SPECIAL EDITED VERSION 『ONE PIECE』魚人島編
第8話 弱虫で泣き虫!人魚姫しらほし
12月22日(日)放送分
吉田秋生(あきみ)さんの同名のベストセラーマンガを、「そして父になる」(2013年)の是枝裕和監督が映画化した「海街diary」が13日から全国で公開された。海辺の街、鎌倉を舞台に、綾瀬はるかさん、長澤まさみさん、夏帆さん、広瀬すずさんが演じる4姉妹の絆を描く感動作だ。光と影が織りなす美しい風景の下でつむがれるストーリーを、優しく包み込むのは、菅野よう子さんが手掛けた情感豊かなメロディーの数々だ。今回初めて一緒に仕事をし、互いに「新しい発見があった」と語る是枝監督と菅野さんに、どのような製作過程をたどったのか聞いた。
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「4姉妹」「四季」「弦楽4重奏」を思い浮かべ、音楽についてはそれ以外の具体的なことは考えず脚本を書き進めていったという是枝監督。その意識を菅野さんの音楽に向かわせたのは、撮影現場で長澤さんが発した「菅野さんはどうかな。一度、私は菅野さんの曲が流れている映画に出てみたい」という言葉だった。当時、春の撮影は終わっていたことから、是枝監督は早速、広瀬さんが演じる四女すずと、その同級生で、前田旺志郎さんが演じる風太が自転車で桜並木を走り抜けるシーンに、スタッフがたまたま用意していた、菅野さんが音楽を担当したNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」の中の1曲「モスリンマアチ」を当ててみたところ、是枝監督いわく「これ以上ないほどはまっちゃった」。そのとき、「これはもう、頼むしかないだろう」と確信したという。
「モスリンマアチ」の話を、「今、初めて聞きました」と笑顔を見せる菅野さん。最初に今回のオファーを人づてに聞いたときは「このうるさい、画面を壊すともっぱらのうわさの、CM(の曲)が多くて職業作家と思われがち(笑い)」な自分の音楽が、これまでの是枝監督の作品とは結びつかず、「一体何を求めているのだろう」と首をかしげ、「マンガが原作だから、マンガといえばアニメ(の作曲者)だからかと深読み」すらしたそうだ。だがその後、是枝監督と直接会い、「ゲンカル(弦楽4重奏)のイメージ」であることと長澤さんの話を聞き、「そうだったんだ」と合点がいったという。
かくして、2人のコラボレートが実現することになったわけだが、当初、是枝監督による粗編集の映像を見せられたとき、菅野さんの頭の中には、「鎌倉市のテーマ曲を作ろう」という思いがあった。しかし編集が進み、映画が徐々に完成に近づいていくにつれ、その考えは変わっていった。そして、初めて最終版に近いものを見せられたとき、葬儀のシーンが思いのほか多く、仏壇の前で手を合わせるシーンがあることなどから、「これは、光と影のバランスが意外に拮抗している作品」との思いを深め、「光が52、影が48くらいのパーセンテージにしたい」と是枝監督に持ちかけたのだという。登場人物の感情よりもむしろ、「時間差や光と影の差、春夏秋冬の空気の変化」といったものに、「なるべく音楽が寄り添うようにしたい」と考えたからだ。
一方、これまでは音楽を「比較的、芝居のオンのところには付けずにオフのところにふっと寄り添わせていた」という是枝監督も、今回はあえて「芝居のオンの部分や人がいる時間にきちんと寄り添わせる」ことを試みた。最初は、「もう少しジャズっぽい、大人の音楽」を考えていたそうだが、「ある程度編集が進んだときに菅野さんの方から、これは背筋の伸びた人たちの話なので、音楽も“楷書”のほうがいいかもしれませんね、というご意見が来て、そのあと上がって来た曲が見事に(映画に)合致した」と話す。
製作過程での菅野さんとのやりとりを、是枝監督はこう振り返る。「ニュアンス的なことを菅野さんにお伝えすると、じゃあこういう形でという代替案が5分くらいで届くんです。たぶん、その間すごく集中なさって、映像も楽器も目の前にされて(作曲なさって)いるのだと思うんですけど、その修正の速さと的確さがすさまじくて、5分で戻ってくると思うと、僕も(パソコンの前から)離れられずくぎづけ状態でした(笑い)」。しかしそのやりとりは「すごく面白かった」という。
ところが意外にも当の菅野さんは、「実は目がとても悪く」、また、パソコンモニター上の映像は小さいため、「せりふはもちろん聞いていますけど、目から入るものはあまり見ていない」のだそうだ。むしろ、花の匂いや、海街特有の潮風の香りや湿気、塩分が入ることで腐った縁側の木のカビの匂い、さらに、漬物や洗濯物の匂いなど、「そういうものが混じり合った生活空間の匂いのほうがリアルに感じられて、目の情報はあまりとらえていない感じがするんです」と打ち明ける。
さらに、こんな興味深い話もしてくれた。それは、すずが友人たちとしらす漁をしている場面。そこに、ジュリア・ショートリードさんの澄んだ歌声が流れる。「あそこで光(の具合)が変わるから“転調”したかった」と、是枝監督はその意図を語るが、菅野さんとしては、しらすの匂いと女性のボーカルがかみ合わず、「最初はなかなかそこに寄り添えなかった」と苦笑する。途中で「私が(しらすの)匂いをかがなければいいんだ(笑い)」と思い直すことで、「やっと作ることができた」のだという。
そういった一連のやりとりを、菅野さんは「音楽というのは、情緒とか感情に寄り添うことが得意とされますが、人ならぬもの、時間とか、時間差に当てるというのはあまりやらないので、それはとても面白かった」と、是枝監督は「作っていただいたものを聴きながら、そのシーンの意味合いみたいなものを僕の中でもう一度、再確認していく。そうすると編集が変わっていった」と振り返る。
そして、是枝監督はあるとき、「自分でできたかなと思ったもの」を菅野さんに送ったとき、菅野さんから「このバージョンでようやく是枝さんの作品になった気がします」という返信が届き、「ああ、よかった」と安堵(あんど)したことを回想しながら、「キャッチボールをしながら、音楽の相談をしているんですけど、それが映画を変えていき、結果的にすごく的確に“その場所”に導いてくれた感じがします」と菅野さんの功績をたたえた。
こうして出来上がった今作。是枝監督が「(4姉妹を演じる)4人がとにかく魅力的なので4回見られます」とアピールすれば、菅野さんも「4人の表情はよだれが出るぐらい(笑い)チャーミングだし、食べっぷりにすごく生命力を感じます。すごく元気が出ます」と称賛し、対談を締めくった。映画は13日から全国で公開中。
<是枝裕和監督のプロフィル>
1962年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、制作会社「テレビマンユニオン」で主にドキュメンタリー番組を演出する。95年、初監督作「幻の光」がベネチア国際映画祭金のオゼッラ賞などを受賞。「ワンダフルライフ」(98年)、「DISTANCE/ディスタンス」(2001年)を経て、「誰も知らない」(04年)では主演の柳楽優弥さんにカンヌ国際映画祭最優秀男優賞をもたらした。ほかに「花よりもなほ」(06年)、「歩いても 歩いても」(08年)、「空気人形」(09年)、「奇跡」(11年)などがある。「そして父になる」(13)は、カンヌ国際映画祭審査員賞を獲得。12年には初の連続ドラマ「ゴーング マイ ホーム」を手掛けた。14年、独立し制作者集団「分福」を立ち上げた。初めてはまったポップカルチャーは「小学校に上がるか上がらないか」の頃に再放送で見たテレビアニメ「ジャングル大帝レオ」。「オープニングのカメラワークの絵コンテの切り方が、当時はそんなこと知らなかったけれど、子供心にすごくカッコいいと思った」という。
<菅野よう子さんのプロフィル>
SMAPや今井美樹さん、小泉今日子さんといったアーティストへの楽曲提供、プロデュースを手掛ける。CM音楽では、1998年、CM音楽賞の最高峰ともいえる三木鶏郎広告音楽賞を受賞。映像作品では「COWBOY BEBOP 天国の扉」(2001年)、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(02年)などのアニメーションから、映画「下妻物語」(04年)、テレビドラマ「ごちそうさん」(13年)など幅広く手掛ける。初めてはまったポップカルチャーは、少し考えた末、宮沢賢治の「よだかの星」を挙げた。
(インタビュー・文・撮影:りんたいこ)
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2024年12月23日 04:00時点
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