1965年から66年にかけてインドネシアで起きた100万人規模の大虐殺事件。その被害者の遺族が加害者と対峙(たいじ)する姿にカメラを向けたドキュメンタリー映画「ルック・オブ・サイレンス」が4日から公開される。同じ虐殺事件を加害者側にカメラを向け、日本では昨年4月に公開された「アクト・オブ・キリング」(2012年)と対をなす作品で、前作に引き続きジョシュア・オッペンハイマー監督がメガホンをとった。
ウナギノボリ
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65年、インドネシア。当時のスカルノ大統領の親衛隊の一部がクーデター未遂事件を起こす。事件の背後にいたのは共産党とされ、100万人とも200万人ともいわれる“共産主義者”が虐殺された。当時、兄を殺され、その後、弟として生まれたアディ・ルクンさんは、今は眼鏡技師として働く。アディさんは「亡き兄のため、今もおびえて暮らす母のため、彼らに罪を認めさせたい」と今も権力の座にとどまり続ける加害者たちに「無料の視力検査」を行いながら、当時のことを聞き出していく……という展開。
前作「アクト・オブ・キリング」を見たときには、打ちのめされた。なぜ人間はこうも残酷になれるのかと。そして、大量虐殺を行った張本人たちが、その後も地元の権力者としてのうのうと暮らしていることに驚くと同時に、憤まんやるかたない思いを抱いた。その思いは、今作を見て一層強くなった。被害者側の視点で捉えることで、事件が今もなおその土地の人々に暗い影を落としていることが実感できた。その中で、兄の虐殺の様子が語られるインタビュー映像をじっと見つめるアディさんの姿が印象的だ。加害者たちに静かに語り掛けるその冷静さには、驚くと同時に崇高さすら覚えた。加害者に同情の余地はない。もちろん共感などできない。しかし、彼らの証言から浮かび上がる「大罪を犯し得る心理的メカニズム」は、誰もが持つものだと思い知らされ、複雑な心境になった。4日からシアター・イメージフォーラム(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。 (りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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