ヒュー・ジャックマン:「PAN~ネバーランド、夢のはじまり~」で黒ひげ役 「悪役を楽しんで演じた」

「PAN~ネバーランド、夢のはじまり~」で黒ひげ役を演じたヒュー・ジャックマンさん (C)Misako Obata
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「PAN~ネバーランド、夢のはじまり~」で黒ひげ役を演じたヒュー・ジャックマンさん (C)Misako Obata

 映画「レ・ミゼラブル」(2012年)や「X-MEN」シリーズのウルヴァリン役で知られる俳優ヒュー・ジャックマンさんが、奇抜な扮装(ふんそう)で海賊の黒ひげを演じた映画「PAN~ネバーランド、夢のはじまり~」(ジョー・ライト監督)が31日に公開された。20世紀初頭にスコットランドの作家ジェームズ・マシュー・バリーさんが生み出したキャラクター「ピーターパン」の起源を描いた作品で、まったくのオリジナルストーリーが展開する。今作で、ピーターパンの前に立ちはだかる“黒ひげ”を演じているのがジャックマンさんだ。黒ひげは、いわゆる悪役。もっぱらいい人と評判で、これまで演じてきた役の多くが善人だったジャックマンさんだが、今回の黒ひげ役は、大いに楽しんで演じたようだ。来日したジャックマンさんに話を聞いた。

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 ◇黒ひげはハートのない残酷な男

 青白い顔に落ちくぼんだ目。口ひげを生やし、頭にはかつら。そして、襟元に黒い羽根がふんだんにあしらわれた、まるでカラスを思わせる衣装……。これは、黒ひげの、あるときのいでたちだ。ジャックマンさんはそんな奇抜な格好について、「妻が、あのコスチュームが大好きなんだ」とさりげなく愛妻家ぶりをのぞかせながら、「海賊なのに貴族っぽい恰好をしているんだ。昔の植民地時代の英国人というイメージが少しある。下品な海賊じゃなくて、上流社会の雰囲気を持ったコスチューム。大げさで芝居的なんだ」と説明する。

 そんな衣装には、「11歳の少年の目から見た世界」を表現する効果があるという。「ジョー(・ライト監督)がいったんだ、子供って、大人を見て怖いと思うこともあるが、バカだなと思うときもあると。だいたい、あんな大きな襟が立った服を着て、ストッキングをはいている男なんて、子供の目には『この男は一体何者なんだ!?』と滑稽(こっけい)に映るよね」と続ける。そして、「黒ひげは、パッと見はチャーミングだけれど、次の瞬間には恐ろしいことをする。行動が予測できないんだ。それは子供にとって、とても怖いことなんだ」と子供の心情をおもんぱかる。

 ジャックマンさんによると黒ひげは、「ハートがなく、その一方で孤独で悲しい面も持っている」男で、「人を殺すことをジョークにしてしまう」ような残酷な一面も持つ。その残酷さを垣間見ることができるのが、黒ひげが、子供に細長い板の上を歩かせる場面だ。さすがにこのシーンではライト監督に「子供にこんなところを歩かせるのはひどいじゃないか」と進言したそうで、このあたりにジャックマンさんのいい人ぶりがうかがえるが、そのジャックマンさんの指摘に監督は「いいんだ。彼(黒ひげ)にとってこれはショーなんだ。人目を引きたくてやっているんだから」と答えたという。果たして、そのシーンには、ジャックマンさんいわく、「子供を殺すのかとみんなが深刻にならないよう、コメディー風のアクション」が付けられ、結果、「大人も笑える」ような場面に仕上がった。

 ◇ニルヴァーナとラモーンズを熱唱

 登場シーンでは自慢の歌声も披露している。ジャックマンさん自身は「海賊の姿のままで、ほかの海賊や子供たちと一緒にニルヴァーナやラモーンズの曲を歌うのは壮観だった」というが、ライト監督によると実はそのシーンは当初、「黒ひげが現れて民衆にスピーチをするという普通のシーン」にすぎなかった。しかし撮影前に「雰囲気作りのために海賊の格好をした大人たちが集まってブートキャンプのようなものをしたんだ。そのとき彼らに、海賊や海の男たちの歌を歌ってもらったんだけど、みんなノリが悪くてね。で、パンクに変えたら一気に乗り始めて、それを見て、これだと思いついた」のだという。

 その決断にジャックマンさんは当時思わず、「イエス!」とガッツポーズをしたそうだが、ともかくライト監督は「僕としては、クレイジーなアイデアではあったけれど、子供も見られる作品の面白いところは、子供時代の一種のアナーキズム(無政府主義)みたいなものを表現できるところなんだ。曲を通して、そういうことを表現できるのも僕自身楽しかった」と解説する。ジャックマンさんも「ピーターパンの世界だし、ネバーランドが舞台。(撮影現場は)年齢なんか関係ない、楽しもうという感じだった。芝居って、俳優たちが乗ってやっていると、お客さんにもそれが伝わるよね。映画も同じ。今回も観客の皆さんは、多分それ(楽しさ)を受け止めてくれるんじゃないかな」と補足した。

 ◇俳優の素晴らしさとは?

 ところで、来日のたびにファンに温かいまなざしを向け、また、どんなに取材が立て込んでいても、どんなに同じ質問を繰り返しされても、記者たちに笑顔を絶やさず、その都度ユーモアを交え、おおらかに対応してくれるジャックマンさん。いい人と評判が立つのは当然のことで、その人柄を反映してか、ジャックマンさんがこれまで演じてきた役の多くが善人だった。今回のような悪役を演じることは珍しいと指摘すると、「俳優をやっていて一番素晴らしいのは、イマジネーションの中で旅ができること。僕はこれまで自分にそっくりのキャラクターというのはオファーされたことがないんだ。むしろ自分と似ている役ばかりを演じるのは、俳優にとって危険なことだ。(『X-MEN』シリーズの)ウルヴァリンだって、僕とは全く違うからね。でも演じていて楽しかったよ」と、役者という仕事の面白さを説明する。

 そして、“いい人”と周囲から見られていることについて、「サンキュー」と照れ笑いし、恐縮しながら、「『羊たちの沈黙』(1990年)のアンソニー・ホプキンスは怖いよね。でも、彼が楽しんで演じているのは見ていて分かる。『ダイ・ハード』(88年)のアラン・リックマンにしてもそう。『フェイス/オフ』(97年)のジョン・トラボルタなんか最高だよね。あの演技は素晴らしかった。とにかく、彼らみんなが楽しんで演じていることがひしひしと伝わってくる」と、自分のことはそっちのけで、名優たちの演技をたたえる。そして、「観客は、娯楽という映画を見ている。だから泣ける映画でも、どこかで楽しんでいるはずなんだ。俳優もそうだと思う。悪役を演じていても楽しんでいることが分かる。その二重性が、芝居や映画を見る醍醐味(だいごみ)だと思う」と自身の考えを披露。その上で、「だから僕も今回、ジョーにいわれたように、黒ひげ役をものすごく楽しんで演じたんだ」と自身の人柄のよさについての指摘をやんわりとかわしながら、黒ひげ役に懸けた思いを語るにとどめた。

 今作の来日では、ジャックマンさんとともに、ライト監督と、のちにピーターパンとなる少年ピーター役のリーバイ・ミラーさんも来日した。インタビューは彼らとは別々に行われたが、ジャックマンさんは折に触れて2人のことに言及。ミラーさんについては、「本当にあの子はうまかった。上手に演技をしてくれたよ」とたたえていた。自分よりも他人を立てる。そのあたりにも、ジャックマンさんの人柄がしのばれるインタビューだった。映画は31日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1968年生まれ、オーストラリア・シドニー出身。シドニーの大学でジャーナリズムを専攻後、演劇学校で学ぶ。卒業後、「美女と野獣」や「オクラホマ!」など数々の舞台に出演。99年に映画デビューし、2000年、「X-メン」のウルヴァリン役で人気スターとしての地位を獲得。主な出演作に「恋する遺伝子」「ソードフィッシュ」(ともに01年)、「X-MEN」シリーズ(03、06、09、11、13、14年)、「オーストラリア」(08年)、「リアル・スティール」(11年)、「レ・ミゼラブル」(12年)、「プリズナーズ」(13年)、「チャッピー」(15年)など。また、ブロードウエーミュージカル「ザ・ボーイ・フロム・オズ」(03~04年)ではトニー賞主演男優賞に輝いた。

 (インタビュー・文/りんたいこ)

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