解説:「鬼滅の刃」 人間だった鬼の悲しき過去 炭治郎の優しさに触れた鬼たち

「鬼滅の刃」のコミックス第2巻のカバー
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「鬼滅の刃」のコミックス第2巻のカバー

 吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんの人気マンガが原作のアニメ「鬼滅の刃」。人間と鬼との戦いの中で家族、仲間の絆を描くストーリー、迫力あるバトルシーン、圧巻の映像美などから世界中のファンを魅了し続けており、宿敵である鬼たちの過去が丁寧に描かれることも魅力の一つとなっている。主人公・竈門炭治郎の妹・禰豆子が鬼に変異してしまったように、宿敵である鬼たちもまたかつては人間だった。倒した鬼たちの過去に触れ、最期に優しさを見せる炭治郎に心動かされた人も少なくないだろう。鬼の“人間時代”を解説する。

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 ◇炭治郎が鬼から感じる“悲しい匂い”

 炭治郎が、初めて鬼の過去に触れたのは、「竈門炭治郎 立志編」の鬼殺隊の入隊試験・最終選別での手鬼との戦いだった。手鬼は、鬼殺隊により藤襲山に長年閉じ込められている鬼で、最終選別に訪れた人間を何人も食ってきた。炭治郎が鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)の元で修業している時に出会った錆兎(さびと)、真菰(まこも)も手鬼の犠牲者だ。

 炭治郎に倒された手鬼は最期、怖がりだった幼少期に兄に手を握ってもらっていた人間時代を思い出す。炭治郎は朽ちていく中で涙を流す手鬼から“悲しい匂い”を感じ取り、手鬼の手を握って「この人が今度生まれてくる時は鬼になんてなりませんように」と祈る。

 炭治郎はその後も、さまざまな鬼の悲しみに触れることになる。炭治郎が任務で訪れた山奥の屋敷で対峙(たいじ)した鬼、響凱(きょうがい)の過去も切ないものだった。人間だった頃、文筆家だったと思われる響凱には、書いた原稿を踏みつけにされた過去があった。炭治郎に自身の血鬼術を「すごかった」と言われ、涙を流しながら「小生の血鬼術も鼓も認められた」とモノローグで語って消滅するシーンは印象的だった。

 那田蜘蛛(なたぐも)山で戦った下弦の伍の鬼・累は、子供時代に鬼となり、自分を殺そうとした親を手に掛けた過去があった。家族の絆を求め続けた累が朽ちる時、炭治郎はその背中にそっと触れる。累は「陽(ひ)の光のような優しい手」の温かさを感じ、最期を迎えた。

 ◇堕姫と妓夫太郎の壮絶な過去 「日本一慈しい鬼退治」のこの先は?

 鬼の中でも、壮絶な過去が描かれたのが、「遊郭編」に登場した上弦の陸(ろく)の堕姫(だき)と妓夫太郎(ぎゅうたろう)の兄妹だ。遊郭の最下層で生まれた妓夫太郎は、周囲や親にすら疎まれ暮らしていたが、美しい容貌の妹・梅(堕姫の人間の頃の名前)が生まれてからは、自身のケンカの強さを武器に取り立ての仕事を始め、人生が好転し始める。しかし、梅は、客の侍の目玉をかんざしで突いて失明させ、その報復として縛り上げられ生きたまま焼かれてしまう。丸焦げになった梅を発見した妓夫太郎は絶望し、自分を殺そうとした侍を返り討ちにする。その後、上弦の弐の童磨(どうま、当時は上弦の陸)と出会い、鬼となった。

 鬼殺隊との戦いに敗れ、首を斬られた後、互いに罵り合う堕姫と妓夫太郎に炭治郎は「本当はそんなこと思ってないよ。全部嘘だよ」「仲良くしよう。この世でたった二人の兄妹なんだから」と語りかける。鬼になってしまった妹を持つ炭治郎は、妓夫太郎と堕姫のことを他人事とは思えず、声を掛けずにはいられなかったのかもしれない。

 「鬼滅の刃」の原作が連載中だった2017年、「日本一慈(やさ)しい鬼退治」というキャッチコピーが付けられたことがあった。それは、悲しい過去を持つ鬼たち、敵ながらもそんな鬼たちに情けを見せる炭治郎の優しさを表現したものだったのではないだろうか。5月からは、新作テレビアニメ「柱稽古編」がスタートし、無惨との戦いに備えた柱稽古が描かれる。今後、炭治郎たちは、強大な鬼たちと対峙することになるだろう。どのような鬼と人間のドラマが待っているのか、注目したい。

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