森田成一:「デリコズ・ナーサリー」 ダリ・デリコ役の恐怖と冒険 吸血種の貴族の子育てを絶妙な「さじ加減で」

「デリコズ・ナーサリー」の一場面(C)末満健一/デリコズ・ナーサリー製作委員会
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「デリコズ・ナーサリー」の一場面(C)末満健一/デリコズ・ナーサリー製作委員会

 人気演劇「TRUMPシリーズ」の完全新作テレビアニメ「デリコズ・ナーサリー」が8月にTOKYO MXほかで放送をスタートした。「TRUMPシリーズ」は、劇作家の末満健一さんによるオリジナル演劇で、2009年に第1作「TRUMP」が上演され、吸血種と人間種が共生しながらも反目する社会で、伝説の吸血種“TRUMP”の不死伝説に翻弄(ほんろう)されていく人々の血と命を巡る1万年以上にも及ぶ物語が描かれてきた。「デリコズ・ナーサリー」では、シリーズの人気キャラクターであるダリ・デリコを中心に吸血種の貴族による“子育て”が描かれる。ダリ・デリコを演じる森田成一さんに作品の魅力、演技のこだわりを聞いた。

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 ◇ダリ・デリコ役 「大真面目にコミカルを」

 「デリコズ・ナーサリー」は、「TRUMPシリーズ」初となるアニメ作品で、森田さんが名門貴族・デリコ家の当主で、将来を嘱望されている血盟議会のエリート議員のダリ・デリコを演じるほか、ダリと同期の血盟議会議員のゲルハルト・フラを小西克幸さん、エンリケ・ロルカを下野紘さん、ディーノ・クラシコを佐藤拓也さんが演じ、豪華声優が集結した。4人の吸血種の貴族が子育てと殺人事件解決に奮闘することになる。

 森田さんが演じるダリ・デリコは、第1作「TRUMP」のメインキャラクターであるウル・デリコの父で、「グランギニョル」「COCOON」といったシリーズ作品に登場してきた。森田さんは「TRUMPシリーズ」自体にも強く興味を引かれたという。

 「僕は、ゴシックなホラーが大好きなのですが、中でもバンパイアはすごく魅力的で、いろいろな作品で題材にされてきました。『TRUMPシリーズ』では、新しいバンパイアの形として吸血種というものを作っています。そこに非常に興味が湧きました。さまざまな作品で吸血種の1万年以上にもおよぶ壮大なクロニクルが描かれていて、その中で、吸血種、人間種、ダンピール(吸血種と人間種の混血)の悲喜こもごもあり、ミステリー要素もあれば、ホラー要素もある中で、今回“子育て”という全く色合いが違うものを題材にしている。そこが面白いなと思いました」

 森田さんは「デリコズ・ナーサリー」のダリ・デリコ役のオーディションを受けることになり、「やっと吸血種ができるんだ、といううれしさがありました。さらに、この業界にいながら何気に役が来ない貴族。森田成一というと、貴族ではなく大きな剣を振るってバサバサ斬る役みたいなイメージがあるようで。そうじゃないぞという(笑い)」と、これまであまり演じたことがなかった役柄にそそられるものがあったという。

 オーディションでは、自身にとっての“冒険”もあった。

 「自分のこだわりですね。『俺だったらこうやりたい』みたいなものがあって、コメディーっぽい部分をすごく強調して演じたんです。ダリ・デリコは、吸血種であり貴族という大前提があるので、そこからコミカルというと全く違う路線になってくるので、どうしようかな?とは思ったのですが、『いや、ここは大真面目にコミカルをやったほうが絶対に面白いだろう』と。オーディションで落ちるとしたらそこだろう、逆に落ちなければそこだろうというような賭けだったので、役が決まった時は、とてもうれしく思いました」

 ダリ・デリコは、これまでのシリーズでさまざまな俳優が演じてきたが、森田さんは「そこに引っ張られるのではないか?という恐怖があったので、役が安定するまでは(舞台シリーズを)見るのはやめよう」とあえて目を通さなかった。

 「ものすごく熱狂的なファンの方たちがいらっしゃるシリーズですから、その方たちのダリ・デリコのイメージがある中で、全く違う人間が演じるダリ・デリコがやってきましたと“異質な転校生”がやってくるわけですから、その恐怖感は大きかったです。ただ、『僕だったらダリ・デリコをこう演じる』ということを自信を持ってやりたかった。実際、後になって過去シリーズを見たら、僕が演じるダリ・デリコの解釈とそんなに差異が見られず、共通項もたくさんあったので、ほっとしましたし、うれしかったです」

 ◇貴族の子育てを演じる難しさ 一筋縄ではいかない

 森田さんは、「デリコズ・ナーサリー」のダリ・デリコを演じる上では「子育てに不慣れ」が重要なキーワードとなっていると説明する。第1、2話では、ダリ・デリコたちが血盟議会から命じられた任務“仕事”と、父としての“子育て”を両立させようとするも、任務のための会議を行っているかたわらで、幼い子供たちが泣き出し、父たちがあやす……というようなドタバタとした場面も描かれた。

 「一般家庭でも大変な子育てを、一切そういうものは乳母に任せていた貴族がやるとなると、桁違いに大変な話になってくる。そこの面白さは見ていただきたいですし、僕としても演じるのが難しかったところです。“貴族としてのお父さん像”というのが難しい。僕だけではなくて小西くん、下野くん、佐藤くんも苦労していました。収録のディレクションでも、『そこまで子供に寄らないでほしい』『そこまで優しくならない』と言われて、さじ加減を求められました。子供との距離感がなかなか一筋縄ではいかない」

 第2話では、仕事中のダリが子供たちに何をしているのか聞かれて「仕事だ」と答えるシーンが描かれたが、森田さんは「子育てに慣れていないことが表れているコミカルなシーン」と語る。

 「仕事が何か分からない子供に『これは仕事だ』と言って済ませようとしていること自体が、慣れていない。ダリとしては、子供に寄り添っているつもりなのですが、もし普通のお母さんがその姿を見たら『何をとんちんかんなことを言っているの?』となる。それは、この作品の面白さでもあり、人のおかしみの一つなのかなと」

 ◇単なる子育て奮闘記ではない アニメに舞台的演出も

 森田さんは「デリコズ・ナーサリー」は、「単なる子育て奮闘記ではない」とも語る。ダリたちは慣れない子育てに奮闘する一方で、ちまたで起こっている吸血種を狙った謎の連続殺人事件の調査に追われることになる。

 「子育てと同時進行で事件が起こっていて、それも解決しなきゃいけない。そこにはやはり重厚さが必要ですし、政治的なもの、種族としての葛藤と、いろいろなものがある。『デリコズ・ナーサリー』は、第1作『TRUMP』の13年前が舞台で、シリーズとしては序章。ほかのシリーズ作品にも登場するウル(デリコ家の次男)、ラファエロ(デリコ家の長男)の今まで語られていない部分がアニメで描かれるというのが面白いと思います」

 「デリコズ・ナーサリー」は、舞台シリーズのアニメ化ということもあり、「舞台のように作りたい」というコンセプトで作られており、「舞台的な演出も見どころの一つ」と語る

 「例えば、舞台では、あるシーンでメインになる人物が話していると、その周りでもほかのキャラクターが芝居をやっていますよね。あれをアニメでやりたいと。普通、アニメでは、メインの人物だけ声を抽出して、後ろに映っているキャラの声は聞こえないようにする場合が多いのですが、今回は画面に映っているキャラクターの声が全部聞こえる形にしている。その演出のためもあって、収録はお父さんチームと子供チームに分けられていたんです。収録で全員が一斉にしゃべったらカオスですから(笑い)」

 「TRUMP」シリーズの新たな物語がアニメで描かれる「デリコズ・ナーサリー」。森田さんが演じるダリ・デリコの“父”としての奮闘に注目したい。

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