映画ひつじのショーン:スターザック監督に聞く クレイアニメは「リアルだから味わいがある」

「映画ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム」について語るリチャード・スターザック監督
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「映画ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム」について語るリチャード・スターザック監督

 クレイアニメーション「ウォレスとグルミット」でおなじみの英国「アードマン・アニメーションズ」が製作した「映画ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム」が4日から公開された。テレビシリーズですでにおなじみの、羊のショーンと牧羊犬ビッツァーにとって初の劇場長編“出演”作となる。監督と脚本を担当するのは、テレビシリーズの開発から関わってきたリチャード・スターザックさんと、映画「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」(2005年)の脚本を担当し、今作が監督デビュー作となるマーク・バートンさん。作品のPRのために、実際の撮影で使用されたショーンたち“キャスト”と来日したスターザック監督に、製作の裏話などを聞いた。

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 ◇せりふなしがジレンマに

 映画は、ショーンたちが仕掛けたいたずらで、牧場主を乗せたトレーラーが暴走。そのまま消息を絶った牧場主を探して、ショーンとビッツァーたちが大都会に出掛けていくというストーリー。テレビシリーズは07年に放送が始まったが、ショーンそのものの登場は、「ウォレスとグルミット」シリーズの3作目「ウォレスとグルミット 危機一髪!」(1995年)だった。そこで牢屋に入れられたグルミットを助けたのがショーンだった。

 テレビリシーズ同様、今作にはせりふはない。ショーンをはじめとするキャラクターたちは、プラスティシーンという塑像用粘土で作られているが、「せりふがあると母音ごとに口の形を換える必要がある。そうなると時間がかかるしお金もかかる。だったらせりふなしでいこう」ということでテレビシリーズは始まったそうが、それによってむしろ、「ボディランゲージなどの工夫が必要になり、より映画的になった」とスターザック監督は振り返る。監督自身が無声映画のドタバタ喜劇が大好きだったということもある。

 ただ、今回の映画を作るに当たっては、「それで80分以上ももたせることができるかが大きな課題だった」と打ち明ける。もちろん「結果的に成功だった」わけだが、例えば今作で、都会に来たショーンとビッツァーが牧場主に気付いてもらえない時など「言葉があればひと言で済むのに」とジレンマを感じた場面は「何カ所かあった」という。

 ◇過去の名作オマージュがいっぱい

 せりふがないとはいえ「声」はある。ショーンは、英国の子供向け番組の司会でおなじみの俳優ジャスティン・フレッチャーさんが声を担当している。ビッツァーと牧場主の声は、スタンダップコメディアンのジョン・スパークさんが担当。そして今回、シリーズ初の“悪役”で、「ひつじの群れが都会に行くというストーリー上、必要だった乗り越えなければならない障害の中でも一番の脅威」の役割を担わされた動物収容センターの捕獲人トランパーの声を担当するオミッド・ジャリリさんもまたスタンダップコメディアンだ。

 レコーディングでは、監督が「こんな意味合いのことを言ってくれ」と指示を出すと、声優たちは“それらしきこと”をしゃべり、監督がそれを微調整する……というふうに作り上げていった。「アクターとして優れている人たちばかり。コミックタイミング(笑いの間)が分かる人たちなので、演出するのがすごく面白い」という。

 レコーディングの話題ついでに、今作のサウンドトラックを録音したのは、ロンドンのアビー・ロードにあるスタジオだ。アビー・ロードといえば、ビートルズのアルバムでおなじみ。そのアルバムのジャケット写真を「手本にした」映像が今作には登場する。また、スターザック監督は、今作には過去の名作映画へのオマージュが「かなりある」と明かす。例を挙げてもらうと、「羊たちの沈黙」(90年)、「ケープ・フィアー」(91年)、「タクシードライバー」(76年)、「グリース」(78年)など次々とタイトルが出てきた。

 ◇演出における“厳格なルール”

 さて、動物にもかかわらず、人間のような動きを見せるショーンとビッツァーたち。しかしスタッフの間では彼らを演出するための「厳格なルールがある」という。「基本的に羊たちは、牧場主だろうと人間だろうと、近くにいるときは完全に羊。だから牧場主は、彼らが二足歩行することには気付いていない」わけだ。監督によるとショーンの物語は、米国のマンガ家ゲイリー・ラーソンさんが描いた、農場で牛たちが人目を盗んで社交ダンスをしているマンガを「少しなぞっている」という。

 一方、ビッツァーは犬なのでもう少しルールは緩く、「人間といるときでも人間らしくしていい」ということで、クリップボードと笛を持つことを「許されている」のだそう。とはいえ、動物であることを「ときどき皆さんに気付かせないといけない(笑い)」から、「紅茶を入れるときは人間らしいが、飲むときだけは犬になる。骨を見たら犬の本能で食べたくなる。あるいは棒を投げたらそれを追いかける」といった仕草をちょくちょく入れるようにしているという。

 ただ、今回に限ってはショーンたち羊は、トランパーの前では人間の動きを見せてしまう。「ショーンたちと関わっているうちに、トランパーの目には彼らが人間に見えてきたり、彼らもトランパーの前では“素”を出してしまったり。それがごく自然のことのように思えた」ため、いつものルールは適用しなかったそうだ。

 ◇欠点がむしろ魅力

 CGアニメーション全盛の昨今、写真25枚で1秒分の映像となるクレイアニメーションは、時間がかかる手法だ。「消えてなくなる芸術だ」と否定的なことをいう批評家もいるという。「確かに古風なやり方だ」と認めた上でスターザック監督は、「セットや衣装をデザインしたり照明などを考えたり」する点で、CGアニメーションも「同じくらい時間がかかっていると思う」と両者の共通点を挙げる。

 その一方で「すべてモニター上で処理する」CGアニメに対して、クレイアニメは、「セットがあり、キャラクターを“演出”するアニメーターがいて、助監督もいれば照明部もある」と、「むしろ撮影現場は実写映画に近い」と話す。その「人がいて、話をして作り上げていくことが楽しく」、それを「続けられていることがとても幸せ」と満面の笑みを浮かべる。そして、「我々のパフォーマンスには表情も完璧といえないときがある」と欠点を認めた上で、「でも、それが逆に“実写らしさ”だと思う。CGはすべてが完璧。なめらかすぎて、逆につまらないと感じてしまうことがある。私は、リアルだからこその味わいがあると思う」と改めてクレイアニメの魅力を語り、インタビューを締めくくった。映画は4日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1959年、英サフォーク州生まれ。83年にアードマン・アニメーションズに入社。92年、フリ-ランスに転向するまでの間、テレビシリーズ「モーフとゆかいな仲間たち」などの作品に携わる。テレビシリーズ「快適な生活 ぼくらはみんないきている」(03年~)第2シリーズの脚本と監督を担当したのち、再びアードマンに戻り、放送、開発部門のクリエーティブディレクターに就任。テレビシリーズ「ひつじのショーン」(07年~)の開発に携わる。

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