注目映画紹介:「家族はつらいよ」 寅さんから20年 「東京家族」の俳優8人による本格喜劇

映画「家族はつらいよ」のワンシーン (C)2016「家族はつらいよ」製作委員会
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映画「家族はつらいよ」のワンシーン (C)2016「家族はつらいよ」製作委員会

 山田洋次監督が、名作「男はつらいよ」シリーズから約20年ぶりに取り組んだ本格喜劇「家族はつらいよ」が12日から公開される。自身の作品へのオマージュをタイトルに込めつつ、2013年に公開した自身の監督作「東京家族」を下敷きにした今作は、「東京家族」で“家族”を演じた8人を再び起用。前作とはガラリと趣の違う、笑いにあふれた人情ドラマに仕上げている。

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 東京郊外で暮らす平田一家。隠居生活を送る主の周造(橋爪功さん)とその妻・富子(吉行和子さん)、長男夫婦(西村雅彦さん、夏川結衣さん)とその2人の息子(中村鷹之資さん、丸山歩夢さん)、さらに、ピアノの調律師で独身の次男(妻夫木聡さん)の3世代が同居している。その日、周造は、仲間とゴルフを楽しんだあと、行きつけの居酒屋で酒を飲み帰宅。今日が富子の誕生日だったことをすっかり忘れていた周造は、酔った勢いで富子に欲しいものをたずねる。すると富子はうれしそうにあるものを差し出す。それはなんと、離婚届だった……というストーリー。

 結婚してからの数十年、身勝手な夫の暴言に耐えてきた妻が、反旗を翻し離婚を要求。それに戸惑う夫と、母に離婚を思いとどまらせようとする子供たち。そこに、次男とその恋人(蒼井優さん)の結婚話や長女夫婦(林家正蔵さん、中嶋朋子さん)の大げんか騒動などが加わり、物語はにぎにぎしく展開していく。橋爪さんが、暴力こそ振るわないが妻を無能呼ばわりするDV(ドメスティック・バイオレンス)夫に扮(ふん)するのをはじめ、「東京家族」に出演した8人が、前作の役柄とはまったくの“別人”を演じており、演出の違いでこうも作品の趣が変わるのかと驚かされる。

 その一方で、富子が口にする離婚の理由や、不謹慎ながらくすりと笑ってしまう病院でのやりとり。さらに、長男の嫁がうなぎ屋の出前相手に言うせりふなど、「あるある」「分かるわ~」と共感を誘うエピソードがちりばめられ、“やっぱり山田監督の喜劇は素晴らしい”と実感させられる。

 確かに、家族とはやっかいな集合体だ。時にはいない方がいいなどと思うことはあるが、いなければいないで不安になる。きつい言葉をはいてしまうのも、気心が知れた関係だからこそ。平田家の一連の騒動を目にしながら、改めて、家族のありがたみをしみじみとかみしめた。ほかに、小林稔侍さん、風吹ジュンさん、笹野高史さん、笑福亭鶴瓶さんらが出演。12日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)

 <プロフィル>

 りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。

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