グレート デイズ!:ニルス・タべルニエ監督に聞く 車いすの少年と父の物語「ポジティブな映画」

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 反抗期の車いすの少年と不器用な父親がトライアスロンの最高峰アイアンマンレースに挑戦し、父と子の絆を取り戻す姿を描いた映画「グレート デイズ!−夢に挑んだ父と子」が、29日から全国で順次公開される。歴史あるパリ・オペラ座舞台裏のバレエダンサーたちに迫ったドキュメンタリー映画「エトワール」(2001年)が日本でも大ヒットしたニルス・タべルニエ監督の最新作だ。レースのスタートシーンでは、実際に行われたニースでの大会で撮影を行った。タべルニエ監督は「障害があっても多くのことができると伝えたかった。ポジティブなエネルギーをもらえる映画です」と話す。

ウナギノボリ

 ◇たくさんの子供たちとの出会いから生まれた

 アルプスの山々に囲まれた一家の物語は、車いず生活を送る17歳のジュリアン(ファビアン・エローさん)と仕事を終えて久々に帰宅した父親・ポール(ジャック・ガンブランさん)の不協和音で幕を開ける。

 父との再会を楽しみにしていたジュリアンに対して、ポールは障害を持つ息子とうまく向き合えずにいる。息子の世話を一手に引き受ける母親のクレール(アレクサンドラ・ラミーさん)は、まるで小さな子供と接するかのようにジュリアンの世話を焼く。

 そんな中、ジュリアンは自分から父親に歩み寄り、認められようと行動を起こす。父親が過去にアイアンマンレースに出場したこと知ったジュリアンは、一緒にレースに挑戦したいと言い出す。2人がレースに挑戦する姿の中に、自立しようとする息子と再出発しようとする父親を描いた爽やかな作品だ。

 物語のきっかけは、監督がドキュメンタリー映画のために訪れた小児病棟で、重度の障害を持つ子供たちと出会ったことだった。

 「世の中を語るとき、社会に置かれた子供を撮るのが一番なんです。もともと多くの子供たちを20年近く撮ってきました。取材で出会ったさまざまな子供や家族の姿を、ぜひ長編のフィクションで撮りたいという思いが湧きました。障害があってもたくさんのことができるんだということを映画を通じて見せたいと思ったのです」

 実際に障害を持っている人にジュリアン役を演じてもらうことにこだわり、170カ所の障害者施設を回った末、はじけるような笑顔のエローさんを見いだした。

 「送ってもらった動画で、若者のひどい音楽をBGMに、車いすに乗ったファビアンがゲラゲラ笑いながら芝生の上で泥を飛ばし回っていた。輝いて見えました。4カ月間は演技の指導をして、撮影に入るとだんだん慣れてきたので、最初は少なかったせりふを増やして、アクションも足していきました」

 ジュリアンの反抗は、映画の見どころの一つ。父親には「大嫌い!」と一発かまし、大会の出場拒否に怒って抗議に出向き、ひと暴れをする……。

 「実際の彼は怒りをあまり持ち合わせていないキャラクターなんです。ファビアンには、これまでの怒りをぶつけてみてと言いました。彼は自動車免許を取得できなかったときの怒りを思い出しながら演じてくれましたよ」

 ◇父親も子供と一緒に成長しなくては

 父親のポール役は、今村昌平監督作「カンゾー先生」(98年)に出演したこともあるジャック・ガンブランさんが演じている。スポーツマンとしても知られる俳優で、今作のために、25キロのセメント袋を自転車に乗せて走るなどして、トライアスロン3種目の猛特訓をしたという。ジュリアン役のエローさんと2人乗りの自転車で山の斜面を下るシーンで、急カーブを曲がる際には、見ているこちらがハラハラするほど。時速約55キロは出ていたとか。

 「最初はファビアンも怖がっていましたよ。でもガンブランとスタッフを信用してくれました。彼はチャレンジングな性格で、急カーブを楽しんでいました」と監督。レースの冒頭シーンを初日に撮影したため、俳優とスタッフの間に信頼関係が一気に形づくられたようだ。

 その冒頭シーンは、本物のアスリートたちのエネルギーに後押しされて、ドキュメンタリーを見ているかのようだ。監督としても満足のいくシーンになったという。

 「200人の撮影クルーで、ヘリコプターも飛ばして、一般の参加者の中に紛れているポールとジュリアンを撮るのは、やり直しが利かない一発勝負です。25分間のうちに父と息子を映しとらなければなりませんでしたが、10分ぐらいでこれはうまくいったという手応えを感じることができました」

 また、監督は「この映画は家族の物語なんだ」と説明する。ジュリアンの行動によって、父親のポールが動かされ、母親クレールが陰ながら見守る姿を繊細に描き出している。

 「私自身、父親として息子との接し方で間違うこともあります。親が子供に過度の期待をかけて成功してほしいと願うあまりに、子供は失敗をおそれ過ぎてしまう。すると、子供は親や社会との関係に失望していくようになります。父親は子供の言い分にもっと耳を傾けて、父親自身も成長していかなくてはならない。もちろん、わがままはきちんとしからなくてはなりませんが(笑い)」

 本国フランスでの反響の中でうれしかったのは、障害を持った子供のいる家族だけでなく、多くの観客に家族の物語として共感してもらえたことだった。

 「映画からポジティブなエネルギーをもらえると思います。これはサクセスストーリーなんです」と監督はメッセージを送った。29日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほか全国で順次公開。

 <プロフィル>

 1965年生まれ、パリ出身。1977年、父親ベルトラン・タべルニエ監督の作品で俳優デビュー。「主婦マリーがしたこと」(88年)、「ソフィー・マルソーの三銃士」(94年)などに出演。監督として、ドキュメンタリー作「エトワール」(2001年)、「オーロラ」(06年)などがある。

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