ダンダダン
第12話「呪いの家へレッツゴー」
12月19日(木)放送分
「第26回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞に選ばれたことも話題の魚豊さんのマンガが原作のテレビアニメ「チ。 ―地球の運動について―」が、NHK総合で10月に放送を開始した。原作は、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で2020~22年に連載され、15世紀のヨーロッパを舞台に異端思想の地動説を命懸けで研究する人々を描く異色のマンガとして話題となった。なぜ地動説を題材にしたのか、「チ。」という独特のタイトルの由来、作品に込めた思いを原作者の魚豊さんに聞いた。
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「チ。 ―地球の運動について―」は、飛び級で大学への進学を認められた神童・ラファウが、謎めいた学者フベルトと出会うところから始まる。異端思想に基づく禁忌に触れたため拷問を受け、投獄されていたフベルトが研究していたのは、宇宙に関する衝撃的な“ある仮説”地動説だった……と展開する。
作者の魚豊さんは、1997年、東京都生まれ。2018年に陸上競技の100メートル走を題材とした「ひゃくえむ。」(講談社)で連載デビューした。「ひゃくえむ。」に続く連載2作目として「チ。」を手掛けたのは、「知性と暴力の話を描いてみたい」という思いからだったという。
「『ひゃくえむ。』が青春スポ根だったので、人が死ぬようなスリリングな物語、知性と暴力の話を描いてみたいと思いました。そういうテーマを描けるのが創作の醍醐味、面白さだと思っていたので挑戦してみたいと」
魚豊さんは、高校の倫理の授業をきっかけに哲学に興味を持ち、大学の哲学科に在籍していたこともあり、「ニーチェやカント、18世紀頃のドイツの観念論が好きでした」と語る。学生時代には、三島由紀夫の「三島由紀夫スポーツ論集」にも影響を受けた。
「三島に関しては、その人生に興味を持ちました。作家は、自分で考えたことが世界に影響力を持ってほしいと考える人だと思うんです。それが第一次世界大戦前くらいまでは有効性を持っていたと思うのですが、どんどん思想や信念はなくなり、全部が金銭に交換可能なコモディティー(画一化された商品)になっていった。そんな世界になった時に『この虚しさの中で何書けばいいの?』と乗り切れなかった人なのではないかと。僕はノンポリの人間なんですけど、そうした悲哀は分からなくもないというか。生まれてきた理由、死ぬ理由を見つけたくなってしまうというのは、僕も三島の1000億分の1くらいの作家として、自分事として何かを感じるんです」
三島由紀夫から受けた影響が「チ。」に結び付いている部分もあるという。「チ。」においても、地動説の研究のために命を懸ける人々が登場し、生まれてきた理由、死ぬ理由を問う場面が描かれる。魚豊さんは、自身が強く引きつけられた哲学、生と死という題材を「『チ。』で全力で出力できればなと思って描いていました」と語る。
「知性と暴力」を描こうとした魚豊さんが、それに合うモチーフを探した時、「ぴったりなんじゃないか」と選んだのが地動説だった。「チ。」は、C教が力を持つP王国が舞台で、宇宙の中心は地球だとする天動説が信じられ、それに背く地動説は異端として迫害されている。史実として、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイは宗教裁判で有罪となっているが、実は、地動説は迫害されていなかったという説もあるという。魚豊さんは、そうした地動説にまつわる“勘違い”に注目し、フィクションとして描くことにこだわった。
「地動説を選んだのは、迫害された歴史がなかったというのが面白かったからです。それは勘違いしているってことですよね。その勘違いは天動説に対しても言えることで、人間は世界を勘違いするんだけど、その勘違いからしか何も始まらない。迫害されていなかったのに、迫害されていたと思われている、その間に物語の入る余地がある。以前、佐藤康邦の岸田劉生論の中に『あらゆるものの始まりは勘違いだ』とする文章を読んだことがあるのですが、ある勘違いに傾倒して、魅力を感じて暴走することから始まっていて、それがない研究や歴史はないと。それは『チ。』を描いた後に読んだのですが、その気持ちで描いていたなと思ったんです」
勘違いから出発した理論の真偽はさておき、納得できてしまったとしたら……。「チ。」でも、登場人物たちが地動説に触れ、禁忌、異端だと思いながらも、あらゆる理由から納得してしまう描写が多く登場する。
「ある情報があって、それをつなぎ合わせて一つの筋として納得できてしまうこと。それはやばい方向にいったら陰謀論にもなる。ただ、自分がマンガを描いていることと、陰謀論の間の差は限りなく無くて、唯一差があるとすれば、僕たちは『これはフィクションである』と言った上で戦い始めるということ。僕は、フィクションだからこその説得力、与えられる感動って何があるんだろう?ということにすごく興味があるので、まさに『チ。』はそういう話というか。フィクションということで、はしごを外された、だまされた感覚になったけど、マンガを読んで感じたあの気持ちは何?と。その気持ちに折り合いをつけられるのか、つけられないのかも含めて、フィクションの面白さがあると思ったので、こういう題材を選びたかったんです」
魚豊さんは約1年の構想の末、「チ。」の連載をスタートした。インパクトあるタイトルには、三つの意味が込められているという。
「大地の『チ』、血の『チ』、知性の『チ』。この三つが渾然一体となった作品にしたかった。『。』を付けたのはそもそも句点が好きという理由もあるのですが、それとは別に地球そのものの形のメタファーにもなるし、『。』が文の停止を意味するから。『チ。』のロゴには、句点に軌道が入っているんですけど、『停止していたものが動き出す』というメタファーにもなるので、デザイン的なところも含めて『チ。』というタイトルにしました」
地動説を題材に知性と暴力を描いた「チ。」。豪華スタッフ、キャストが集結したテレビアニメも話題になっている。魚豊さんは自身の作品がアニメ化されることが夢だったといい、「すごくよかったですね。動いているし、色が付いているし、あとしゃべっているし、みたいな。やばかったです」と声を弾ませる。「プロの方にプロの仕事をしていただいているので、僕の中で期待は既に達成されている感じです。音楽と声と絵がどういう感じで合体するのかな、楽しみにしています」と語っていた。
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