押切蓮介:売れっ子マンガ家は「本当に大変」 「プピポー!」などアニメ化続々

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 テレビアニメが放送中の「プピポー!」やアニメ化が決まった「ハイスコアガール」など数々の人気作を手がけるマンガ家の押切蓮介さん。「ハイスコアガール」のほか、「ゆうやみ特攻隊」など複数の連載を持つ売れっ子だ。破竹の勢いの快進撃を見せる押切さんに執筆活動について聞いた。

ウナギノボリ

 ◇舌をかみ切りたくなる衝動も

 −−複数の連載作品を抱えていますが、大変なのではないでしょうか?

 「大変」という言葉を軽はずみに使うのは僕は嫌いです。マンガ家として大変であったり忙しいのは喜ばしいことなのですから……。しかし、ここはあえて言わせていただくと、大変です。本当に大変なのです。

 敗戦後の日本を本で調べたり、第二次世界大戦の資料を読みあさり、次の日には日本の風習の資料を見て、さらにはゲームのことを予習します。大変多くの資料を読むことで、学のない僕の頭は大変おかしくなります。陰惨な虐殺描写を描いたその半日後には少年少女の純愛を表現する状況に、舌をかみ切りたくなる衝動を必死に抑えるわけなのです。

 「プピポー!」の連載を抱えていたときがピークでした。「でろでろ」「ピコピコ少年」「ゆうやみ特攻隊」「ぼくと姉とオバケたち」「ミスミソウ」を同時連載していたときは、本当に……本当に大変な思いをしました。もう一度言いますと、本当に大変だったのです。あのとき、本当に大変であった僕を、このインタビューを見た人は褒めてほしいです。

 本当に大変だったのです……。

 −−「プピポー!」のようにホラーや妖怪をテーマとした作品が多いですが、影響を受けた作品はありますか?

 もともとホラーマンガが好きであり、特に昔の貸本時代のホラーが大好物でありました。マンガ家を志す際、なんとか現代に1980年代のホラーテイストを生かせまいかと作品を描いたところ「ホラーギャグ」なるものが生まれました。ホラーギャグに飽き足らず、「ホラーハートフルコメディー」「メンチサイドホラー」などの作品を描き、充実したマンガ家人生を歩ませていただいております。影響を受けたホラー作品は好美のぼる先生のマンガ全部と徳南晴一郎先生の「人間時計」です。

 −−一方で「ハイスコアガール」「ピコピコ少年」といったゲームを題材とした作品も人気を集めています。

 1にゲーム、2にゲーム、3にゲームの子ども時代を過ごしてきました。勉強は1000くらいあとだったと思います。このゲームにまみれた学生時代を今のマンガ家業に生かせないものかと思い、ペンを走らせてみたわけです。

 もちろん妖怪や心霊ものも好きだったので今に生かしております。子どものころは「ゲームなんて無駄だ、無駄だ」と言われ続けましたが 今となってはこうして僕自身を支えてくれる素晴らしい存在となってくれました。ゲームを制作した人たちが「ああ、あのゲームを作ってよかったなあ」と思ってくれるようなマンガを描くことができれば僕は幸せです。

 ◇女性キャラは己の趣味嗜好に振り回される…

 −−「プピポー!」の若葉や「ハイスコアガール」の晶など無表情で可愛い女性キャラクターが作品の特徴としてありますが、誕生のきっかけは?

 僕の欠点は女性キャラの書き分けが苦手なことです。女性を描くとき「黒髪が良い」と思い、次に「長髪が良い」と思います。さらには「目つきが毒々しいほうがいいなあ」と思い、最終的には「パッツンが好き」……と描いていくと……ああなってしまうのです。

 バカの一つ覚えをなんとか克服しないとダメだとは思っているのですが、己の趣味嗜好(しこう)にどうしても振り回されてしまいます。しかしながら「可愛い」と評判がいいので、まあよしとしております。

 −−アニメになった「プピポー!」の感想を教えてください。

 僕にとって初のアニメ化作品なので非常に思い入れが強いです。賛否が分かれる僕の絵柄をあんなにも可愛く美しくしたスタッフの力量、生き生きと動き回り、魂を吹き込んだスタッフさんたちの努力に脱帽です。

 声のイメージもキャラクターにピッタリだったのはもちろんなこと、声優さんたちの頑張りに感動しました。アフレコ現場を初めて見学しましたが、アレはまさに芸術です。家で好きなときにマンガを描き、好きなときにいやらしい画像を探す僕からしたら非常に輝かしいものに見えたのです。

 僕の母親は毒気がない「プピポー!」が大好きであり(「ミスミソウ」は大嫌い)、毎回欠かさず放送を見ていると聞きます。録画機能がないために携帯のビデオカメラで必死に録画しているみたいです。あと元アシスタントの息子が「プピポー!」のアニメを見て夢中になっていると聞きました。老婆と子どもの心をくすぐることができるこの作品を、もっといろいろな人に見てもらいたいです。

 −−「プピポー!」連載時の苦労した点、逆にうれしかったことを教えてください。

 当初は若葉とポーちゃんの日常を淡々と描くだけの話でした。しかし、我慢できなかったのでしょう。話を壮大にし、最後は泣かせにいこうと僕は走り出したのです。この作品は描けば描くほど愛情が深くなりました。1巻冒頭でゆがんでいた若葉の顔も3巻の時点ではなんとなく整ってきております。これは若葉の成長物語であると同時にへたくそな描写が若干マシになっていく僕の成長物語でもあるのです……。

 なんですか? 苦労した点ですか? ポーちゃんの描写であります。このポーちゃんというキャラの造形は、丸でもなければ卵形でもない、大変つかみにくい形をしております。ポーちゃんという愛らしいキャラが描かれている数だけ、その裏に僕の多大なストレスがあったわけなのです。

 ◇「ハイスコアガール」とは真逆の世界も表現したい

 −−「ハイスコアガール」もアニメ化が決まりましたが、期待していることは?

 すべてが成功に終わり、制作したスタッフさんや声優さんたちとの打ち上げが楽しみです。一体どんなご飯を食べに行けるのかが非常に楽しみです。乾杯の音頭が終わり、踊れや歌えやの宴が繰り広げられるその隅っこで、僕は何を感じるのか……。打ち上げの帰宅途中、そこで燃え尽きず、頑張り続ける自分がいることを期待します。

 −−今後、チャレンジしたい作品はありますか?

 スケベなマンガです。ギャグ、ホラー、ラブコメ、サスペンスなどのマンガを描きましたが、スケベなマンガにチャレンジしてみたいです。が、しかし、未熟な絵心でそれがかなうか否か……。担当さんに怒られてしまいました。「調子に乗るな」と……。ぐうの音も出ない僕は己のふがいなさに自己嫌悪に陥り、今日も布団の中でシクシクと泣くわけです。

 あとは再び「ピコピコ少年」の新しいのを描きたいです。陰毛をモジャモジャ生やし始めたくらいの青春時代に今一度振り返り、「ハイスコアガール」とは真逆の世界を表現したいです。

 −−最後にファンの方のメッセージをお願いします。 

 最近、表現者はどんどん増えても、それを見る側の人が徐々に減っていっていると聞きました。気を抜いたらすぐに読者が離れていく厳しい業界なので、いかに飽きられずやっていくか、いろいろ考えて頑張っていきます。

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