ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。
ウナギノボリ
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◇プロローグ編6 西野の理論
西野さんは不審そうな表情のぼくに向かって、続けて言った。
「トップになるには全力で泳げばいいだけだけど、三位になるためには他のスイマーのスピードをモニタしながら速度を調整しなくちゃいけない。そのためには実力ではレースを凌駕し、冷徹にそのパフォーマンスを遂行できる泳力と精神力が必要だ。同じようにテストでトップを取るには五百点満点目指してひたすら頑張ればいいけど、百位ジャストは五百点満点を楽々取れる実力を隠し持ちつつ、同級生の点数を予測するため、上位の人間の状態把握や人間関係、果ては家族問題まで把握しなくてはならないんだ。ね、やり甲斐はありそうだろう?」
説明を聞きながらぼくは、それなら二万人が参加する青梅マラソンで真ん中の一万位を取れ、というたとえの方が適切じゃないのかな、などと考える。だけどそんなことは口にしない。
迂闊に反論をしたら、怒濤のしっぺ返しが返ってくるのがわかり切っていたからだ。
西野さんがそんな提案で、ぼくを挑発したのが中等部二年への編入直後、今から半年前のことだ。
実際にやってみると、確かにトップ取りよりもずっと難儀なミッションだった。それを達成するには、学年内のあらゆる事象を、テスト問題が配られた直後の一瞬で見通さなければならず、そうするとそれはもはや中等部二年という小コミュニティを完全に理解し、ひいては支配するということにほぼ等しく、人間社会の完全なるシミュレーションに近いけど、そんなことはこの世の中で誰ひとり達成できていないことなのだから。
だからこそ断言できる。学年トップを取るより、ジャスト百位を狙う方が難度は百倍は高い。
二学期の期末は百三十七位、三学期の中間は九十三位と周辺をうろつき、三度目の正直となる今回の三学期の期末試験で、ついに目標を達成した。だから「欲しいものを買って上げる」という西野さんの大盤振る舞いも、ある意味では当然のことだったわけだ。
<毎日正午掲載・明日へ続く>
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