石野卓球さんとピエール瀧さんのテクノユニット「電気グルーヴ」が、4年ぶりのオリジナルフルアルバム「TROPICAL LOVE」を1日にリリースした。テレビ東京系ドラマ「怪奇恋愛作戦」のエンディングテーマ「Fallin’ Down(Album mix)」、BS12「伊集院光のてれび」のテーマソング「人間大統領」など全10曲が収録されており、夏木マリさんのほか数々のゲストも参加した意欲作だ。本人たちも「曲のラインアップに迷いがなかった今の電気グルーヴの集大成」「自分たちから出てきたものと、できた結果が乖離(かいり)していない最高傑作」と公言している新アルバムの話や、高校時代からの友人同士ならではのエピソードなどについて、石野さんと瀧さんに聞いた。
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――お2人は別々の中学と高校だったそうですが、瀧さんが高校時代に入っていた野球部に、石野さんと同じ中学の出身の友人がいて、その方を通してお互いに知り合ったそうですね。
ピエール瀧さん:YMOとかクラフトワークとか、テクノが好きっていう話を部室でしていて、「それだったら俺の友達ですごい詳しいやつがいるから、今度そいつの家に遊びに行こう」と言って高1の時に遊びに行き始めたのが最初の出会い。卓球くんの家には、レコードはもちろんサブカル関係のマンガとかもあって、中野ブロードウェイ(東京・JR中野駅前の複合ビル)みたいな場所だったんですよね。
石野卓球さん:瀧を紹介してくれたその友達の「最高!」「今までで一番」っていう高校当時の声が、今回のアルバムの2曲目(「東京チンギスハーン」)に入ってるんです。僕が高校時代にライブハウスでライブをやった時に瀧たちがお客さんとして来ていて、終わってから「感想を一言インタビュー」みたいなので瀧が録音していた1985年のカセットテープからの声で。その彼は数年前に死んだんですけど……。しかも瀧がインタビューしているんで、2曲目には瀧の16歳の時の声と49歳の声が入ってるんです。
――まさに30年来の付き合いということですが、最近は俳優として活躍されている瀧さんを石野さんはどのようにご覧になっていますか。瀧さんご自身は、音楽との違いも含めて感じることは?
石野さん:友達として鼻が高い部分と、やっぱりどうしても身内だと「大丈夫かな」ってハラハラして見てしまったり。純然と楽しめないんです。特にいい人の役をやってる時(笑い)。善人の役とか人情派みたいなのは、照れくさいというかお尻がムズがゆくなる(笑い)。
瀧さん:自分では、どの作品を見てももれなく下手だなと思いますけど、僕が満足するための作品じゃないですからね。言われたことをやるの(芝居)と、こっちが提示したことでみんなを楽しませる(音楽)というところで、ベクトルが全く違うっていう感じですかね。
――アルバム「TROPICAL LOVE」の制作はどのように進めていったんですか。
石野さん:1曲目「人間大統領」はテレビ番組のテーマソング、6曲目「Fallin’ Down」はシングルで、既に曲があったんですね。アルバムの中でかなり極端な位置にいる2曲で、1曲目はいわゆる今までの電気グルーヴ的な(コミカルな)タイプだし、「Fallin’ Down」はもうちょっとメランコリックな感じで、これを1枚のアルバムに落とし込むにあたって、どんな曲が必要でどういうことをやりたいのかっていうことで出来上がったので、結構この2曲が指針になっています。「人間大統領」がなかったらもうちょっとシリアスなトーンが強かっただろうし、「Fallin’ Down」がなかったら、もうちょっとふざけているかもしれない。それ(そのバランス)がよかったです。どっちの側面も自分たちなので。
――9曲目「ヴィーナスの丘」では夏木マリさんがボーカルで参加していますが、もともと石野さんが夏木さんの楽曲をプロデュースした縁で実現し、夏木さんが歌うことを前提に曲を作ったそうですね。
石野さん:8曲目の(南国テイストの)タイトルチューン「トロピカル・ラヴ」と「ガマガエル」っていう(歌詞が入っている)「いつもそばにいるよ」という最後の曲があまりにも温度差が激しかったんで、「ちょっと中和するものが必要だね」と言って急きょ作ったんですけど、マリさんが歌う“90’sハウス風の歌謡曲”ができたらと思って。
――ちなみに、お2人で歌詞を共作する時はどんなふうに作っているんですか。
石野さん:一緒にお酒を飲みながら曲を延々とリピートして、それを一日中聴いたりしてフレーズを考えたり。デタラメな言葉でも、それが一番発しやすい言葉だから、それに近い空耳をどんどん探していって、それを組み合わせた時に、ある世界観が見えてきたら完成ということで、うちらの中では一応、脈絡はあるんですけど、それを説明するつもりはなくて……。語感(重視)というか、ダジャレです。ラブソングのバラードとか、若い女の子の失恋の気持ちを歌うとかっていうのはガラじゃないので。
瀧さん:いろんな人がいろんな風景を見ればいいと思うから、あんまり“この風景”って決めるとそれでしかなくなっちゃうし、それは僕らもあまり望むところではないので、勘違いも大歓迎というか。
――なるほど。では、アルバムを「TROPICAL LOVE」というタイトルにした意味は?
石野さん:コンサート(14年に開催した結成25周年記念ツアー)のタイトルに「塗糞祭」とかって付けていたうちらが、アルバムは「TROPICAL LOVE」って、みんな一瞬、身構えるというか「またどうせ、何か落とし穴があるんでしょ?」みたいな。それも含めて面白いというか、それも込みで電気グルーヴっていうね。未確認飛行物体みたいで。
瀧さん:未確認“奇行”物体……(笑い)。
石野さん:キコウ……奇行? 未確認奇行“部隊”!
――さすが息もピッタリ(笑い)。制作中に煮詰まることもなさそうですね。
瀧さん:ないですね。今、言った「未確認飛行物体」から、じゃあ「未確認奇行部隊だ」っていうところがレコーディングのまんま。今のノリで歌詞や曲を作って、例えば一歩引いて見ると「あっ、あのことを言ってるんだな」っていうのが見えてくることもあって、その瞬間は醍醐味(だいごみ)ですよね。それで、俺たちもちょっとウットリし始める。「これスゲエな」「お前もだよ」って言って(笑い)。
石野さん:「お前あってこそだよ!」みたいな(笑い)。それでまた、いいお酒が飲めるんです。ニューアルバムを聴きながらね。
<プロフィル>
1989年、現メンバーの石野卓球さんとピエール瀧さんを中心に結成し、91年にアルバム「FLASH PAPA」でメジャーデビュー。97年にリリースしたシングル「Shangri-La」がヒット。石野さんが初めてハマッたポップカルチャーはマンガ、瀧さんはゲーム。石野さんは「家がパン屋をやっていたんですけど、今のコンビニのマガジンスタンドみたいなのが置いてあって、『Seventeen』から『PLAYBOY』まで読み放題だったんです。まだ性の芽ばえの前の幼稚園のころで、いやらしい方面はマンガからかなり英才教育を受けたと思いますね(笑い)」と話した。瀧さんは「小学校4年生ぐらいかな。ポン(PONG)っていうテニス(卓球)のゲームをデパートの屋上に行って100円でやっていたのを覚えてます。そのあとにその家庭版が出て、デパートのおもちゃ売り場で延々とデモ機をやったりしてました」と明かした。
(インタビュー・文・撮影:水白京)