図書館戦争:佐藤信介監督に聞く 岡田准一と榮倉奈々は「読者投票がなくてもこの2人に依頼した」

最新監督作「図書館戦争」について語った佐藤信介監督
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最新監督作「図書館戦争」について語った佐藤信介監督

 人気グループ「V6」の岡田准一さんと榮倉奈々さんの主演映画「図書館戦争」が全国で公開中だ。原作は、「フリーター、家を買う。」や「阪急電車」、「県庁おもてなし課」(5月11日公開)が映像化されている有川浩(ありかわ・ひろ)さんの小説の人気シリーズ。映画「GANTZ」シリーズの佐藤信介監督がメガホンをとった。佐藤監督に撮影のエピソードなどを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 「図書館戦争」の舞台は、元号が、昭和から「正化(せいか)」に改まり30年が経った近未来。国家によるメディアの検閲が正当化される時代に、読書の自由を守るために検閲に対抗すべく生まれた図書館の自衛組織「図書隊」の活躍と、そこに入隊した熱血女性隊員・笠原郁と彼女を鍛える鬼教官・堂上篤の物語が展開する。笠原郁を榮倉さんが、堂上篤を岡田さんが演じている。

 映画化に当たり、原作では控えめだった恋愛線が強調され、戦争アクションとしてはもちろん、恋愛ドラマとしても楽しめる仕上がりになっている。また、図書隊の祖・稲嶺司令は、原作の文庫版で有川さんと対談されていた故・児玉清さん以外考えられないという有川さんの思いをくみ、仁科基地司令という映画オリジナルの人物を登場させ、児玉さんと親交があった石坂浩二さんがその役にふんし、児玉さんも稲嶺司令として写真による出演をするなどの心憎い演出がなされている。

 さて、恋愛ドラマと戦争アクションが混然一体となった映画というと、なかなかイメージしづらいかもしれない。それについて佐藤監督は「もし、今どこかで戦争が起こり、自分たちが軍隊に入ったとする。僕が20代の若者だったとしたら、眉間にしわを寄せて国の行く末について論じてばかりいるわけではなく、たぶん好きな人もいるでしょうし、友人たちと、あの人のことをどう思っているのかという話もするでしょう。そういう、日常の感覚を描いてみたいと思ったのです」と説明する。

 今作で主人公を演じているのが、岡田さんと榮倉さんだ。実はこの2人は、本の雑誌「ダ・ヴィンチ」の読者投票による仮想誌上キャスティングで、堂上役、笠原役でそれぞれ1位を獲得している。そんな2人を迎えて映画化した。さぞかし重圧を感じたことだろうと推察されるが、「たぶん、僕らがゼロから(キャスティングを)やっていても、この2人には依頼していたと思います。誌上キャスティングの話はあとから聞きましたが、それによって答え合わせができた感じです」と、重圧どころかむしろ自信とやる気が出たようだ。

 堂上役の岡田さんとは、03年の「COSMIC RESCUE」以来10年ぶりのタッグだ。当時、20代前半だった岡田さんの印象を、「すごくストイックで、強過ぎる集中力というか、まなざしというか、それがすごく印象的でした」と振り返る。今回、再び顔を合わせることになり、「あのストイックさが何倍増しになっていたらどうしようかと思った」と笑うが、実際は「人間的なふくらみというか、それだけではない雰囲気が加わっていて、その半面、ゼロから作っていく気持ちというのがとても強く、もっと新しいことができるんじゃないか、もっとよくなるんじゃないかと常に考えてらっしゃる。一緒にやっていてすごく面白かったし、すごくやりやすかった」と絶賛する。

 一方、図書隊員という役柄上、柔道などのアクションにも挑んでいる榮倉さんについては「すごく運動神経がいいんです。のみ込みも早い。ご本人はすごく柔らかい感じなので本番はどうなるかなと思うんですが、すぐ決まるんです。やっぱりさすがだと思いました」と感心していた。

 印象に残るシーンに、堂上と笠原が車の中で話をするシーンを挙げる。小さなシーンで会話も何気ないものだが、監督自身、そこでの会話にはいろんなことが含まれている気がしたため、「2人のちょっとした表情を執拗(しつよう)に撮っていった」という。お陰で、岡田さん、榮倉さんはほぼ1日、車の中で同じ演技を繰り返すことになったわけだが、最初のころの2人は、「カット」の掛け声がかかると、「へえ、そうなんですか」と普通の会話をしていたそうだが、テークを重ねるにつれ会話がなくなり、しまいには空を見ながら、「あ、鳥だ」とつぶやくまでになったという。「それがまた妙に生々しくてね(笑い)。その場面はもともと素の感じを作ってやっているんですけど、より素の感じが出た場面になりました」と満足気に語った。

 そういったこだわりのシーンも含め、佐藤監督が「(戦争という)どんと大きく描くところはあるけれど、顕微鏡で見たような(細やかな)人の気持ちの動きも見せていきたい」という意気込みで挑んだ映画「図書館戦争」。ちなみに、ところどころで“乙女心”をくすぐられる胸キュン場面に出くわしたが、佐藤監督ご自身の恋愛体験は入っていないとのこと。「自分が経験していないことを作るのが好きなので。といいつつ、地味に出ているかもしれない。一応、公式にはないということで」と断りを入れていた。映画は27日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1970年生まれ、広島県出身。武蔵野美術大学在学中に脚本・監督を務めた16ミリ短編映画「寮内厳粛」が「ぴあフィルムフェスティバル94」でグランプリを受賞。01年「LOVE SONG」で監督としてメジャーデビュー。「修羅雪姫」(01年)、「COSMIC RESCUE The Moonlight Generations」(03年)、「砂時計」(08年)、「GANTZ」(10年)、「GANTZ:PERFECT ANSWER」(11年)などの監督を務めた。09年の「ホッタラケの島~遥と魔法の鏡~」は、モントリオールファンタジア国際映画祭長編アニメーション部門特別賞などを受賞。脚本家としても活躍しており、手掛けた作品に「春の雪」(05年)、「県庁の星」(06年)などがある。12年にはテレビドラマ「ラッキーセブン」のシリーズ構成、演出を担当した。初めてはまったポップカルチャーは、中学生の頃に見た「未知との遭遇」。「僕は田舎に住んでいたので、完全にそれにやられてしまいました。いまだにひもといて見ても、本当にうまくできているなと感心します」と話していた。

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