穏やか貴族の休暇のすすめ。
第3話 「レイからの手紙」
1月28日(水)放送分
東野圭吾さんの小説が原作の劇場版アニメ「クスノキの番人」(伊藤智彦監督)の音楽を手掛ける菅野祐悟さん。「ガリレオ」シリーズや「新参者」などこれまで数々の東野さん原作の実写作品の音楽を手掛けたことでも知られている。「クスノキの番人」の音楽は、心の奥にある言葉にできないような繊細な感情が呼び起こされ、静かに胸を打つ。菅野さんに「クスノキの番人」の音楽への思いを聞いた。
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「クスノキの番人」は、理不尽な解雇により職を失った青年・直井玲斗が、謎多き“クスノキの番人”となり、さまざまな事情を抱える人と出会う……というストーリー。玲斗は、職を失い、追い詰められた末の過ちで逮捕される。クスノキの謎は、玲斗の人生をも巻き込みながら、思いもよらぬ真実へと導かれていく。1月30日に公開された。
月郷神社にたたずむクスノキは神秘的で人知を超えた自然の壮大さを感じさせる。アニメのメインテーマは、そんなクスノキの存在感を表現している。クスノキが教えてくれる日常の尊さ、受け継がれる思い、人と人との縁などを表現しているようにも聞こえる。
「設定は“和”を感じますが、“和”の要素はあまり入れていません。『クスノキの番人』の主人公・玲斗は、現代の男の子です。彼の鬱屈した思い、青さを表現したかったんです。音楽で玲斗の鬱屈した思いや青さ、彼の成長を表現しようとしました。聴く場所によって聴こえ方が全然変わってくる音楽で、ニュートラルなんです。残響のあるシンプルなピアノのメロディーから始まり、そこには何もない。何も起きないシーンで流れてもおかしくないし、感動的なシーンで流れてもいい。何でも受け止められる受け皿みたいな曲をメインテーマにしました。彼が成長して、思いがあふれた時に曲が流れると、思い出が走馬灯のように流れていく。そういう作り方をしています」
「クスノキの番人」は、ピアノ演奏シーンがあり、菅野さんがピアノ曲を書き下ろした。ネタバレになるため詳細は説明できないが、同作において肝になるシーンの一つとなっている。アニメを手掛ける伊藤智彦監督は、絵コンテに取りかかる前に、菅野さんにピアノ曲の作曲を依頼した。つまり、最初にできたのはピアノ曲だった。
「楽器の演奏シーンは、指の動きと音楽が一致していないといけないので、音楽がないと作れないんです。歌うシーンでもそうです。音楽ありきのシーンなので、音楽を先に作るのがスタンダードになっています。『クスノキの番人』のピアノ曲は、いろいろな人の思いが集約していることをイメージして作りました」
菅野さんは、伊藤監督が手掛けたアニメ「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」の音楽も担当している。伊藤監督にインタビューした際、菅野さんへの絶大な信頼について語っていた。
「伊藤監督からは、シーンに合わせて曲を少し伸ばしてほしいなどのリクエストはありましたが、曲が全然違うということはありませんでした。歌に関しては、制作する中で監督のイメージが変化してきたこともあって、作り直すことはありましたが、監督のイメージが的確なので、僕が読み間違えることはないんです。監督はシンプルに核心だけを伝えてくれる。それでいて、想像力の余白を残してくれるので、すごくやりやすかったです」
菅野さんはこれまでも“東野作品”の音楽を手掛けてきたが、「クスノキの番人」でしか表現できない音楽を目指した。
「東野さんの作品の音楽をたくさんやらせていただき、僕の思いも深い。伊藤監督の作品にも参加させていただいていますが、先入観なしでやっていこうとしました。作家性が強い監督の作品は、作曲家が引き寄せられてしまうことがあります。だから違う作曲家が作ったとしても似てしまうこともある。監督が誘導しようとしているところもあるんだと思います。それに乗っかりつつ、引きずられすぎないように、新しい音楽を作りたいと思っていました。『クスノキの番人』は原作の小説がありますが、映像ならではの新しさやオリジナリティーもあります。そこを加味して音楽を作りたいと思っています。もちろん原作は大切です。一旦、原作を神棚にまつって、原作に引っ張られすぎずに作った方が僕はうまくいく」
菅野さんは、さまざまな実写作品やアニメの音楽を手掛け、数々の名曲を生み出してきた。実写とアニメでは音楽の作り方は違うのだろうか?
「アニメか実写かはあまり関係なく、コンセプト次第、監督によって変わってきます。監督が何を美しいと思っているかを僕が読み違えると、うまくいきません。30年近くこの仕事をしているので、僕がどういう音楽を作るかを分かっていてオファーをいただけますし、さすがに読み違えることもなくなってきました。その作品にしかないオリジナルの音楽が必ずあるはずだと思って作っています」
「クスノキの番人」は、まさに菅野さんしか生み出せないオリジナルの音楽になっている。
菅野さんは多作な作曲家で、しかも名曲だらけだ。“頭の中”がどうなっているのか気になる。例えば、小説を読めば、音楽が自然に流れてくるようなことはあるのだろうか? 最後に聞いてみた。
「そうですね。職業病だとは思います。今、僕はインタビューを受けているじゃないですか。もしここに音楽を付けるとしたら、インタビュアーの方の心情に音楽を付けるのか? 僕の心情に音楽を付けるのか? 立ち会っている方の心情もあります。状況によって音楽にはさまざまな方向性があって、頼まれてもいないのに、どんな音楽を付けるかを考えてしまうんです。だから、基本的に日常ではBGMを流さないようにしています。昔、贅沢をして、ハワイのリゾートスパでマッサージをしてもらった時『十何種類も音楽を選べる。海の音や風の音もある』と言われたんです。僕は海のさざ波だけでも音楽のことを考えてしまう。気持ちが休まらないので、申し訳ないのですが断って、無音でやってもらいました。キャンセル癖もついています。例えばスーパーに行って音楽がかかっていても、その音を聞こえなくできる耳のキャンセラーが付いてるんですよね(笑)」
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