クラシック音楽を題材にした映画「マエストロ!」が全国で公開中だ。さそうあきらさんの人気マンガ「マエストロ」が原作で、負け犬オーケストラ団員たちが謎の指揮者と出会い、再結成を目指して奮闘する姿を描いている。俳優の松坂桃李さんがバイオリニストでオーケストラをまとめるコンサートマスター・香坂真一役で主演を務め、ベテラン俳優の西田敏行さんや映画初出演となる歌手のmiwaさんら多彩な顔ぶれが脇を固めている。楽器初挑戦となった松坂さんと演技初挑戦のmiwaさんに、それぞれの初挑戦への思いや互いの印象、撮影現場のエピソードなどについて聞いた。
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初めてバイオリンに触れた時のことを松坂さんは、「おお、バイオリンってなんかカッコいい」と笑顔を見せるも、「こんなにハードな特訓の日々が待っていようとは微塵(みじん)も思っていなかった」としみじみと振り返る。「(初めてバイオリンを渡された時)ロングトーン(音を長く伸ばすこと)を弾いてみたら音が出たので、周りが『わーすごい!』という反応だった。こっちも『そうですか』とものすごく乗せられちゃいました(笑い)」と松坂さん。そして、「それ以降、日に日にバイオリン練習が重なっていくにつれ、言葉が少なくなっていきました……」と猛特訓の日々を思い返す。
一方、miwaさんは今作が映画初出演だが、オファーを受けた時の気持ちを「自分に演技ができるのかという不安があり、悩みました」と率直に語る。熟考の上、「せっかくいただいたお話ですし、音楽の素晴らしさや美しさをお伝えする映画だと思ったので、携わらせていただけることはとても光栄」と感じ、「飛び込んでみようと思ってやらせていただきました」と出演までの心の動きを明かした。ちなみに、演技をすることに対しては「(小栗旬さんや綾野剛さんらが所属するなど)俳優さんが多い事務所なので、先輩方の舞台や映画を見に行ったりしていて、すごく近い存在」だと感じていたが、「まさか自分がやる日がくるとは思っていなかったので、やっぱり戸惑いはあった」という。
お互いの第一印象を、松坂さんはmiwaさんに対して「スポンジのような子」、miwaさんは松坂さんを「すごくストイックな方」と表現する。「監督の細かいニュアンスとかもちゃんと入れているし、泣きのシーンなども初めてなのにすごいなと思った」とmiwaさんの演技を絶賛する松坂さん。さらに「ライブとのギャップがすごいある人だなと」感じたといい、「(ライブを)見に行かせていただいた時、歌っている時のカッコよさとステージから降りた時の満点の笑顔。こちらもすごく明るい気持ちになります」とほほ笑む。
松坂さんにストイックさを感じた理由を、miwaさんは「この忙しさなのに移動が電車なんですよ!」と説明すると、松坂さんは大笑い。「普段から電車移動が多い」と切り出した松坂さんは、「(今作の撮影のために)バイオリンを持って行くので、移動時間はミュージシャンっぽい気分になれたのが、ちょっと楽しかった」と笑う。miwaさんに松坂さんの印象をさらにたずねると、「1回もイライラしているところを見たことがなくて、それは最初にお会いした時からずっと変わらない」という。心を穏やかにする秘けつでもあるのかと本人に聞くと、「子どもの時からの環境のたまもの」という。続けて、「姉と妹、そして母親に下僕のような扱いをされていました(笑い)。そこで感情をあらわにすることはいけないことだと。自分は感情を出してはいけない“種族”だと思っていた」と冗談めかす。
今作では松坂さんがバイオリン、miwaさんがフルートを演奏する演技に挑戦した。バイオリン練習中にアザができたという松坂さんは、「本当にできてちょっとうれしかった」と明かす。しかし、「最初はアザができるとは知らず、構え方が間違っているのかと愕然(がくぜん)とした」そうで、「教えてくださっている方から『バイオリニストは誰でもできるもの』と聞いた時には、ちょっと仲間入りしたかもという思いはあった」と素直に喜ぶ。練習を重ねていく中で習得が難しかったのは「構え」だといい、「構えて手首をひねってひじを入れて……など、一連の動作に持っていくまでがすごく難しかった」と振り返る。続けて、「(動作が)体に全然なじみがなかったので、毎日変なところが筋肉痛になった。構えの違和感をなくすのが一番大変だったかもしれません」と打ち明ける。
演技に加えフルートも初めてというmiwaさんは、「とても難しくてすごいプレッシャーでした」と当時の気持ちを明かし、さらに独奏シーンについて、「皆さんが見守る中での撮影だったので、本当にどうしようという感じで前日から眠れないぐらい緊張しました」と振り返る。フルートについては「吹いている感じを出すのが難しかった」といい、「吹きながら音が上がった時に(体を)前に出すなど動きをつけるのですが、(フレーズを吹き終わるまでに)弧を描くようにちゃんと戻ってこないといけないのが難しかった」と明かす。「それで戻っている間に指を忘れちゃう(笑い)」と言って笑顔で苦労を語った。
キャスト全員が吹き替えなしで楽器の演奏シーンを演じているためか、現場では「みんな楽器に向き合っていたので、会話はほぼゼロでした……」と松坂さんは笑う。そして、「セットがある横のスタジオが楽器置き場兼控室みたいな感じでしたが、セッティング中におのおのが練習し出す」ような現場で、「1人が弾き始めると、みんながどんどん入ってきたりする。それがオーケストラっぽかった」と表現。「言葉はないんですけど非常に愛のある現場でした」と松坂さんは振り返った。
音楽が軸になっている今作だが、人間ドラマの部分も魅力の一つ。松坂さんは「人の命のはかなさというか尊さみたいなのもあった」と分析し、「僕が香坂として見た時に、香坂としての成長だったり、オーケストラ自体の本当の意味での一致団結感みたいなものが作品の中には詰まっていた」と語る。続けて、「役者陣は初めて楽器を手にするという人たちがほとんどだったので、最初おぼつかないところからだんだん必死になっていく感じが、うまく作品とリンクしている部分もあった」と感じ、「そういう意味でいうとちゃんと台本の内容が伝えられているのではという思いはある」と自信をのぞかせる。
miwaさんは自身が演じた橘あまね役を「明るくて天真爛漫(らんまん)だけど誰にも言えないものを抱えている人」と説明し、「実はあまねだけではなく、香坂さんだったり(西田さん演じる)天道さんもみんなそれぞれ人に言えない深い傷だったり悩みを抱えている」と説明する。そして、「でも、そこを言葉にしたり、知ることなく、音楽というものを通して分かり合える響き合えるというところが、すごくこの映画の素晴らしいところではないかと思う」と力を込める。「人間くささみたいなところが音に出たりすることで、言葉にしなくても分かり合える部分があるというところがすごく救われる」とこの映画のよさを強調する。
今作の見どころを、松坂さんは「ほかの音楽ものと圧倒的に違うのは、演奏している時の絵(映像)」と断言し、「いくらでもごまかせる技術というのはあって、寄ってしまえば手元を細工してやれば全然いけてしまう。だけど監督はそこをすごくこだわり、全員が吹き替えなしでやりたいということで可能になった絵というのがたくさんある」と力説する。
一方、miwaさんは松坂さんがバイオリンを弾いて涙を流すシーンを撮影する際、「直前まで練習をされていた中で、難しい寄りの演奏の演技にプラスして感情を表情だけで表現しなきゃいけないのに、その集中力と演技力がすごい」と感嘆し、「あまねが見守るシーンなのですが、観客のような気持ちで見入ってしまい、ただただ感動しちゃっていました」と笑顔で明かす。さらに西田さんの演技について、「現場で見ていた時と比べ、映像で見た時に寄った絵は迫力があり、内側から出ている感情がすごく些細(ささい)な表情の中にあふれていて、何があの時、起きていたんだろうぐらいの魔法がかかっている」と絶賛。「俳優さんは本当にすごいなと思った」と驚嘆していた。映画は全国で公開中。
<松坂桃李さんのプロフィル>
1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。モデルとして芸能界入りし、2009年特撮ドラマ「侍戦隊シンケンジャー」で俳優デビュー。12年公開の映画「ツナグ」で映画単独初主演を果たす。現在はドラマや映画、舞台などで幅広く活躍中。主な出演映画に「ガッチャマン」(13年)、「万能鑑定士Q−モナ・リザの瞳−」(14年)などがある。
<miwaさんのプロフィル>
1990年6月15日生まれ、神奈川県出身。高校在学中にライブ活動などを行い、2010年3月にシングル「don’t cry anymore」でデビュー。11年には第25回日本ゴールドディスク大賞ザ・ベスト5ニュー・アーティストを受賞。13年に自身初の日本武道館公演を行い、第64回NHK紅白歌合戦に初出場を果たす。14年8月、復興イベント「東北復興祭<環 WA>in Paris」に出演し、日本人単独アーティストで初めてパリのエッフェル塔でライブを行った。今作が映画初主演にして演技初挑戦。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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