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ガンダム:45周年の挑戦 「復讐のレクイエム」「銀灰の幻影」の新たな映像表現 小形尚弘Pインタビュー

「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」の一場面(c)創通・サンライズ

 人気アニメ「ガンダム」シリーズの「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」が、Netflixで10月17日に世界独占配信された。シリーズ第1作「機動戦士ガンダム」の一年戦争のヨーロッパ戦線に焦点を当てた3Dのオリジナルアニメで、“世界に向けたガンダム”として制作された。VR映画「機動戦士ガンダム:銀灰の幻影」が、Meta Quest 2、Meta Quest 3、Meta Quest 3s向けに10月4日に発売され、10月に、新たな映像表現に挑戦した2作が送り出された。45周年を迎えた「ガンダム」シリーズは、どこに向かおうとしているのか? 同シリーズを手掛けるバンダイナムコフィルムワークスの小形尚弘エグゼクティブプロデューサーに、2作の狙い、シリーズの今後の展開について聞いた。

 ◇日本のアニメは海外展開のチャンス

 「復讐のレクイエム」は、サンライズとSAFEHOUSEが手掛けた映像で、3Dゲーム制作ツール「Unreal Engine 5(アンリアル・エンジン5)」で制作された。アンリアル・エンジンは高度なグラフィックス、リアルタイムレンダリングなどを実現し、主にゲーム開発に利用されている。

 「アニメとゲームの表現、制作工程は全てがイコールではありませんが、お互い技術を交換しながら進化しています。Unrealは現在制作中の『閃光のハサウェイ第二部』でも一部使用していて、アニメを作る工程においてこのような3D技術は大きなウエートを占めつつあります。3Dでベースを作り、2Dのアニメにしていくという工程はこれまでもやってきましたが、『復讐のレクイエム』ではUnrealでシリーズ映像全編を制作する新しい映像表現にチャレンジしようとしました」

 ここ数年、「ガンダム」シリーズを含めた日本のアニメがかつてないほど世界で受け入れられている。配信で日本のアニメを見る海外のファンも爆発的に増えている。「復讐のレクイエム」は、伝統的な日本のアニメの手法を取り入れつつ、海外に向けて新しい表現を目指した。ドイツのエラスマス・ブロスダウさんが監督を務め、米国のギャビン・ハイナイトさんが脚本を担当するなどグローバルな制作陣で、これまでにない映像表現に挑戦しようとした。

 「Netflixさんで配信されるということで、多くの国と地域で同時配信されます。これまでの日本をメインターゲットとしつつ、そこから世界に広げるというやり方とは違います。グローバル展開は試行錯誤しているところで、リミテッドアニメから成長してきた日本のアニメが、世界で受け入れられているのは確かなのですが、グローバルに向け、ルックを含めて模索しているところです。2Dのアニメも海外のスタッフが入ってきていて、それが当たり前の時代になっています。クリエーティブを含めてグローバルに作ることにも挑戦しようとしました。海外のクリエーターが一年戦争をどう見ているのか? 戦争に対する目線が若干違うようにも感じています。海外でも『第08MS小隊』が人気で、その影響も大きいこともあり、山根公利さんにスーパーメカニカルバイザーとして入っていただいています。ガンダム的なメカの表現は抑えないといけないところなので、モビルスーツの表現、アクションは山根さんにご意見をいただきながら進めました」

 日本のアニメが海外で浸透しつつあることは確かだが、まだリーチできていない層もいる。これまでのファンに楽しんでもらいつつ、さらに広くファンを開拓しようとした。そのための新たな映像表現でもある。「ガンダム」シリーズは、約20年前の2004年にも3DCGアニメ「機動戦士ガンダム MS IGLOO」を発表するなど、新しい映像表現に挑戦してきた歴史がある。配信の時代、最新技術だからできる“新たなガンダム”を作ろうとした。

 「世界中には『ガンダム』を見ていない人たちがまだまだいます。そこに可能性を探っていこうと思いました。もちろんコアなファンの方に向けた要素もありますし、大事にしていますが、これまでとは違う方向性の映像にしようとしました。『ガンダム』にとって海外展開は、悲願でもあります。ハリウッドは、コロナやストの影響も大きく、大作を作りにくい状況になっています。日本のアニメが配信で見られている状況も含めて、日本のコンテンツには大きなチャンスがあります。『ガンダム』に関してはありがたいことに、日本とアジアには多くのファンがいますが、米国やヨーロッパに関してはまだまだ伸びしろがあります。50周年や現在企画中のハリウッド版実写映画に向けて、もっと多くの方に見ていただくことが使命だと思っています」

 ◇最先端技術で進化してきた歴史

 「銀灰の幻影」は、U.C.0096(宇宙世紀0096)が舞台の映像で、サンライズと「Gloomy Eyes」「Battlescar」などを手掛けてきたフランスのVR制作会社アトラスVが共同制作した。世界三大映画祭の一つの第81回ベネチア国際映画祭のエクステンデッドリアリティ(XR)部門のヴェネチア・イマーシブのコンペティション作品としてノミネートされたことも話題になった。「ガンダム」シリーズが、国際映画祭にノミネートされるのは初めて。

 「VRはゲームのイメージが強く、映像作品はこれまであまりなかった。しかも、90分もある長編となると非常に珍しい。ゲーム、インタラクティブ要素の強い作品が多く、ベネチアでもストーリー中心の長編の作品はあまりありませんでした。『ガンダム』はシリーズや劇場を中心としながら、富士急ハイランドのGUNDAM THE RIDE、お台場のDOME-Gなどイマーシブな映像展開をやってきた歴史があり、最先端映像技術を取り入れながら、進化してきました。今回のVR作品もその一環で、まだ身近ではないかもしれませんが、今後の映像表現として必要になってくるはずなので、挑戦しました。モビルスーツのコックピットに座りたい、操作したい、格納庫に入りたいなどVRならではの表現も『ガンダム』とは相性が良いと考えています」

 「復讐のレクイエム」のキャラクターはリアル寄りだが、「銀灰の幻影」は2Dのアニメに近い。

 「スペックの都合もあり、VRに適した表現として、2D寄りにしました。(第1作のキャラクターデザインを手掛けた)安彦良和さんの流れをくんだ宇宙世紀のキャラクターを3Dで表現することは『ガンダム』シリーズの一つの課題でもありましたが、クリアできたところもあったのでは思っています。3Dだけではなく手描きも使いながら制作され、サンライズ、アトラスV、Metaで担務を分けながら作業……とフランス語、英語、日本語が入り交じった現場でした」

 ◇「閃光のハサウェイ」第2部はどうなる?

 「復讐のレクイエム」「銀灰の幻影」は共に宇宙世紀作品だ。50周年に向けてどのような展開を考えているのだろうか? ファンが待ち望んでいる「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の第2部も気になるところだ。

 「『水星の魔女』『SEED FREEDOM』と続き、50年周年に向けて、もちろんオルタナティブシリーズもしっかりとやっていくのですが、この秋からはガンダム全体的に宇宙世紀に振る流れになっております。「閃光のハサウェイ」の第2部は絶賛制作中です。お待たせしていますが、できる限り早くにお届けしたいです。皆さんが見たいもの以上の映像になっていると思いますので、期待していただければ」

 3Dによる新たな映像表現に挑戦しているが、サンライズ(バンダイナムコフィルムワークス)は、手描きのロボットアニメの技術、表現に関しては世界最高峰であることは間違いない。

 「今後、海外を含めた展開が鍵になっていますが、『閃光のハサウェイ』の映像が 『復讐のレクイエム』のようになるわけではありません。Unreal Engineだからできることもあれば、2Dだから表現できることもあります。これまで培ってきたメカアクション、人間ドラマ、2Dのガンダムが本丸になることは変わりません。将来に向けて挑戦しながら、映像を進化させていこうとしています。世界を見渡してもほかのどこもやっていないようなロボットアニメがサンライズの強力な武器であり、そこを大事にしつつ、新しい技術や表現を取り入れて、より多くの人に見ていただける作品を作っていこうとしています」

 「ガンダム」シリーズの進化は止まらない。今後も約45年にもおよぶ伝統を受け継ぎながら、新たな表現を見せてくれるはずだ。

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