この「天穂のサクナヒメ インタビュー」ページは「天穂のサクナヒメ」のインタビュー記事を掲載しています。
稲作をテーマにした和風アクションRPGが原作のテレビアニメ「天穂のサクナヒメ」がテレビ東京系で毎週土曜午後11時に放送されている。原作のゲームは、ヒノエ島を舞台に島を支配する鬼と戦うアクション、日本古来の米作りをイメージしたシミュレーション要素が融合したユニークな内容が人気を集めている。2020年に発売され、全世界累計出荷本数は150万本を突破するなどヒットし、「令和の米騒動」と話題になった。アニメを制作するのは「SHIROBAKO」「花咲くいろは」などハイクオリティーな映像で知られるP.A.WORKSで、「駒田蒸留所へようこそ」「有頂天家族」などの吉原正行さんが監督を務める。アニメで稲作はどのように表現されるのか? P.A.WORKSの吉原監督とラインプロデューサーの相馬紹二さんに聞いた。
◇実はP.A.WORKSの作品とも重なる
ーー原作のゲームは「令和の米騒動」などと話題になりました。
相馬さん 僕は普段からゲームをするので「農林水産省のサイトが攻略本みたいだ」と話題になっているのは知っていました。実際にプレーして、懐かしいという第一印象がありました。僕が子供の頃、主流だった横スクロールのアクションゲームは最近、なかなかありませんし、そこに懐かしさを感じたんです。ストーリーが王道で、泣けるところもあって、奇をてらったわけではないのですが、すごくいい気持ちで終わります。話題になった稲作も楽しくて、めちゃくちゃプレーしました。
吉原監督 僕よりも奥さんの方がゲームができるんで、2人でプレーしました。僕がやると、田植えすらまともにできなくて(笑い)。ただ、僕のペースでプレーすると、アニメ制作になかなか入れないので、会社で相馬にプレーしてもらって、僕と代表の堀川(P.A.WORKS代表の堀川憲司さん)でそれを見ました。
相馬さん 僕がゲーム実況をして、2人がそれを見ていました。圧がありましたよ(笑い)。ボスに負けると、次のストーリーはまだ見られないの?という空気になりますし(笑い)。
吉原監督 ストーリーがすてきなので、アニメではそこをシンプルに見せることを考えました。このストーリーをきっちり見せていくことに集中しようとしました。最初からストーリーをしっかり見せることを考えていました。アニメは、ゲームのようにキャラクターを動かしてプレーすることができません。時間の流れも違います。ただ、それが強みでもあります。
ーー王道のストーリーをしっかり見せようとした?
吉原監督 「天穂のサクナヒメ」は、キャラクターの成長の物語でもあります。実はP.A.WORKSの作品とも重なっています。お話をいただいた時、P.A.WORKSでやるべきだと感じました。 ◇アニメならではの表現
ーーアニメだから表現できたことは?
吉原監督 ビジュアル面では、ゲームは横スクロールなので、平面的な訳ですが、アニメでは奥行きのある空間として作り出し、キャラクターを動かす時に縦移動もできるようにして、場面を表現しています。ゲームとは、違うアングルが生まれやすくなっているところがアニメならではだと思います。
相馬さん (ゲームを制作した)えーでるわいすさんから膨大な資料を提供していただきました。キャラクターの3Dデータなどもいただいたので、アニメを制作する上ですごく助かりました。また、サクナを支える役目だったキャラクターたちは、ゲームで描かれていた内容よりもさらにストーリーを深掘りして描いています。ゲームを一度クリアした方であってもオリジナルストーリーを含めて楽しんでいただける部分だと思います。
ーーしっかりと“人間”を描こうとした?
吉原監督 僕らもそうですが、(シリーズ構成・脚本の) 花田十輝さんが中心にやってくれました。そこがしっかりしているので、スタートからやりやすかったです。
◇水田の“あるある感”
ーー稲作の表現がすごくリアルです。
吉原監督 田んぼをきちんと表現しようとした時、これを描けば田んぼだ!となるのが、なかなか難しいんです。僕は(P.A.WORKSの本社スタジオがある)富山で、10年以上にわたって田んぼのある中で生活しているのですが、田んぼとは何か?と考えると、空の映り込みなんです。それをアニメで描けるのであれば“あるある感”が一番伝わるはずです。自然をキレイに映し込むことに注意しようとしました。
ーー技術的に難しい?
吉原監督 映り込みは、昔からアニメの撮影でやってきたことで、むしろアニメだから表現できることなんです。デジタルになって、より楽に表現できるようにもなっていますが、水面の作画の手法は、作画で水面自体を塗りつぶすパターン、水面の下が見えるように描くパターンの2種類があります。今回は美術さんに発注する時、田んぼの下まで描いてもらいました。水面は作画で描かずに、空の映り込みを撮影で乗せました。稲の影になる部分は、空の映り込みがなくなるようにしています。
ーー10年以上、水田を見てきたからできる表現なんですね。
吉原監督 通勤の際、いつも見る景色なのですが、天気のいい日の田んぼはすごくキレイなんです。空がひっくり返って田んぼに映る。毎日のように見ていて、忘れられない景色なんです。富山は山も有名だけど、山は3日で忘れてしまいました(笑い)。堀川と2人で車に乗って富山に入った時、山を見て、この景色は一生忘れないと思ったけど、3日くらいしたら、もう目に入っていないんです。日常になりすぎたんでしょうね。田んぼの美しさはいまだに感じているので、不思議ですね。僕らにとって田んぼは日常になっているからこそ、こうすると一番キレイになると分かるところもあります。
ーー稲作も経験した?
吉原監督 田植えのシーンがあるのですが、実際に経験しないと分からない動きもあるので、会社の裏にプランターみたいなものを自作して稲を植えてみました。アニメとしては表現できるけど、体験しないと分からないこともあるので。今回は、スタッフにはゲームもなるべく時間をかけてやってもらいました。ゲームをプレーした人が、なるほど!となるような“あるある感”を出そうとしています。