ボカロ小説:女子中高生に大人気 ヒットの理由は?

女子中高生を中心に人気を集めているボカロ小説「カゲロウデイズ」1巻(左)と「悪ノ娘 黄のクロアテュール」
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女子中高生を中心に人気を集めているボカロ小説「カゲロウデイズ」1巻(左)と「悪ノ娘 黄のクロアテュール」

 シリーズ累計発行部数が200万部を突破した「カゲロウデイズ」(KCG文庫)など“ボカロ小説”と呼ばれるライトノベルが女子中高生を中心に人気を集めている。ボカロ小説とは、初音ミクなど音声合成ソフト「ボーカロイド(ボカロ)」で制作された“ボカロ曲”を小説化したもの。音楽を小説化する……という手法は一般的ではないため、イメージしづらいかもしれない。謎が多いボカロ小説の全容を解き明かすとともに、女子中高生から支持を集めている秘密に迫った。(毎日新聞デジタル)

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 ◇ボカロ曲がアニメのOPならボカロ小説は本編

 ボカロ小説の基となるボカロ曲の多くは、“P(プロデューサー)”と呼ばれる音楽制作者がボカロで制作した楽曲を「ニコニコ動画」などの動画配信サービスにアップしたもので、2007年の初音ミクの発売以降、急増した。ボカロ曲は、ファンタジックな世界を舞台に、初音ミクなどボカロキャラが活躍する……というアニメやマンガのような世界観を持った歌詞の作品が多く、“絵師”と呼ばれるクリエーターが手がけたイラストやアニメが付けられている。

 5分程度のボカロ曲は、例えるならアニメのオープニングのようなもので、ボカロ小説は、楽曲の歌詞や映像の世界観をモチーフに、そのイメージをふくらませて制作された“本編”ともいえるだろう。

 ボカロ小説のルーツといわれているのが、悪ノP(mothy)さんの人気ボカロ曲から生まれ、10年に刊行された「悪ノ娘」(PHP研究所)だ。悪ノP(mothy)さん自身が小説を執筆しており、楽曲の制作者が小説も執筆するという独特の手法は、ボカロ小説のスタンダードとなった。「悪ノ娘」は発行部数が20万部を超えるヒットとなったこともあり、続々と各社が参入。現在は40冊以上が出版されており、シリーズ累計発行部数が200万部を突破したじん(自然の敵P)さんの「カゲロウデイズ」シリーズという大ヒット作も生まれた。出版不況が叫ばれる中、ボカロ小説は一大ジャンルになりつつある。

 ボカロ小説は、ライトノベルのようにさまざまなジャンルの作品が出版されている。例えば「悪ノ娘。」はファンタジーだが、「桜ノ雨」(PHP研究所)は青春小説、「初音ミクの消失」(一迅社)はSF、「吉原ラメント」(アルファポリス)は時代小説というように多岐にわたっている。さらに、ボカロキャラが一切登場せず、オリジナルキャラクターを主人公としている「カゲロウデイズ」のような作品が人気を集めるなど多様化。共通しているのは、ボカロ曲を原作としていることだけだ。

 ◇中二病的な世界観が人気!?

 ボカロ曲は10代女性の4割が「好きな音楽ジャンル」として挙げるデータ(13年、東京工芸大調べ)があるほど人気ジャンルとなっている。ボカロ小説も同じ層に支持されており、出版元によると、読者層は8割程度が女子中高生で、中には小学生の読者もいるという。ボカロ小説はライトノベルの一種だが、ファン層はライトノベルのメインターゲットである10~20代男性とは異なる。「悪ノ娘」の編集を担当したPHP研究所の伊丹祐喜さんが「企画当初はネット発の少しニッチで、ターゲットは男性だと考え、ラノベと同じような作り方をした」と話すように、女子中高生の人気は出版社も想定外だったという。

 ボカロ曲やボカロ小説が若い世代に支持を集めていることについて、伊丹さんは「思春期特有のもやもやした思いと、世界観がマッチしているからかもしれません。“闇の設定”や救われない内容も好まれる傾向があります」と分析する。例えば「悪ノ娘」は、ファンタジックな世界を舞台に、高慢な14歳の女王が民衆の反乱を受けて、処刑されるという悲劇で、続編「悪ノ大罪」はキリスト教の“七つの大罪”をテーマにしている。思春期にありがちな自意識過剰や妄想癖を指す“中二病”的な世界観が10代の心をつかんでいるのかもしれない。

 また、女子に受けていることについて伊丹さんは「読者層は『少年ジャンプ』など少年マンガ誌の作品を読んでいる女の子というイメージで、AKB48が好きな層とは少し違う。格好よかったり、可愛いキャラはいるけど、男性が喜ぶようなセクシャルな女性キャラがでてくるわけではないので、男子よりも女子に人気なのかもしれません」と分析する。

 ◇謎を読み解く楽しみも

 ボカロ小説は、ボカロ曲の歌詞に秘められた謎を読み解く楽しみもある。例えば「カゲロウデイズ」は、特殊な能力を持った少年少女の出会いや活躍を描いた作品で、楽曲の歌詞にはさまざまな謎がちりばめられている。同シリーズの編集を担当しているKADOKAWAの屋代健さんは「曲は謎があるから、楽しめるところがある。ボカロ小説は歌詞に込められた謎が種明かしされるのも面白いのでしょう」と説明する。ボカロ小説がボカロ曲の謎を補完し、謎が解き明かされることによってボカロ曲をさらに深く理解できる……という楽しみ方があるようだ。ボカロ曲とボカロ小説はセットで楽しむものということもあり、伊丹さんは「曲のファンが離れないようにしなければいけません。“これじゃない感”があるとダメなんですよね」と編集の苦労を語る。

 出版不況が叫ばれる中、人気ジャンルとなりつつあるボカロ小説。屋代さんは「今後、まだまだ増えると思います」と予想する。ボカロ小説がどのように進化していくのか、今後が注目される。

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