2016年の秋アニメが先日最終回を迎えた。中でも女性を中心に最も話題を集めたのがフィギュアスケートの世界を丁寧かつ鮮烈に描いた「ユーリ!!! on ICE」だったことは間違いないだろう。自身も「ユーリ!!!」に“ドハマり”したという“オタレント”の小新井涼さんが、独自の視点で分析する。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
2016年。昨年からの「おそ松さん」から「キンプリ」をへて、「君の名は。」ブームを脇目に、「今年も終わりか……」と油断しかけていたところ、最後の最後に、とんでもない伏兵が待ち受けてました……。そう、「ユーリ!!! on ICE」です。まさか自分も、こんなに夢中になるとは思いませんでした。あのお祭りのような3カ月は、圧倒的女性人気をみせた「ユーリ!!!ブーム」とは、一体なんだったのでしょうか。振り返りつつ、探ってみたいと思います。
何事かと思ったのは、初回の放送終了後。「ユーリやばい!」という感想がSNSにあふれていたのです。あわてて録画した1話を見て思わずつぶやきました……。「ユーリやばい」。息をのむスケートシーンの美しさ、衝撃のラストシーン、そしてヴィクトルの肉体美。放送前に抱いた予想を思い切りひっくり返される展開は、確かにその驚きを「ユーリやばい!」と誰かに伝えられずにはいられない内容でした。ブームのきっかけは、そうして視聴した人から見ていない人に興奮が伝染した“1話の拡散力”だったのでしょう。
すっかりハマったその後に、シリーズ中盤に向けて感じたのはオリジナル作品ゆえの“渇望”でした。先の展開が分からない。まだ公式グッズも少ない。まさに超過需要の“エサ待ち状態”です。ところが、逆にそれが女性ファンに火をつけたのでしょうか、この頃からファンが自ら情報収集や考察を始めて、SNSで発信されるようになっていきます。作中に出ていたグッズの特定から、モデルになった実在スケート選手の予想、果てはカツ丼ピロシキを実際に作った人まで……。驚異の自給自足が始まったのです。その情報を、同じく“ユーリ渇望状態”のファンがキャッチ&拡散することで、作品の盛り上がりがますます拡大していったのもこのあたりだったはず。私も公式グッズが待ちきれず、思わずグッズ作りに手を染めてしまいました……(もちろん、公式グッズが出たらそちらを買いますよ!)。
中盤以降は、逆に処理しきれないほど“密度の濃い人間関係”が、燃料として投下され続けました。ライバルやコーチ、氷上では競争相手となる友人、さわやかな青春スポーツものとはどこか違う、みずみずしくて生々しいフィギュア独特の人間関係も、多くの女性を魅了したのではないでしょうか。特に終盤、勇利の引退をにおわせるヴィクトルとのやりとりはどこか切なくて、「次が見たいけど見たくない!」と、毎週ハラハラしてました。
そして迎えたラスト2話。グランプリファイナルでは完全に“会場の観客”にさせられていました。特に印象深かったのは勇利のショートプログラムの描写です。構えるヴィクトル、勇利のジャンプ! そしてヴィクトルのリアクション……! この緊張感の緩急には、フィギュア完全初心者の私も呼吸を忘れて見入ってしまい、終わってからハッと我に返りました。そして全てが終わった最後の最後、燃え尽きそうなところに「See You NEXT LEVEL」の文字で、しっかり続編に期待をもたせてくれるところもさすがです。
「1話の爆発的な拡散力」「つかんだ心を離さない渇望と燃料」「最後まで目が離せない緊張感」。この見事なバランスが、作品数も多い中で、たった1クールの間にこれだけ盛り上がった“ユーリ!!!ブーム勝利の方程式”だったのかもしれません。さらに先日、「アニメディア」の馬渕悠編集長にもお話をうかがってみたところ、「もともと女性人気の高いフィギュアの“舞台裏を描きつつ、でも全部は出さない”ことで、その背景にさらなるドラマを想像させていたのでは」と分析されてました。確かに、インスタの写真や、氷上とはガラリと変わる私服と髪形など、選手たちのオフの姿は、彼らの日常生活への想像をかきたてられるものでした。想像の余地を与える絶妙な隙間(すきま)、これも女性人気の秘訣(ひけつ)だったのですね。
オールナイト上映会も決まり、まだまだブームも終わりそうにありません。彼らの日常は今も続いている……。そう考えながら、“NEXT LEVEL”を心待ちにしたいと思います。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。
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