ディーン、君がいた瞬間:アントン・コービン監督「ジミーは思ったよりずっと偉大な俳優だった」

「ディーン、君がいた瞬間」について語ったアントン・コービン監督
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「ディーン、君がいた瞬間」について語ったアントン・コービン監督

 “ジミー”の愛称で知られ、24歳でこの世を去った伝説のスター、ジェームズ・ディーンと、死の直前、彼と関わりを持った写真家デニス・ストックの交流を描いた「ディーン、君がいた瞬間(とき)」が19日に公開された。写真家であり、映画「コントロール」(2007年)や「誰よりも狙われた男」(13年)などの監督としても知られるアントン・コービンさんがメガホンをとった。「ジェームズ・ディーンの伝記映画は作りたくなかった。カメラマンの視点で撮ることに興味があった」と語るコービン監督に、10月に来日した際、話を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇「思っていたよりもずっと偉大な俳優だった」

 1955年、米国の「LIFE」誌に掲載された写真……雨のタイムズスクエアを、たばこをくわえたジミーが肩をすぼめて歩いている……それを撮影したのが、ほかならないデニスだった。あの“傑作”はどのように生まれたのか、そして、ジミーとデニスとの間でどのようなやり取りがあったのか。映画はそれをひもときながら、2人の素顔に迫っていく。

 「誰かと出会うということが、その人の人生にどれだけ大きな影響を与えるかを描きたかった。これは、とても小さな話だけれど、人が他人に与えることができる、すごく大きな影響を描いているんだ」とコービン監督は語る。

 コービン監督が生まれたのは1955年。ジミーが夭折した年だ。オランダの田舎町で育ったこともあり、ジェームズ・ディーンには「あまり影響を受けていない」という。ジミーのことを認知したのは「10代も終わりになって、映画ではなくポスターで見かけた」とき。しかし、そのときも「ポスターボーイだなという印象」を抱いたに過ぎなかった。

 だがそのイメージは、今回の作品に関わって変わった。「自分が思っていたよりもずっと偉大な俳優だった。当時のどの俳優とも違う演技をするし、歩んだ人生も違っていた。その違いを見せたかった。だからこそ、ジャック・ワーナーとのシーンがとても大事だった」と力を込める。ジャック・ワーナーとは、ジミーの出演作「エデンの東」(54年)や「理由なき反抗」(55年)の製作会社ワーナー・ブラザースの社長で、今作ではベン・キングズレーさんが演じている。

 ◇つけ耳と11キロの増量で役作りしたデハーン

 ジェームズ・ディーンを演じているのはデイン・デハーンさんだ。「アメイジング・スパイダーマン2」(14年)では、“スパイダーマン”ことピーター・パーカーの幼なじみハリー・オズボーンを演じた。コービン監督はデハーンさんについて「フィリップ・シーモア・ホフマンのように、その人物の奥にまで入り込む俳優」と評する。コービン監督によると、デハーンさんは今回のオファーを受けたとき、「最初は僕に会いたがらなかった」という。「デインにとって、ジェームズ・ディーンはヒーローなんだ。彼が演技の勉強をしていたとき、ジェームズ・ディーンの映像を見ながら学んだと聞いている。もちろん、多くの人にとってもジェームズ・ディーンはヒーローだ。そんな人物を自分が演じて、もし失敗したらと怖気(おじけ)づくのは当然のこと」と、デハーンさんの心情をおもんぱかる。しかし結局、演じることへの情熱と、ジェームズ・ディーンという人物の素顔を描くという今作の意図が、デハーンさんの背中を押した。コービン監督によるとデハーンさんは、「たくさんのリサーチ」をし、ディーンさんの親族からも話を聞いたという。

 肉体改造も必要だった。「デインには耳たぶがないんだ。でもジェームズにはあるからそれを付けた。あと、デインはやせているから、特別な食事をして太らせた。ただ、50年代のスターというのは、今のような腹筋が六つに割れているような体ではなく、農夫の息子のような、がっしりとした体格なんだ。そうなるために彼は頑張ったよ」。デハーンさんは、3カ月で11キロ以上体重を増やしたそうだ。それでも実際のディーンさんとの違いはどうしても出てきてしまう。「その残りのギャップを、デインは演技の才能で埋めていった。彼はよくやったと思う」とデハーンさんをたたえる。

 ◇カメラを携行して役作りしたパティンソン

 一方、デニス・ストックを演じるのは、「トワイライト」シリーズ(08~12年)などで知られるロバート・パティンソンさんだ。今回の映画が「カメラマンの視点で描かれていくところに興味があった」と語るコービン監督にとっては、まさに今作のカギを握る人物だ。しかし、1928年生まれのストックさんも2010年に他界している。コービン監督は、ストックさんが生前撮影した写真やドキュメント映画などを見て、「フォトジャーナリストの魂を持っている人」をイメージし、そこからキャラクターを作り上げていった。そして、演じるパティンソンさんには「いつシャッターチャンスに出くわしてもいいように、常に準備をしておくこと。そのためには、いつもカメラを持っているように」と指示し、撮影が始まる何カ月も前にライカのカメラを渡したという。結果パティンソンさんは、「彼はいつもそれを携え、暇さえあれば写真を撮っていた。撮影が始まる頃には、かなり自然な動きになっていた」そうだ。

 ◇監督自らが出演

 コービン監督はこれまで、今作を含め4本の長編映画を撮ってきている。実は、そのいずれの作品に「ほとんどせりふはないけれど、僕も出ているんだ」と打ち明ける。今作にも「その延長で出演した」というが、それは、レッドカーペットの上を歩くジミーとデニスが言葉を交わす場面。カメラマンの一人がコービン監督なのだ。「レッドカーペットで写真を撮っている人たちは、みなライバル同士でやきもちを焼き合うもの。だから、被写体の人物に(カメラマンが)話し掛けられたら、周囲が何も反応しないのはうそっぽいと思った。それで僕は、『なんで話し掛けているの?』と言ったんだ」と、自身の出演場面を明かした。

 エンドロールには、実際に撮影されたディーンさんの写真が映る。「それらが撮られた状況を、今回の映画では撮っている」とコービン監督は説明する。高校のダンスパーティーに出席したジミーとデニスが2人並んで写真を撮られる場面もその一つだ。そのときのデニスは、撮っている側から撮られる側に回り、はにかんだような表情を浮かべるが、コービン監督も写真を撮られるのは「あまり好きじゃない」そうで、自分にレンズが向けられたとき、とても居心地が悪そうにしていた。ところが、撮影が終わり、レンズが自分から離れた瞬間、ストローの外袋をふっと飛ばし、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。「いつシャッターチャンスに出くわしてもいいように、常に準備をしておくこと」というカメラマンの鉄則を、身をもって教えてくれた。映画は19日から全国公開。

 <プロフィル>

 1955年生まれ。オランダ出身。79年、英国ロンドンに移り、ポートレート写真家として活躍。マイルス・デイビスやフランク・シナトラ、クリント・イーストウッドさん、ロバート・デニーロさんらそうそうたる人物を撮影。ミュージシャンからも絶大な信頼を得ており、U2やデペッシュ・モードは30年にわたりメインカメラマンを務めている。83年からはミュージックビデオを手掛け、2007年には「コントロール」で映画監督デビューし、カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞。ほかの作品に「ラスト・ターゲット」(10年)、「誰よりも狙われた男」(13年)がある。

 (インタビュー・文・撮影/りんたいこ)

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