黒川文雄のサブカル黙示録:「メタルギア」シリーズ“生みの親”の退職と独立 元社員が明かす問題の背景

ゲームクリエーターの小島秀夫さん(2012年8月撮影)
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ゲームクリエーターの小島秀夫さん(2012年8月撮影)

 「メタルギア」シリーズの“生みの親”で、コナミデジタルエンタテインメント(コナミ)を退職した小島秀夫さんが新会社コジマプロダクション(東京都渋谷区)を設立し、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)とプレイステーション4向けのソフトを独占供給する契約を結んだことが発表されました。このところSCEは「シェンムー3」のバックアップなど挑戦的な姿勢が頼もしい限りです。

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 この発表に至るまでに半年ほどメディアを巻き込んでの情報が入り乱れました。「メタルギア」シリーズにも主演声優として出演していた大塚明夫さんが「コジプロは解散させられてしまった」とツイートし、「メタルギア ソリッド5 ファントムペイン」のパッケージから小島さんの名前を消したこと、「プレイステーションアワード」と「ゲームアワード」で小島さんが出席しなかったことなどがその都度話題になってきました。小島さんの新会社設立は、多くのゲームファンから喝采(かっさい)をもって迎えられているようです。

 話は変わりますが、私にとって小島さんは恩人の一人です。

 私が2010年にブシロードの副社長を退任し、次のことを考えていたときに、過去の映画、ゲーム、流通、カードゲーム、オンラインゲーム、などの経験を生かせそうな総合的なパブリッシャーを探していたときに、コナミが浮かびました。そこで小島さんに連絡をとったところ、数日後には社長面談となり、約1カ月ほどでマーケティング事業本部という宣伝部と流通管理部の責任者として入社することになりました。つまり小島さんのおかげでコナミという会社に巡り合い、そこで働く機会を得ました。

 しかし、入社してすぐにコジマプロダクションの活動とその対外的に見える自由度とはちょっと異なった社内の姿が分かりました。

 社員の勤怠は厳しく管理され、入出場ゲートを通った数が週次で上司にリポートされます。つまり勤務時間内に喫煙室に何回出たかとかコンビニエンスストアに出かけていると想定される回数が多いと、上司は部下に注意をすることになります。デスクは自由になっており、帰宅時は駅のコインロッカー並みの個人ロッカーに荷物を全部収納してから帰宅します。午後6時になるといったんすべての照明が落とされますが、必要に応じて点灯し、残業をする人は作業を続けます。

 報道されたのでご存じの方も多いかもしれませんが、社員のメールアドレスは半年に1回ほどのペースで乱数をあてはめたものに変更になります。経営陣や要職にある人のみが個人名の入ったアドレスをもっています。察するにメールを使って社外とコンタクトせず、自社内ですべて完結せよということの意思表明なのでしょう。

 そして対外的に見えていたコジマプロダクションの活動や輝きはある種の「特別区」のような存在だったこともわかりました。それはヒット作を生み出している金のタマゴ的な存在であり、ゆえに開発予算や部門の処遇(組織的な人材の選択権限や職種のバラエティー度)などは他の部署とは全くことなるものでした。ある社員は「コジプロは、コナミであってコナミではない」と言っていました。

 しかし近年は、小島さんやコジマプロダクションの存在に脅かす変化の兆候もありました。それは2010年にサービスが始まったソーシャルゲーム「ドラゴンコレクション」のヒットです。ちょうど私が入社したタイミングでグリーと宣伝面の折衝を行ったこともあり、印象に残っているのですが、グリーは「釣りスタ」以外のヒット作品を生み出したいときに、コナミと共同展開したもので、大規模なテレビCM展開などを行った結果、月次で数十億円の売り上げを生み出す稼げるコンテンツとなり、社内の雰囲気は「ソーシャルゲーム」推しとなったことは間違いありません。

 私は、先に述べたような社内の管理体制や仕事の内容から、お互いに生み出せるものが少ないと判断し早期に退職をしましたが、部長時代に毎週月曜日の朝に開催される経営報告会議に出席していました。その会議でもソーシャルゲームの売り上げや展開に関する発表が多くなっていったことをよく覚えています。さまざまなルートからの情報・取材を照らし合わせると、「ソーシャルゲーム推し」に懐疑的な小島さんと、ソーシャルゲームに注力しようとした経営陣が対立し、その結果「特別区」の存在がなくなり、小島さんの退職に至ったことは容易に理解できました。安価なコストで高利益を生み出せるソーシャルゲームのヒットが生まれた時点で、コストや時間のかかるテレビゲーム事業の縮小は、避けられなかったのでしょう。

 コジマプロダクションは、過去にはコナミ傘下としての独立子会社の構想もあったといいます。映画を愛し、ゲームを愛し、何よりも自身の作品を愛し、最高のクオリティーをゲームファンに届けようという小島さんと、株式会社の使命として利益を追求する経営側との間に超えることのできないものがあったのでしょう。しかし前向きに考えれば、小島さんが独立して新作に向かい合おうとしていることは、複雑な経緯があるにせよ、結果としてよかったのではないでしょうか。小島さんの生み出す新たなコンテンツを心待ちにしたいと思います。

くろかわ・ふみお 1960年生まれ、東京都出身。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHNJapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。

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