はじめの1巻:「千年万年りんごの子」 村の禁忌に触れた夫婦の物語

田中相さんのマンガ「千年万年りんごの子」(講談社)1巻の表紙
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田中相さんのマンガ「千年万年りんごの子」(講談社)1巻の表紙

 1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、マンガ誌「ITAN」(講談社)で連載、昭和のりんご農家を舞台に、村の禁忌に触れてしまった夫婦を描いた田中相さんのマンガ「千年万年りんごの子」です。

ウナギノボリ

 昭和23年の冬、赤ん坊だった雪之丞は捨てられた。やがて養父母の元で大学まで出た雪之丞は、見合いをしたりんご農家の娘・朝日に「入り婿に来てくれ」と頭を下げられ、承諾する。祝言の翌日から、りんごの手入れをし、徐々に距離を近づけていく雪之丞と朝日。そして2月の半ばのある日、体調を崩した朝日の代わりに1人で配達に出かけた雪之丞は、たくさんの実を付けたりんごの木を見つけるのだが……。

 ◇編集部からのメッセージ ITAN編集部 斉藤奨さん「作者がどうしても描きたかったもの」

 じつはこの作品には原形となった読み切りネームがあり、残念ながらそれは一度“全ボツ”になったのですが、時をへて連載用として再度組み立てられました。田中相さんにとってどうしても描かれたかったものがこの「千年万年りんごの子」には詰まっています。

 「ITAN」でデビュー後、「地上はポケットの中の庭」という短編集で注目された才能の初めての連載作。舞台が昭和の青森のりんご農家だったり、村の禁忌という古い因習に触れられたり、1話あたりのページ数が今まで以上に多かったりといろんなチャレンジをされていますが、何よりも連載という未知で大きなものに挑まれています。

 構想段階から田中相さんの頭の中にはこの連載の着地点がありました。しかし連載の醍醐味(だいごみ)とはスタート段階では思いもよらなかった分岐点や膨らませ方などの“生き物性”にあると思いますし、読者もマンガとして、より半径の大きな作品に育つことを期待されています。大きな反響をいただく中で、きっと田中さん自身が一番それを実感し、毎回楽しんで描かれていると感じます。

 ネームの第一稿からほぼ完成形に近い非常に精度の高いネームを見せてくださる方なのですが、その際の打ち合わせでも「じつはこんな展開も考えている。ちょっとネームを描いてみたので読んでみてください。どう感じますか?」と多くの引き出しを持っている方なので、担当していてワクワクする瞬間やハッとする瞬間がたくさんあって楽しいです。

 取材のときは、必要なことも端から見ればそうでないことも、全部知らないと気が済まず、メモ魔で好奇心旺盛な田中さんは、この連載を通してどんどん新たなことを吸収され、さらに新境地へ向かうと思います。もっともっと大きくなっていく方です。

 2巻は2013年春ごろに刊行予定です。そして読者の皆様の大声援のおかげで掲載誌「ITAN」は12年12月より季刊から隔月刊になりますので、「千年万年りんごの子」をよりペースを上げてお届けできると思っています。隔月刊化の12月には田中さんのとある新企画を発表できると思いますのでこちらにもご注目ください。今後ともご声援のほど何とぞよろしくお願い致します。

 ◇書店員の推薦文 恵文社バンビオ店 宮川元良さん 「土着信仰が絡んだファンタジー」

 読み始め、最初は捨て子で親の顔も知らない夫のトラウマを、妻が持ち前の明るさで解きほぐしていく話かと思ったら、あれよあれよという間に、村の土着信仰が絡んだファンタジーに! 閉鎖的な村の中で夫・雪之丞が食べさせたりんごのせいで、神への供物へと変化していく妻、朝日を雪之丞は救えるのか!?と手に汗握る展開に。「夫がんばれ! 妻・朝日が救われますように!」と思いながら読了。著者の田中さんは短編も素晴らしかったが、初の連載作品のこちらも素晴らしい!

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