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魚豊:「チ。」“不思議”な最終章に込めたもの 「変な嘘をつきたかった」 フィクションとリアルの共犯関係

「チ。 ―地球の運動について―」の最終話「?」の一場面(C)魚豊/小学館/チ。-地球の運動について-製作委員会

 「第26回手塚治虫文化賞」のマンガ大賞に選ばれたことも話題の魚豊さんのマンガが原作のテレビアニメ「チ。 ―地球の運動について―」の最終話「?」が、NHK総合で3月15日に放送された。15世紀のヨーロッパを舞台に、地動説を巡る人々の生き様、死を描き、多くの視聴者に衝撃を与えた同作のクライマックスは、リアルとフィクションがない交ぜとなり、これまでとは違った驚きを感じた人も少なくなかったのではないだろうか。作者の魚豊さんに最終章について語ってもらった。

 ◇「?」な最終章 「不思議にしたかったんです」

 「チ。」は、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で2020~22年に連載され、15世紀のヨーロッパを舞台に異端思想の地動説を命懸けで研究する人々を描く異色のマンガとして話題となった。

 章ごとにメインキャラクターが変わり、第1~3章では、舞台設定が「15世紀(前期) P王国」とされてきたが、最終章では「1468年 ポーランド王国都市部」と具体的な年号、国が明示された。フィクションとして描かれてきた「チ。」は、最終章でリアルと交わった。魚豊さんは「これしかないだろう」と考え、最終章を描いたという。

 「『チ。』を描き始めた段階から、フィクションとリアルの影響をすごく考えていたので、ラストはこうなっていくべきだろうと。フィクションとリアルは共犯関係で現実を作っていくと考えています。純粋に成立する嘘はあり得ない。その嘘が現実に作用して、さらにその現実を基にフィクションは作られるわけですよね。そうした円環、循環、共犯みたいなものを描きたかったんです」

 最終章は何度読んでも、「これはどういうことなのだ?」と不思議な感覚にさせられる。それを魚豊さんに伝えると、「うれしいですね。不思議にしたかったんです。あと、変な嘘をつきたかったというか」と笑顔を見せた。

 「『今自分が読んでるものって何?』と。フィクションに対して『これは嘘なの?』ということの不思議さというか、それはメタ文学の面白さだと思います。ウロボロスみたいに無限になっている合わせ鏡性というのは、現実もそうだし、自分が誰かと対峙(たいじ)する時もそう。自分が思っている自分と、相手が思っている自分は、どちらが本当の自分なのだろう? しかも“相手が思っている自分”について思っている自分は何?と。この無限循環から近代的自我が生まれてくるのがすごく面白いなと思っているんです。作品と向き合うこともそれと同じで、自分の世界が相対化される。作品の中の世界は現実には存在しないのだけど、自分の世界に影響を与える。さらに、自分の世界もこの作品に影響を与えている。そうしたインタラクティブがすごく面白い。その不思議さこそが、今の僕たちが生きているこの世界の不思議さにつながっていると思っているので、最終章に対して『不思議』と思ってもらえるのは、ありがたいですね」

 “不思議”な最終話のラストシーンは「?」で締めくくられた。

 「その不思議と思う感覚は、今の僕たちの世界に対する驚きとか、『なんで生きてるんだろう?』という感覚と近いと思うんです。フィクションを読んで『何で生きてないのに、生きてるっぽく見えるんだろう』ということも全部が謎なので。その“謎”に関わる職業が、マンガ家や出版社だということも、すごく不思議だと思うんです。フィクションに触れた人は、その場にいない人のことを考えて、しゃべっていないことを思っている。それってすごく不思議で、すごく楽しいじゃん?と。『それしか描くことはないだろうな、マンガ家は』と思っているんです」

 魚豊さんは、最終章について「そこにどういう意味があるか?というのは見て、感じていただければ」と話し、「僕自身、読んでいる時に、その世界や人生に“参加する”面白さがある作品が好きなんです。『解けたら終わり』じゃない、クイズになっていない感じがすごく好きなんです」と語る。

 「チ。」の最終章には、「あのラファウは、第1章に登場したラファウと同じ人なの?」「何がフィクションで、何がリアルなの?」と「?」が多く、やはり答えが知りたくなる。だが、「解けたら終わり」じゃないのだという。「チ。」は、無限に考え続ける機会を与えてくれる作品なのかもしれない。

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