バクマン。:大根仁監督が語る制作エピソード 実写ならではの作画シーンを工夫

インタビューに答える映画「バクマン。」の大根仁監督
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インタビューに答える映画「バクマン。」の大根仁監督

 大場つぐみさん原作、小畑健さん作画のマンガ「バクマン。」を実写化した映画(大根仁監督)が3日に公開された。俳優の佐藤健さんと神木隆之介さんがダブル主人公を演じ、コンビを組んでマンガ誌「週刊少年ジャンプ」で連載する苦悩や喜びなどが描かれており、アクションを取り入れた作画シーンなど、実写ならではの工夫が印象的だ。大根仁監督に実写化の背景や苦労などについて聞いた。

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 ◇「バクマン。」は新しい形の「まんが道」

 映画「バクマン。」は平凡な高校生のサイコーこと真城最高(佐藤さん)とクラスメートで秀才のシュージンこと高木秋人(神木さん)が、「ジャンプ」での連載を勝ち取り、ライバルや編集部と時に喜び、時に戦いながら成長していく青春ストーリー。ジャンプ編集部との生々しいやり取りや迫力の作画シーンが見どころのひとつとなっている。
 
 大根監督は初めに実写化の話を聞いたとき、原作マンガが20巻からなる長編で映画の尺には不向きで、さらにジャンプの内幕をさらしていく内容だったため「映像化は難しいんじゃないか」と思ったと明かす。だが、大根監督は新作を撮るときは必ず新しい試みをひとつ取り入れようと決めており、これまでストレートな青春ものをやってこなかったということがひとつの動機になったという。また、「身近にある世界だけど、その内実は意外と知られていない、という題材を前からやってみたかった」と考え、実写化に取り組むことを決意した。

 もともと原作で「バクマン。」は読んでいたという大根監督は、「新しい形の『まんが道』(藤子不二雄Aさんの自伝的マンガ)なんだなと思った」と話す。ただ、「バクマン。」は「まんが道」よりも現代的であり、職業としての生々しい描写が多い。大根監督は「(「バクマン。」には)マンガを描くことイコール生活手段ということが描かれていて……ただマンガを描くだけでない内容で(映画は)描けるなと思いました」と話す。

 ◇ペン入れの「トリップしている感じ」を表現

 サイコーとシュージン役の佐藤さんと神木さんについて大根監督は「高校生2人が社会の大きな壁に挑んでいく物語なので、少年性を残した顔つきを表現できる役者がいいなと思った」と明かす。並んだときのフォルムが近かったのもひとつの要因となったという。

 映像化するにあたっては、マンガを描くシーンの見せ方にこだわった。作画シーンでは、主人公の2人が巨大な武器のようなペンを持ち、ライバルの天才マンガ家・新妻エイジ(染谷将太さん)と戦う描写が同時に描かれており、ひとつの見せ場になっている。「マンガ家の知り合いから、ペン入れをしているときの万能感とか、トリップしている感じを以前から聞いていたので。ノッて描いているときは(脳内が)スパークしている、とか。それはマンガでは表現できないことだから、3次元的に表現するとしたら、ああいう見せ方になるのかな、と」と大根監督は話す。

 現場での撮影では苦労はまったくなかったと話す大根監督だが、脚本を書いているときはそうでもなかったという。「登場人物やせりふの多さの密度が普通のマンガの2、3倍あるので、そこの取捨選択が(苦労した)……。2人が出会って、マンガ家を目指し、ジャンプの連載を勝ち取って……という幹をまず作って。そこにどういう枝葉をつけていくか。その枝葉をまた落としたり……そういう作業が大変だった」と苦労を明かす。

 映画では原作と変えた部分もある。サイコーとシュージンのキャラクターだ。「原作の2人は、ちょっと戦略家すぎるというか、計算で描いている部分があるので、そのまま映像化してしまうと嫌味に見えてしまうかもしれないな、と。映画では、もうちょっと初期衝動でマンガを描いている感じ、エモーションが前面に出るような感じを意識した」と話す。

 ◇地方シネコンのお客も意識した

 原作には、「ジャンプ」を舞台にしたマンガならではの、過去の「ジャンプ」マンガへのオマージュが散りばめられており、映画でもそうした部分は健在だ。「(原作には)過去のジャンプマンガへのオマージュみたいなシーンがそこかしこにあったので、自分なりのオマージュをやろうというのはありました」と大根監督。分かりやすいところでは、大ヒットバスケマンガ「スラムダンク」のネタ。「ジャンプ」読者がニヤリとする描写がときおり顔をのぞかせる。大根監督は「観客全員がジャンプマンガに精通しているわけではない、ということも考えると、一番ポピュラーなのはスラムダンク」と説明する。

 ジャンプマンガに精通していない観客もいる中で、大根監督は製作中、どのような観客のイメージを持っているのだろうか。聞くと、「海老名サービスエリアにいる人たち」という意外な回答が返ってきた。「たとえば地方のシネコンのお客さんとか、そう人たちと(東京に住んでいる映画好きの観客と)の感覚とはずれてるんじゃないか、という自戒は常にあって。東京に暮らしている映画好きの人だと見たい映画を決め打ちで行くけど、(地方のシネコンでは)買い物帰りに(映画を)見に行こうとか、そういうお客さんも多い。そういう人も意識した」といい、「海老名サービスエリアとか、大きいサービスエリアにはいっぱい人がいて、そこにいる人たちは無作為の人たち。地方のシネコンに来るお客さんの感覚と似ているのかなと。じゃあ、ここにいる人たちを楽しませる作品ってなんだろう、と(海老名に)行くたびに考える」と笑いながら話す。

 マンガ好きはもちろん、マンガを読まない人も意識して作られた映画「バクマン。」。そこでは、「友情・努力・勝利」の、“ジャンプ3原則”とも言われるテーマを背骨に、熱い青春ストーリーが繰り広げられている。大根監督は作品資料の中で、この「友情・努力・勝利」について「サムいと思っていたけど、意外と悪くないですね」と語っており、これは作中の登場人物の口からも語られている。最後に改めて聞いてみると、「モノを作る仕事は、友情・努力・勝利なんて青臭い言葉では言い表せないですけど、そこはやはり基準になるので」と笑顔で語った。

 ◇プロフィル

 1968年、東京都生まれ。2012年、初監督作品「モテキ」で第35回日本アカデミー賞話題賞受賞。ほか映画作品に「恋の渦」(13年)など。

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