注目映画紹介:「ハーツ・アンド・マインズ」 35年を経ても色あせないベトナム戦争の記憶

「ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実」の一場面。(C) RAINBOW PICTURES CORP.ALL RIGHTS RESERVED.
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「ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実」の一場面。(C) RAINBOW PICTURES CORP.ALL RIGHTS RESERVED.

 マイケル・ムーア監督が「最高のドキュメンタリー」と大絶賛する「ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実」(ピーター・デイビス監督)は75年、第47回アカデミー賞で最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞した最高傑作。35年を経て見ても色あせず、力強い作品である。「イージーライダー」(69年)や「ラスト・ショー」(71年)などの製作で知られるバート・シュナイダーがプロデュースした。

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 映画は、ベトナムののどかな農村の風景から始まる。「なぜ、こんな村で……」と、画面のこちら側にいる私たちは思うのだが、それこそがこの映画の狙いだ。政府の高官、兵士、米国民、戦場となったベトナムの村人……あらゆる人々の声と顔をつなぎ合わせ、ニュース映像を巧みにはさみ込みながら、ベトナム戦争を立体的に見せていく。政府の情報操作、帰還兵の生々しい証言、子どもを失ったベトナムの村人の怒り……戦争がもたらす罪の普遍性が浮かび上がる。

 この映画が優れているのは、戦争を中心に、同心円上に人々を描いているところ、そして多くの素材を積み上げていく構成力にある。ラスト近くの場面の「墓」と「行進」の対比は深く印象に残る。

 製作当時、米国では政治的報復を恐れて配給会社が降りたり、ジョンソン元大統領の政策補佐官に出演シーンをカットしろと要求されるなど、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て公開されたという。ちなみに、本作に出演している元国防省顧問のダニエル・エルズバーグは、ベトナム戦争の早期終結を促した「ペンタゴン・ペーパーズ」といわれる軍の最高機密文書を内部告発した人物で、今年のアカデミー賞でドキュメンタリー部門にノミネートされた「アメリカで最も危険な男~ダニエル・エルズバーグの回想」のあの“エルズバーグ”だ。日本での劇場公開は今回が初めて。「ウィンター・ソルジャー/ベトナム帰還兵の告白」と2本同時に19日から東京都写真美術館ホール(東京都目黒区)で公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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