ひみつのアッコちゃん:川村泰祐監督に聞く 綾瀬はるかと岡田将生は「最高のマッチング」

「映画 ひみつのアッコちゃん」について語った川村泰祐監督
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「映画 ひみつのアッコちゃん」について語った川村泰祐監督

 ギャグマンガ家の故・赤塚不二夫さんの代表作「ひみつのアッコちゃん」が、作品が誕生して50周年を迎えた今年、初めて実写映画化され、1日に公開された。小学校5年生の加賀美あつ子が、魔法の鏡でいろんなものに変身するファンタジックな物語は、69年にはテレビアニメ化され、日本全国で「アッコちゃんブーム」を巻き起こした。その後も2度テレビアニメ化された。その国民的人気マンガを実写映画化した今作のメガホンをとったのは、「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」の川村泰祐監督。自宅には「床が抜けるんじゃないかと思うほど」たくさんのマンガがあるという「超マンガファン」で、今回の仕事との「相性はいい」と言い切る川村監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 物語は、10歳の少女、加賀美あつ子が、鏡の精からもらった魔法のコンパクトを使って22歳の大学生に変身。化粧品会社に勤めるエリート社員の窮地を、奇想天外なアイデアで救っていくというファンタジックなストーリーだ。女優の綾瀬はるかさんが演じるのは、22歳のアッコちゃん。その相手役でエリート社員の早瀬尚人に岡田将生さん。ほかに、鏡の精役の香川照之さんはじめ、谷原章介さん、もたいまさこさん、鹿賀丈史さんら多彩なキャストが顔をそろえる。

 ◇目指したのは地に足のついたファンタジー

 −−今作の企画立案者であり、脚本を書いた山口雅俊さんとは10年来の付き合いで、その山口さんから「二人三脚で作っていこう」と持ちかけられたそうですね。監督をするに当たってどのようなアプローチをされたのでしょうか。

 まず、テレビアニメと原作マンガの両方を勉強しました。テレビアニメは、女の子の夢の世界を強調した、まさしく“女の子のどストライク”な世界。一方、赤塚さんの原作は、それに加えて、大人ってこうなんだよとか、子供はこういうことをしてはいけないんだよというメッセージが、1話完結の話の中に入っている。鏡の精にしても、サラッと現れてシャッと消える。そうしたナチュラルな部分がある。いまの子供はサンタクロースを信じていない。ならば原作に近づけ、シチュエーションを現代に置き換え、そのうえでアニメのいいところをちりばめれば、現代にマッチすると考えました。

 −−具体的には?

 原作にはないけれどアニメにはあった鏡の墓を復活させたり、鏡の精を原作のように男の人にしたり。山口さんが書いた初期の台本では、赤塚マンガのキャラクターが全員登場します。谷原さんが演じる会社専務もイヤミ(「おそ松くん」の登場人物)のようなキャラクターでした。それを、人物設定によりリアリティーを持たせるよう修正し、アッコちゃんも、アニメでは絵描きの娘だったり、ちょっとお金持ちの家の娘だったりしますが、より庶民的にしました。それによってラブストーリーが引き立ち、浮世離れせず、地に足のついたファンタジーになると思ったからです。

 −−そのアッコちゃんを綾瀬はるかさんが演じていますが、全く違和感がありませんでした。監督からご覧になった綾瀬さんの魅力はどんなところでしょうか。

 やっぱりナチュラルさですね。「中身は10歳の少女です」と演じてもわざとらしさがない。素直で、そのくせチャレンジャー。このぐらい大きな女優さんになるとちゅうちょしそうなことも、「やってみよう!」と挑戦してしまう。もちろん試行錯誤はしますが、チャレンジ精神、ポジティブさも彼女の魅力です。半面、根がすごくまじめで、「本当に10歳に見えるかしら」と悩んでいました。

 −−それに対して監督はなんとアドバイスしたのですか?

 綾瀬さんならこなせる、無理せずナチュラルに演じれば大丈夫だという話をずっとしていました。それでも彼女は途中何度も「大丈夫?」と確認していましたが。

 −−綾瀬さんとの仕事は初めてですか。

 僕が深夜のテレビドラマでチーフ助監督やっていたときに1度仕事をしています。綾瀬さんが上京してすぐの16、17歳ぐらいのとき。そのときは、ヒーローもののコスチュームを着る設定でした。普通、あの世代の女の子はピッチリとしたスーツを着て、「変身!」とやるのを恥ずかしがりますが、彼女は喜んでやっていたので、面白い子だなと思っていました。そのときから印象的な人で、いつか出てくるだろうし、そのときは仕事をしてみたいと思っていましたが、こんな大作でご一緒できるとは、本当に僕は幸せです(笑い)。

 −−ちなみに、アッコちゃんのいろんな変身シーンがありますが、監督のお気に入りは?

 株主総会でのフリフリしたスカートのスーツ姿と、最後の場面でのスーツ姿。特に最後のスーツにはこだわりました。ヒラヒラしていないとアッコちゃんじゃないと。あとはバイクスーツ。もっと(シーンを)長くしたかったんですが、尺の関係上、それはできませんでした。

 ◇赤塚さんに見てもらいたい

 −−アッコちゃんが恋をするエリート社員、早瀬尚人役の岡田将生さんとの仕事は?

 初めてです。彼が売れてる理由が分かります。今回は10歳の女の子の相手役。爽やかで可愛らしいラブストーリーを描きたいと思っていましたから、岡田さんが受けてくれてよかった。彼と綾瀬さん、最高のマッチングです。

 −−綾瀬さんとのツーショットの美しさもさることながら、序盤での10歳のアッコちゃん(吉田里琴さん)と観覧車に乗っている場面での岡田さんの顔のアップにはつくづく見とれました。

 あれは予定になかったんですが、撮っているときに、なんてきれいなヤツなんだとどうしても寄りを撮りたくなってああなりました(笑い)。あの美しさ、中性的な感じが、今回のファンタジックなラブストーリーの世界観にぴったりはまりました。

 −−赤塚さんがご存命だったら見てもらいたいですか?

 見てもらいたいです。赤塚さんの作品に、何年後かのアッコちゃんを描いた『ヤング版ひみつのアッコちゃん』というのがあるんですが、それを可愛らしく作ったらこうなりました、と。これまで僕は、マンガの実写化を3本やってますが、マンガにとっての命はやっぱりキャラクター。それは絶対に壊してはいけないと思っていて、そのキャラクターを生かしつつ、どうリアルベースに乗せるかというのが僕の仕事。ですから赤塚さんに、こういうのどうでしょうとお見せして、ぜひ感想をうかがいたいです。

 −−マンガやアニメファンが多い読者にメッセージを。

 今回の仕事を受けたときは、アッコちゃんをリアルタイムで知っている世代の方々がどう思うんだろう、みなさんそれぞれアッコちゃん像をお持ちだろうし、そんな中で僕が作っていいのかというプレッシャーがありました。ですが、完成した今は、超マンガファンの自分が監督としてマンガを実写にするとこうなりました、ですから、まずは見てください、というのが素直な思いです。マンガ、アニメのファンもぜひ見てください。

 <プロフィル>

 1968年生まれ。千葉県出身。「ランチの女王」(02年)、「大奥~華の乱~」(05年)、「のだめカンタービレ」(06年)、「赤い糸」(08年)、「闇金ウシジマくん」(10年)など数々のテレビドラマの演出を手掛ける。映画「赤い糸」(08年)、「のだめカンタービレ 最終楽章 前編」(09年)の監督補をへて、10年に映画「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」で映画監督デビュー。そのほか監督作に映画「こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE~勝どき橋を封鎖せよ!~」(11年)がある。初めてハマったポップカルチャーは、マンガ「ブラック・ジャック」と「天才バカボン」。「『ブラック・ジャック』は怖いけど面白いというのを初めて体験したマンガです」と語る。

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