おおかみこどもの雨と雪:細田守監督が語る映画と小説の舞台裏

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 劇場版アニメ「時をかける少女」(06年)や「サマーウォーズ」(09年)で知られる細田守監督の最新作「おおかみこどもの雨と雪」が21日、公開された。これまでヒット作を世に送り出してきた細田監督が最新作で選んだテーマは“親子”。人間であり、オオカミでもある“おおかみこども”の成長や自立、子育てに奮闘する母の13年間を丁寧に描いた作品に仕上がっている。また、細田監督は初の試みとして映画の原作小説の執筆に挑戦。細田監督に映画と小説について話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 「おおかみこどもの雨と雪」は、主人公・花と“おおかみおとこ”との出会いから恋愛、結婚、出産、子育て、“おおかみこども”の成長と自立までの13年間を描いた作品。花は、人間の姿で暮らす“おおかみおとこ”と愛し合い、「雪」と「雨」という二つの新しい命を授かる。家族4人は、都会の片隅でひっそりと暮らしていたが、父である“おおかみおとこ”の死によって、幸せな日々が突然に奪われる。花は、幼い2人の子どもと生きるため、人目を離れ、厳しくも豊かな自然に囲まれた農村に移り住むことを決断。3人は農村で生活する中で、地域住民との出会いや大自然と触れ合うことによって成長し、やがて2人の子どもは自立の日を迎える。

 細田監督は、保育所に入所できない待機児童など子育てに関する問題が新聞やテレビで報じられる中、親になった友人が子育てに奮闘する姿がヒーロー、ヒロインのように見えたことをきっかけに“親子”というテーマを考えるようになったという。「自分は子どもはいないけど、飲み友だちや遊んでいた友人が親になるのを見て、親ってカッコいい、すてきだ……と、あこがれるところがあった。そのあこがれを映画にしたかった」と話し、映画では普通の大学生だった花が“強い母”として社会の中で成長していく姿を描いた。

 親子の成長を描いた映画やドラマ、マンガは珍しくないが、同作が特異な点は、花が“おおかみこども”を現代社会で育てるという設定だろう。細田監督は、構想を固める中で「子育てを描くには、普通にやるのではなく、何かアイデアが必要だと思った。アニメーションの歴史をひもとくと『バンビ』『ダンボ』のように動物の親子を主人公に親子の愛情を描く作品がある」と考えたという。さらに、ただの動物ではなく、神話や童話の世界でおなじみの“おおかみおとこ”を登場させることで、社会の中で異質な存在である“おおかみこども”を育てる母、人間とオオカミのどちらの社会で生きていくのかを葛藤しながら自立していく子どもの姿を描き、物語に厚みをもたせることに成功している。

 キャラクターは13年というストーリー上の時の流れの中で、身体的、精神的に成長し、造形が変化していく。キャラクターデザインは「サマーウォーズ」から引き続き貞本義行さんが手がけているが、アニメ作品では異例なのは、スタイリストの伊賀大介さんが衣装のスタイリングを担当している点だ。細田監督は衣装の重要性を「花が(農村で知り合う)韮崎に農作業を教えてもらうときに、いかにも農作業をする服装ではなく、体のラインが分かる衣装で、レースがついていたり、ある種のエロスを出すなど各シーンに意味がある」と説明する。衣装以外にも、家具や本棚の中の本などの細やかな造形がキャラクターの性格や生い立ちを描写している場面があり、「アニメが面白いのは、たまたま何かがあることはなくて、(製作者が)意図しないと存在しえないんです。花の本棚を見ると、成長する中で本が変わったり、花は図書館をよく利用していることが分かる」と話す。

 大自然の描写や“おおかみこども”が躍動する映像をより美しく見せているのが、音楽家で映像作家の高木正勝さんが手がけたピアノやストリングスなど生楽器を中心とした繊細な音楽だ。細田監督は、絵コンテを描いていた際、高木さんの楽曲を愛聴していて、早くから高木さんの起用を考えていたといい、「母をたたえ、女性が美しく見える楽曲と考えたとき、高木さんの繊細な楽曲だったんです。高木さんの今までの作品も好きだけど、(今作で)新しいな魅力をつむぎ出していただけた。幸運な出会いです」とコラボレーションを喜んでいる。

 そして、細田監督は原作である小説の執筆に挑戦した。小説は映画のアナザーストーリーではなく、物語が忠実に描かれている。執筆作業について、「絵コンテを書き起こしていった。映画で使っていないせりふはなるべくカギカッコに入れないようにして、映画を見てくれた人が(頭の中で映画を)再現でき、イメージが一致するようにしました」と話す。さらに、映画と小説の表現の大きな違いに“描写方法”を挙げ「映画の中では、花はどういうふうに育ったかは、行動の端々からじんわり感じられるけど、小説は、文章で人物設定を伝えておく必要がある。文章は読んでイメージするものだから、イメージの助けになる要素を具体的に描写する必要があった」と語る。

 細田監督は、小説を映画と同時進行で執筆したといい、「映画を作るのに精いっぱいで、それだけで命からがらなので、小説を書く時間を作るのが大変でした」と振り返る。映画は公開されたばかりだが、今後の予定について聞くと「今は出来上がった映画を皆さんに見ていただけるように努力しています。気に入っていただければ、(次回作の)チャンスがいただけるかもしれないので」と笑顔でヒットを祈っていた。(毎日新聞デジタル)

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