今年、創刊50周年のマンガ誌「ビッグコミック」(小学館)の関係者に、名作の生まれた裏側や同誌について聞く連載企画「ビッグに聞く」。第9回は、マンガ評論家の夏目房之介さんが登場。マンガ研究の第一人者である夏目さんに、「ビッグコミック」の功績、これからのマンガの“進化”について聞いた。
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「ビッグコミック」が創刊した1968年、夏目さんは17歳だった。「衝撃でした。青年向けマンガの市場として、双葉社の「漫画アクション」(67年創刊)、少年画報社の「ヤングコミック」(67年創刊)が先行したところに、小学館が金に飽かしてトップの作家を全部そろえたように見えた。正直、この大艦巨砲主義!と思いましたよ(笑い)」と振り返る。
創刊号には、手塚治虫さん、石ノ森章太郎さん、白土三平さん、水木しげるさん、さいとう・たかをさんらマンガ界の巨匠たちが集結した。夏目さんは「当時は、小学校を卒業したらマンガは卒業するものだった。あとはこっそり隠れて読むものだった。しかし、『ビッグコミック』は大人向けの大衆文学にしていこうという理念で、創刊した。マンガ家たちが本当に良いものを描こうとした」と分析する。
マンガが“大人向けの大衆文学”に変化していく中で、読者の意識にも変化があった。「マンガだから……と読んでいた読者が、ちゃんと調べてあるなどとマンガの読み方を考えるようになり、読者も成熟していった」と話す。
夏目さんは「ビッグコミック」の創刊によって、巨匠・手塚さんの意識が変化したとも分析する。「手塚治虫は当時、低調期を迎えています。読者には、古くさく見え、マンガ家としてピンチだった。73年には虫プロが倒産する。その年に『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で『ブラック・ジャック』で手塚は復活する。その前に、『ビッグコミック』に『地球を呑む』『きりひと讃歌』『奇子』などの良い作品を描いたことで浮上のきっかけをつかんだ。『ビッグコミック』では、さいとう・たかを、水木しげる、石ノ森章太郎、楳図かずおなどが大量のページを使って、しのぎを削って面白いマンガを描いていたから、手塚は負けるわけにはいかない。そんな競合が、手塚を復活させ、同時にビッグの質を押し上げていった」と語る。
マンガは、紙から電子書籍が主流になりつつある。夏目さんは「マンガの表現の特徴は、ページをめくる行為。めくることの驚き、めくった先のページに何があるのか……だとずっと思ってきました。それが、なくなるかもしれない。でも、なくなった先に面白さがあるかもしれない」と話す。
「例えば、12世紀の絵巻物は最強のメディアだった。くるくると回しながら読む。横スクロールなんです。手繰ることで、少しずつ先が分かる。すべてが動いて見える。巻物がとじた本に変わっていくのと同じように、マンガはタブレットで見ても面白いものに変わっていく。物語の面白さと、メディアやプラットフォームの構造がぶつかった時に生じるスパークこそが面白さ。メディアが変わればぶつかり方が変わるだけで、マンガのスパークはいつまでも起こり続ける」と話すように、マンガの表現が大きく変化していくかもしれない。50年後、マンガの表現はさらに進化しているかもしれない。
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