アナと雪の女王:2人の監督に聞く「アナにとっては愛、エルサは恐れる心とどう向き合うかの物語」

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 ディズニー・アニメーション・スタジオの最新作「アナと雪の女王」が全国で公開中だ。今年の米アカデミー賞で長編アニメーション賞と主題歌賞(「Let it Go」)に輝いた今作は、アンデルセンの傑作「雪の女王」にインスピレーションを得て製作された。共同で監督を務めたのは、70年代からアニメーターとしてディズニー作品にかかわってきたベテランのクリス・バックさんと、今作が監督デビュー作となり、ディズニー長編アニメーションとしては初の女性監督となるジェニファー・リーさん。1月に来日した2人に話を聞いた。

ウナギノボリ

 映画「アナと雪の女王」は、触れるものを凍らせる“禁断の力”を持つ姉エルサ(声:イディナ・メンゼルさん)と、その妹アナ(クリステン・ベルさん)の物語。王家に生まれた2人は仲のいい姉妹だった。しかし、エルサが図らずも王国を雪の世界に変えてしまったことで、その関係は引き裂かれてしまう。“雪の女王”となったエルサと王国を救うために、アナは山男クリストフ(ジョナサン・グロフさん)とその相棒のトナカイのスベン、そして、“夏に憧れる雪だるま”オラフ(ジョシュ・ギャッドさん)とともに、エルサが身を隠す雪山に向かう……というストーリーだ。

 今作の特徴として挙げられるのは、雪と氷の世界をアニメーションで描画したことだが、もう一つ忘れてならないのは、登場するキャラクターの表情や仕草の表現の豊かさだ。例えば、アナがチョコレートをつまみ食いしたり、エルサの部屋を鍵穴からのぞいたりといった動きは、女性監督ならではの繊細さが息づいており、そのリアルでチャーミングな動きには感嘆せずにいられない。そういったアナの動きで参考にしたのは、リー監督自身の幼いころの記憶と、リー監督の10歳になる娘の仕草だという。また、5人兄弟で、2人の姉がけんかするのを子どものころよく見ていたというバック監督は「ジェニファー(・リー監督)がアイデアを出すたびに、いい考えだと思ったよ。僕が出すアイデアは、男だからかな、ちょっとありきたりだったりすることがあって、そういうときはジェニファーが、こうしましょうよと提案してくれた。それがすごくありがたかった」と新人監督を労う。

 興味深いのは、オリジナルボイスキャスト(声優)のアイデアが、キャラクター造形に反映されたことだ。「クリステン・ベルとは、女の子ってしゃべる速度が速いわよねとか、洋服にすぐシミを付けちゃうのよねとか、いろいろ話し合いながら作り出していった」(リー監督)という。オラフ役のギャッドさんも、いろんなアドリブを入れ、それらがアニメーションに生かされたという。それらは脚本が固まっていない、まだアイデアの段階でキャスティングを始めたからできたことだ。「ニューヨークやロサンゼルスで歌える役者をオーディションし、キャストが決まると同時にストーリー作りが始まり、台本づくりと絵コンテの作業を同時進行させる。アナ役のクリステンはアナそのものとしかいいようがないほどパーフェクトで、完璧じゃないプリンセスというのを気に入ってくれて、いろんなアイデアを出してくれた」とバック監督は製作裏話を熱く語る。

 それに補足する形でリー監督が「一応、書かれたせりふを(キャストに)渡して、それで1回録(と)ってみてから、アドリブを入れたり、こうしてみたらどうだろうかと半分ふざけながらやってみるの。アニメーション作りにはまだ入っていないから、そこでのアイデアはストーリーに取り入れることができる。絵コンテとレイアウトの作業が終わって、材料をアニメーターに渡し、そこからアニメーションの作業に入ってもらう。アニメーションの作業というのは、一つのカットで数週間もの時間とお金がかかるから、一度作るとおいそれとは変えられない。だから作業に入るときは、覚悟を持ってお願いするのよ」と製作過程を説明する。

 そうはいっても、「どうしても1、2シーンは変更するところが出てしまう」(バック監督)そうだ。今回は氷の宮殿のシーンで2カ所変更したという。それについてバック監督は「アニメーターが作業に入ってすでに数週間たっていたが、本当にごめんなさいと変えてもらった。でもそのお陰で、よりよいシーンになったと思うよ」とスタッフをたたえるとともに仕上がりに自信を見せた。

 今作には、これまでのディズニー・アニメが描くラブロマンスとは異なる、ある意味予想外の展開が待ち受けている。それについて、リー監督は「これは、アナにとっては、『愛』とは何かを学ぶ物語。若いときは恋に落ちて、盲目的にまい進してしまいがちだけれど、年齢を重ね、経験を重ね、本物の愛が何かを知る……それがアナの道程だった。一方のエルサにとっては、『恐れる心』とどう向き合っていくかの物語。エルサの孤独は悲劇的だけれど、それを救うものが一般的な恋愛とは違うものだったというふうにしたかったの」とテーマに込めた思いを語った。

 ところで、今作のスタッフには日本人の名前がちらほら見受けられる。そこで2人の監督に、アニメーション作家を目指す人へのアドバイスをお願いした。するとバック監督は、「人生をじっくり観察することが大切。やっぱり最高のアニメーターは、人間や動物に対する観察眼が優れている。それを自分が描くキャラクターに落とすことができるのが最高のアニメーター」と語り、それを横でうなずきながら聞いていたリー監督は「よいアニメーターというのは、自分が描く絵を通してストーリーをつづることができる。だから、クリスが今言ったことを大切にしてほしいです」とアニメーターを目指す人にエールを送った。映画は14日から全国で公開中。

 <クリス・バック監督のプロフィル>

 米カリフォルニア芸術大学でキャラクターアニメーションを学び、同校で教べんをとっていたこともあるベテラン。1978年からディズニーで仕事を始め、アニメーターとして、「きつねと猟犬」(81年)に参加。これまで「リトル・マーメイド」(89年)、「ポカホンタス」(95年)に携わり、「ターザン」(99年)では共同監督を務めた。ほかに共同監督作として「サーフズ・アップ」(2007年)がある。

 <ジェニファー・リー監督のプロフィル>

 2011年3月にディズニー・アニメーション・スタジオに入社。「シュガー・ラッシュ」(12年)の脚本を担当。「アナと雪の女王」にも当初、脚本家として参加していたが、作品への深い理解と情熱から共同監督に抜てきされた。現在、数本のオリジナル脚本の映画化が他社スタジオによって進められている。

 (インタビュー・文・撮影:りんたいこ)

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