に大きくなってきていると考えられるのです。

 もうひとつのポイントとしては、“ネット発信を得意とするアーティスト”の台頭があげられます。AdoさんやYOASOBI、米津玄師さんをはじめ、単に自身のチャンネルを持っているだけでなく、ネットでの発信や楽曲展開、それをキャッチするネットユーザーとも親和性の高いアーティストは、もともと拡散力にも事欠きません。加えて現在、多くの作品でノンクレジットのOPやEDがネット公開されているので、楽曲MVに並んでそうしたアニメ映像が検索にヒットすることで、これもまた“楽曲がアニメの主題歌として認識されながら広がっていく”ひとつの要因にもなっているように思います。

 そしてなにより大きいのが、そうしたさまざまなオンラインプラットフォームを介して、楽曲が世界的に広がっていく点です。昨年Adoさんが歌う「新時代」がApple Musicのグローバルチャートで1位 を獲得したことや、YOASOBIの「アイドル」がアメリカのビルボード・グローバル・チャートGlobal Excl. U.S.で首位を獲得し、話題になったことも記憶に新しいと思います。

 こうした状況も、オンラインプラットフォームを介して楽曲が世界的に広がるようになった状況に加え、クランチロールをはじめとする海外の配給・配信会社による現地での作品展開が盛んになってきていることで生じている、主題歌と作品との盛り上がりの相乗効果の結果でもあるのでしょう。

 また、前述の通り、アニソン以外も手掛けるアーティストとのタイアップ自体は以前から頻繁に行われており、「シティーハンター」の「Get Wild」や、「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」の「そばかす」など、アニメの主題歌としての認知度が高い楽曲も存在していました。

 しかし、今の方が以前よりも作品のイメージに近い楽曲が増えているのは間違いないところでしょう。「アイドル」は、芸能界を舞台にした【推しの子】の世界観をほうふつとさせますし、「新時代」も「ONE PIECE FILM RED」のメインキャラクター、ウタとは切っても切り離せない関係にあります。anoさんが歌った「チェンソーマン」の第7話エンディングテーマ「ちゅ、多様性。」も同話の衝撃的なシーンを思わせるものでした。YOASOBIが“小説を音楽にするユニット”であることや、米津さんは作品解釈を楽曲に反映するのが巧みだったりと、前述のアーティストが重宝されるのは、ネットでの拡散力だけでなく、こうした作品との親和性も期待されてのことだと思います。

 昨今の主題歌×作品の盛り上がりには、“楽曲が初めからアニメの主題歌として認識されている”ことで、アニメ放送中からアニメファン以外も巻き込んだ即時的な盛り上がりが生まれている点や、さらにその盛り上がりが“ネット発信を得意とするアーティスト”により世界規模にまで広がっているといった特徴があるようです。このことは、アニメを取り巻く環境や社会の変化と共に、アニメ主題歌の存在感や、作品との盛り上がりのシナジーも、大きく変化してきたことを示す結果でもあると思います。

 もとよりアニメには欠かせない存在である主題歌ですが、今後は作品の盛り上がりや広がりにおいても欠かせない重要な要素として、より一層作品と共に大きな注目が集まるところとなっていくことでしょう。

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 こあらい・りょう=KDエンタテインメント所属、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約10年前から継続しつつ、学術的な観点からもアニメについて考察・研究し、大学や専門学校の教壇にも立つ。アニメコラムの連載をする傍ら、番組コメンテーターやアニメ情報の監修で番組制作にも参加している。

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