シャンハイ:菊地凛子さんとハフストローム監督に聞く 「自分を型にはめない監督をリスペクト」

映画「シャンハイ」について語った菊地凛子さん(右)とミカエル・ハフストローム監督
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映画「シャンハイ」について語った菊地凛子さん(右)とミカエル・ハフストローム監督

 太平洋戦争開戦前夜の上海を舞台に、列強の巨大な陰謀に巻き込まれていく男女を描いたサスペンス大作「シャンハイ」が20日、公開された。出演は、米俳優のジョン・キューザックさんをはじめ、アジアからは渡辺謙さん、菊地凛子さん、さらに香港のチョウ・ユンファさん、中国のコン・リーさんといったそうそうたる顔ぶれをそろえた。監督は「ザ・ライト −エクソシストの真実−」が先ごろ公開されたスウェーデン出身のミカエル・ハフストロームさん。作品のPRで来日したハフストローム監督と菊地さんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 「シャンハイ」の舞台は1941年、太平洋戦争開戦前夜。日本軍占領下の上海に、親友の死の真相究明のために降り立った米国諜報員ポール(キューザックさん)。事件を目撃したと思われる親友の愛人スミコ(菊地さん)は姿を消し、調査を進める中で、ポールは事件のカギを握ると思われる裏社会の黒幕アンソニー(ユンファさん)とその妻アンナ(リーさん)と知り合う。一方で、日本軍情報部の大佐タナカ(渡辺さん)がポールの前に立ちはだかる。それぞれの思惑を抱えた男女が、列強の巨大な陰謀に巻き込まれていく……というストーリー。

 −−一緒に仕事をするのは初めてだと思いますが、お互いの印象は?

 ハフストローム監督 凛子は、(彼女が演じる)スミコというキャラクターに必要な感覚、表情を持っていました。彼女の出演作を見て、役者としての才能に寸分の疑いも持っていませんでしたが、出会ったときに何かを感じないと一緒に仕事をしようとは思わない。でも仕事をしたということは、そうした気持ちが起きたということです。

 菊地さん 監督はすごく勇気のある方。中国人、日本人、米国人……これだけインターナショナルなキャストをまとめ上げて物語を描こうとするんですから、ある意味パンクだなあと思います。

 −−いろんな国籍の人がいる中、演出で配慮したことは?

 ハフストローム監督 登場人物を、米国人はこう、日本人はこうというステレオタイプな描き方にしないことが大切でした。また、一部例外はあるものの、それぞれの国の人がその国のキャラクターを演じることが大事でした。だからこそ演技が不自然にならないよう、俳優たちからはその国に対する僕にはない知識をアドバイスしてもらう必要がありました。

 −−例えば、どんなことでしょう?

 菊地さん (ちょっと思案顔で)……私の場合、そういうことはなかったですね。

 ハフストローム監督 いや、あったよ。きみは、スミコの生い立ちに関するイメージを持っていた。アヘン中毒患者はこんな行動をするのではないかと僕に語ってくれたよね。それが助けになった。スミコは壊れかけている中毒患者。決してグラマラスな役じゃないけれど、凛子が話してくれたお陰でスミコ像が見えてきたんだ。

 菊地さん 確かに、そういえば彼女がただの娼婦(しょうふ)ではなく、過去にどういうことがあって、夢や希望を持って上海に来て、そしてどうなっていったかという足跡と、これからたどるであろう足跡に対する考えは提案させてもらいましたね。

 ハフストローム監督 あと、(渡辺)謙は、日本の軍人の態度やたたずまい、そういったことの知識を与えてくれました。ですから現場にはもちろん(時代考証の)エキスパートは参加していましたが、大なり小なり、俳優たちとはディスカッションを重ねながら作っていったのです。

 −−監督はこれまで、「1408号室」や「ザ・ライト −エクソシストの真実−」といったホラー的な作品が多かったと思いますが、今回は違いますね。

 ハフストローム監督 今、こういうタイプの作品が作られるのはすごくまれ。だから僕にとってはチャンスだった。これは、あの時代を舞台にしたコスチュームドラマ。大人が見られるアドベンチャーです。ストーリーもそうですが、作っていること自体がアドベンチャーでした(笑い)。

 菊地さん 監督のこれまでの作品とは確かにカラーは違いますが、自分を型にはめない点でタフだと思う。私も型にはめられるのが嫌で、いろんな役を演じられる女優でありたいと思っているので、そういう意味では監督のチャレンジはとてもリスペクトできるし、私もこの作品はこの作品という(区別した)気持ちで演じられました。

 −−スミコは出番もせりふも少ないですが、だからこそ表現する難しさがあったと思います。

 ハフストローム監督 その通り。だからこそ俳優選びが肝心でした。スミコという人間を分かってくれる女優が必要でした。この瞬間、スミコが何を感じているのかを、いつも凛子と話し合っていました。ディスカッションするたびにスミコというキャラクターが凛子の中にありました。終盤のスミコは、本当に壊れてしまっていて、死相が感じられるような肉体的な表現を要しました。演技というのは、シーンの数とかせりふの数ではありません。俳優がスクリーンに登場したときに何をするのかが肝心です。端役なんてものはないのです。その点において、スミコはまさに好例だった。出番が多い役ではないが、作品にインパクトを与えられる。ここに登場する俳優たちは、みんながつながっていることで作品が一つにまとまっているのです。

 <ミカエル・ハフストローム監督のプロフィル>

 1960年、スウェーデン生まれ。ストックホルム大学で映画を学び、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツに入学。卒業後、フリーの映画評論家としてキャリアをスタートさせるが、スウェーデンのテレビで助監督や脚本の仕事をするようになり、テレビドラマの監督に。95年、映画監督としてデビュー。主な監督作に「ポゼッション」(04年)、「1408号室」(07年)、「ザ・ライト/エクソシストの真実」(11年)など。初めてハマったポップカルチャーは「くまのプーさん」。

 <菊地凛子さんのプロフィル>

 1981年、神奈川県生まれ。99年「生きたい」(新藤兼人監督)で映画デビュー。06年、米映画「バベル」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)に出演し、米アカデミー賞助演女優賞にノミネートされて一躍時の人になった。10年には村上春樹さん原作のベストセラー小説を映画化した「ノルウェイの森」に出演し、話題を集めた。最新作はキアヌ・リーブスさん主演の「47RONIN」(12年公開)。主な出演作に、浅野忠信監督の「トーリ」(04年)、三木聡監督の「図鑑に載ってない虫」(07年)、イザベル・コイシェ監督の「ナイト・トーキョー・デイ」(09年)、押井守監督の「アサルトガールズ」(09年)、篠原哲雄監督の「小川の辺」(11年)など。初めてハマったポップカルチャーはテレビアニメ「まんが日本昔ばなし」。

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