パトレイバー:実写版長編で描く「よく分からないもの」 押井守監督が語る

「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」を手がけた押井守監督
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「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」を手がけた押井守監督

 「機動警察パトレイバー」シリーズの実写化プロジェクト「THE NEXT GENERATION パトレイバー」の劇場版長編「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」(押井守監督)が公開された。押井監督が手がけた1993年公開の劇場版アニメ「機動警察パトレイバー2 the Movie(パト2)」の後日談で、押井監督は「時代が変わった。今の時代は、テロリストはよく分からないもの」と考え、製作したという。押井監督に「首都決戦」について聞いた。

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 ◇日本でクーデターが起きることにリアリティーがない

 「機動警察パトレイバー」は、歩行式の作業機械・レイバーが実用化された近未来を舞台に、レイバー犯罪に立ち向かう警視庁の特科車両二課中隊(特車二課)の活躍や泉野明ら隊員の日常を描いたSF作品。1988~94年にマンガ誌「週刊少年サンデー」(小学館)でゆうきまさみさんのマンガが連載され、89~90年にはテレビアニメも放送された。実写版長編「首都決戦」は2014年4月~15年1月にイベント上映された全7章のシリーズに続くストーリーとなっている。

 「首都決戦」は、「パト2」で13年前に東京でクーデターを企てた元自衛官の柘植行人のシンパが、熱光学迷彩によって姿を消すことができる最新鋭の戦闘ヘリコプター(通称グレイゴースト)を使って東京でテロを起こす。押井監督は「パト2」の後日談となった経緯を「自分が選んだわけではなく、そういう要望があった」と説明する。

 長編を製作するにあたり、押井監督は「コンセプトは考え直さないといけない」と思い、「パト2」が公開された93年と現在で「何が変わったか?」を考えたという。「パト2」の柘植は、東南アジア某国で、PKO部隊として派遣された際、発砲許可が得られず、ゲリラ部隊に仲間を殺されてしまったという過去があり、東京を“戦争状態”にしようとした。押井監督は「時代が変わった。今、日本でクーデターが起きることにリアリティーがない。今の時代は、テロリストはよく分からないもの。正義のためなのか? 多分違うと思う。よく分からないことを表現することが一番難しい」と考えたという。

 レインボーブリッジや東京都庁を攻撃するグレイゴーストの操縦者の灰原零(森カンナさん)は、せりふがほとんどなく、正体不明で不気味な人物として描かれている。押井監督は「灰原はよく分からないもの。分からないものが、一番恐怖感をあおることができる。最近起きている事件もそういう、よく分からないものが多いのかもしれない」と考え、キャラクターを作っていったという。

 また「首都決戦」には、「パト2」の名場面を実写化したようなシーンも散見される。ファンにはうれしいところで、押井監督は「サービスですよ」と話す。

 ◇女の映画にしたかった

 押井監督は「女の映画にしたかった」とも話す。「パトレイバー」の主人公は泉野明(真野恵里菜さん)だが、「首都決戦」では、特車二課隊長の後藤田継次(筧利夫さん)が、事件の解決のため、解隊の危機にある二課を守るために奔走し、主人公のような存在となっている。そして、警視庁公安部の高畑慧(高島礼子さん)ら女性が後藤田を助け、時には立ちふさがる。押井監督は「1人の男が(高畑や灰原ら)5人の女に翻弄(ほんろう)される。格好いい女はイメージできるけど、格好いい男をイメージするのは難しい。今っぽいのかもしれない」と語る。

 実写版「パトレイバー」は、全7章のシリーズをイベント上映し、長編映画も公開するという“ビッグプロジェクト”となったことも話題になっている。押井監督の要望で実現した公開形式だとい「難点はお金がかかること」と笑顔で話しながら「“失敗したくない病”が蔓延(まんえん)していて、(低コストの作品が増えているが)ちゃんと作って、その分を稼がなければいけない。こういうふうになってほしいんだけどね。(日本の作品は)海外のドラマシリーズに負けっぱなしだから」と厳しく話す。

 「やりたいことはやれた。日本では成立しない作品だろうから、達成感があります。どこに持って行っても恥ずかしくないクオリティーを実現できたと思う」と自信を見せる押井さん。次回作が気になるところだが「2年間、撮影ばかりやっていたので、少しは休みたいかな。犬と散歩するのが一番いい。やりたいことはあるけど」と話していた。

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