オムニバス形式の劇場版アニメ「SHORT PEACE」が全国で公開中だ。今作は「AKIRA」などで知られる大友克洋監督をはじめ、森田修平監督、安藤裕章監督、カトキハジメ監督といった日本のアニメ界の気鋭の監督がそれぞれ手がけた短編4作と森本晃司さんによるオープニングアニメーションで構成されている。豪華なクリエーターが顔をそろえたことで話題を呼んでいる今作について、「九十九(つくも)」の森田監督と「武器よさらば」のカトキ監督に、製作時のエピソードや短編の魅力などについて聞いた。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)
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今作の製作のきっかけについて、森田監督が「大友さんのコンテが上がったぐらいのときに(オファーを)受けました。この作品の中で自分は一番若いというのもありますが、勢いで作ろう、少人数で作ろうみたいなのは最初に決めていました」と語れば、「(大友さん原作のマンガ)『武器よさらば』は、本当に何もない時代にあそこまできっちり描いたということに驚きました。作品が今読めないのはもったいないし、あの作品にインスパイアされて、その後、作られた『パワードスーツもの』の方が“ジャパニメーション”として有名になっているので、これはやっぱり(この作品を)作っておくべきだということを、大友さんに言いました。熱意が伝わったのか大友さんから『やったら』と言われましたが、実は作るのが大変な原作なので、誰かが作ったら自分はフィギュアを作るつもりでした(笑い)」とカトキ監督は笑いながら当時の心境を振り返る。
森田監督は「武器よさらば」では演出を担当しており、カトキ監督の発言を聞いた森田監督が「自分も聞いてました。カトキさんという人がいて、すごく面白いんだよと大友さんが言っていました」と対面前のエピソードを披露。「結果論ですけど、カトキさんと僕を含めてCGチームはすんなり(意見が)合致しました。スタッフは一つ目のカトキさんの絵とかを見て、できそうなイメージはありました。自分が最初(演出で)悩んでいたのは、カトキさんがどっちの方向に持って行くか。例えばストーリーを(原作から)変えるのか、どうするのだろうというのが分かりませんでした。カトキさんは、原作を生かして、そこに今の人たちが見ても持ちこたえられるようなディテールを入れていくという方向性が一緒にやっていくうちに分かってきて、それで興奮したというか、面白かった」と、カトキ監督の製作手法を絶賛した。
森田監督の話を受けて、カトキ監督は「試写に来ている業界の40代後半や50代ぐらいの方たちが、まさに思春期にこれを読んでいる。『どういうふうにいじるのか。一体どうするつもりなのか見てみよう』と、みんなそういう視線でした(笑い)。そういう人たちがいる一方で、(原作を)知らないような人たちもいると、イメージできる客層が幅広すぎる。濃い人が多くないことは経験的に分かっていましたが、両方のバランスを取るのが難しい。作品を真摯(しんし)に作るということは、当時を知る人の目線にもならなければいけないわけで、(原作を知る人と知らない人の)両方いると困りますね……」と原作ものの映像化にまつわる悩みがあったことを明かす。
捨てられた傘や着物などの怨念(おんねん)から生まれた“物の怪(け)”が出てくる森田監督の「九十九」は、ある種、日本の古典のような雰囲気だが、「今回の話を受けて僕が今までためてきたものもあり、それを出したいと思いました。ただ10分だとどうしてもこぼれてしまう部分もあるので、今回はこうしたいああしたいとか、妖怪の絵を見ると妖怪が逃げたり、追いかけてきたりということがしたくなると思いますが、それ以外のところで、何か簡潔に淡々と“昔ばなし”のような感じで、普通の話だけど何かじわじわくる面白さがあればな、というところで作りました」と作品に込めた思いを語る。
一方、近未来メカアクションという「武器よさらば」で初めて監督を務めたカトキ監督は、「大友さんは作っている間は何も言わないので、最初に一言二言、言われたことを元に作るしかない。『今どきのアクション映画はすごい。カメラが動くし、コンテで描けない』と言われて、最近のハリウッド映画などを見ているときにどうコンテに起こすか考えると描けないみたいなのは確かにある。そういうのをリクエストされているのかと思い、カメラを動きっぱなしにしたのも、最初にそういうことを言われたのがあったからですね」と大友監督から製作時に課題を与えられたことを明かす。
今作の共通テーマである“日本らしさ”をどう意識したかを聞くと、森田監督は「『九十九』と『火要鎮』の2本がそろってから『日本』というくくりにして、というのはあったかもしれない。まあ僕の作品は“もったいない”がテーマですし(笑い)。難しかったのは(アヌシー国際アニメーション映画祭に出すため)英語に翻訳したときに『ご苦労様』が訳せなかったことですね。“間”とかも作っているうちに自然に日本になりました」と語った。カトキ監督は「僕は最後に今作に合流したので、原作をいただいたころから“エンタメ担当”ということを意識していました(笑い)。エンタメとして成立させることを考えて、実はあまり(日本ということは)考えていなかったです。原作では無国籍な舞台なんですけど、『日本にすればいいんじゃない』と大友さんに言われたこともあり、それがあるならいいでしょう。4本まとまれば、日本らしくなるのではと思っていました」と振り返る。
「SHORT PEACE」全体の見どころについて、カトキ監督が「どれも短編なので、どんな映画でもそうですけど、何倍も仕込んでおいて、捨てるフィルムのほうが多いくらい。ということは調べて作り込んであるものが10分、20分だと盛り切れなくて、どんどんあふれちゃう感じがする。そのへんが短さゆえのぜいたくな雰囲気だと思います」と語れば、森田監督は「ストーリーとしてわざわざ伝える必要はないけれど、実は仕込んでいるみたいなものはあるので、そういうところも踏まえて、何度も見ると気付いていくというか、『なんだろうこの良さは』というのがあると思います。自分が以前短編を見たときは、それを感じてハマっていった。今から考えると何が面白いのかを分析しても分からないけれど、なぜかすごく好きで何か楽しかったので、そういう楽しみ方もあるのではと思います。それは作り手目線からもしれませんけど」と持論を展開した。「SHORT PEACE」は新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<森田修平監督のプロフィル>
1978年生まれ、奈良県出身。アニメーション監督の代表作として「KAKURENBO」「FREEDOM」などがある。「KAKURENBO」では東京アニメアワード公募作品一般部門で優秀作品賞とカナダ・ファンタジア映画祭ショートフィルム部門金賞、「FREEDOM」では日本映像技術賞アニメ・ビデオパッケージ部門/技術奨励賞を受賞。
<カトキハジメ監督のプロフィル>
1963年生まれ。デザイナー、イラストレーター。「機動戦士ガンダム」シリーズのメカデザインを務め、プラモデルやアクションフィギュアのデザイン監修、「バーチャロン」「スーパーロボット大戦」などのゲームのデザインなどを手がける。作品集「GUDAM FIX」「機動戦士ガンダムUCメカニカルアーカイブ」などを発表。
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