海堂尊:新作小説「アクアマリンの神殿」 「バチスタ」の10年後描く 夏美の学園生活編4

正統派の美少女なのに、いかんせん夏美は生意気すぎる。クラス内評価は、「黙っていれば最高なのになあ…」 (c)海堂尊・深海魚/角川書店
1 / 1
正統派の美少女なのに、いかんせん夏美は生意気すぎる。クラス内評価は、「黙っていれば最高なのになあ…」 (c)海堂尊・深海魚/角川書店

 ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。

ウナギノボリ

◇夏美の学園生活編 4 最初が肝心

 まず事実を告げた。こういうタイプは、真実を伝えて妄想部分を縮小させることが重要だ。

「ぼくは病気じゃないけど、夜中の労働をしている。だから日中は睡眠時間を稼ぎたいわけ」

 麻生夏美は疑わしそうな表情で一応耳は傾けている。ぼくは周辺状況を追加する。

「嗜眠症というのは原因不明の、すぐに眠くなる病気だから、ぼくが診断要件を満たしていないのは、“原因不明の”という部分だけだ。原因はわかっている。夜中に働いているための睡眠不足さ。でも生じた状態はナルコと区別がつかない。つまり状態診断としては仮病ではないんだ」

 麻生夏美は目をきらきらさせて言う。

「つまり佐々木クンは夜バイトしていて、しかもそのためにニセ診断書まで書いてもらうだなんていうズルをしちゃっているわけね?」

 何と的確な理解だろう。そんな風にきっちり理解してほしくなかったから、ねじくれた表現をしたというのに。ズルという字面はよくないし、夜バイトというのもいかがわしく響いて困ったな、と一瞬考えるが、そんな言葉も目の前に佇む正統派美少女の唇から発音されると妙に艶めかしく響くので、まあヨシとしよう、などと支離滅裂な思考に身を委ねる。

「概ねそんなところかな。ところでお前は、どうしてそんなことをわざわざぼくに伝えたんだ?」

 ぼくはさらりと麻生夏美のことを“お前”呼ばわりしたが、彼女はその蔑称に反応しなかった。

 それ以後ずっと、ぼくは麻生夏美を“お前”と呼んでいる。あの時はぼくへの言い訳で頭がいっぱいだったから、その非礼をうっかり見過ごしてしまったのだろう。

 物事は何事も、すべからく最初が肝心だ。

<毎日正午掲載・明日へ続く>

ブック 最新記事