韓国を代表するチェ・ミンシクさん(「オールド・ボーイ」など)と俳優イ・ビョンホンさん(「アイリス THE LAST」など)が、連続猟奇殺人犯とそれを追う刑事を演じたサスペンス映画「悪魔を見た」が全国で公開中だ。メガホンをとったのは、イさんと「グッド・バッド・ウィアード」(08年)や「甘い人生」(05年)でタッグを組み、チェさんとは監督デビュー作「クワイエット・ファミリー」(98年)以来12年ぶりの対面(製作は10年)となったキム・ジウン監督が手掛けた。日本ではR18+指定を受けた陰惨で意欲的な内容だ。キム監督に製作の裏話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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映画「悪魔を見た」は、連続猟奇殺人犯ギョンチョル(チェさん)に婚約者を殺された刑事スヒョン(イさん)が復讐(ふくしゅう)を企てる物語だ。ギョンチョルが女性を拉致し殺害する場面はかなり凄惨(せいさん)だが、そのギョンチョルを追い詰めるスヒョンの手口も極めて残忍。見ていて痛くなる場面もあるが、容赦なく描くことで、むしろ突き抜けた感があり、場面によってはユーモアすら漂う。これまでの作品ではいずれも自身で脚本を書き、メガホンをとってきたキム監督だが、今回初めて他者による台本を脚色し、映像化した。台本を大幅に脚色したのはオープニングと、ギョンチョルが逃げ込んだ山荘とエンディングの場面。「特にエンディングは大きく変えた」という。
そもそも、今作の監督を務めたのは、チェさんがキム監督を指名したから。そのときチェさんは、自分でスヒョンの役をやるつもりでいたらしいが、監督いわく「それは私の方で変えました」。その上でスヒョン役にイさんをキャスティング。「彼(イさん)はちょうど『G.I.ジョー2』の撮影が延期になってスケジュールが空いていた。この作品の話をしたら、シナリオを読んで即座に受けてくれた。だから3人でタッグが組めたのです」と明かした。
物語の内容から、撮影現場の風景も殺伐としていたと推測できる。しかも「野外ロケが多く、昼間も日の光が差さないような場所がほとんど」だったため、2月から5月にかけての撮影中は「とにかく寒かった」という。その寒さをしのぐために監督は暖炉にあたり、服を燃やしたことが何度もあったそうだ。だが、「確かに、前作『グッド・バッド・ウィアード』のような、撮影はハードだけど楽しいという雰囲気ではなかった」としながらも、「主演の2人の充満したエネルギーをモニターごしに見ながら、興奮して撮っていく気持ちは、これまでのどの作品よりも強かった」と語った。
キム監督は、ホラー映画「箪笥<たんす>」、男のドラマ「甘い人生」、西部劇風アクション「グッド・バッド・ウィアード」と、これまでさまざまなジャンルを手掛けてきた。そのいずれの質の高さもさることながら、人柄の良さにも定評があるキム監督。どんな質問にも、ときに照れながら、ときに笑顔で気さくに返してくれる。今作について、「女性が暴行されるシーンはつらかった」といい、「生々しいシーンのせいでミートソースが食べられなくなった」と同席した女性が明かすと、「すみません」と本当に申し訳なさそうに頭を下げた。その監督に、山荘のシーンは、色彩や構図などからスタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」(80年)を思い出したと指摘すると、「私自身、山荘内部のミステリアスな雰囲気を描写するには、『シャイニング』に似たイメージになるのではないかと思っていました。あの作品は、空間を扱った映画の中で圧倒的なイメージを持った作品。あれ以降の作品は何かしらの形で影響を受けているのではないかと思う」と素直に認める。その潔さが心地いい。
今回の作品を、「復讐の行為だけをなぞるとスプラッタムービーのように映るかもしれない」としながら、「その背後にある主人公の感情をなぞっていけば、ある種の純愛映画になる」と言い切る。スプラッタと純愛。「その二つの側面が観客の皆さんに伝わることを願っています」と話す。ちなみに、本気で付き合っている彼女はいないが、「『ごちそうして』という彼女はいる」そうだ。そんなことまでも照れながら明かしてくれたキム監督。そんな純朴な面も持ち合わせながら、こんなにスリリングな作品を生み出すのだから、並の才能の持ち主ではない。
<プロフィル>
1964年、韓国ソウル出身。舞台俳優、演出家を経て、98年に脚本も担当したブラックコメディー「クワイエット・ファミリー」で映画監督デビュー。以来、ソン・ガンホさん主演の痛快コメディー「反則王」(00年)や、ホラー映画「箪笥<たんす>」(03年)、イ・ビョンホンさん主演のサスペンス「甘い人生」(05年)、さらに、08年には、西部劇風の冒険アクション大作「グッド・バッド・ウィアード」を製作。ジャンルを問わない作品を世に出し続けている。ちなみに次回作について、「今回は密度を追い求めるあまり暗い内容になったので、次は軽快な映画を撮ることになるのではないかと思う」と予想する。
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