菊池亜希子:街は自分でセレクト 取材は「行き当たりばったり」 散歩ガイド本「みちくさ2」発売

「みちくさ2」のインタビューに応じてくれた菊池亜希子さん
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「みちくさ2」のインタビューに応じてくれた菊池亜希子さん

 モデルの菊池亜希子さんが文とイラストを担当した散歩ガイド本の第2弾「みちくさ2」が5月末に発売された。菊池さんが街歩きをして見つけた“好きなもの”がギュッと凝縮された1冊だ。初主演した映画「森崎書店の日々」(日向朝子監督、10年)で、女優としても独特の存在感を示した菊池さん。多彩な才能を持つ菊池さんに、著書のこと、今後の女優業のことなどを聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 「みちくさ」はファッション誌「PS」(小学館)で連載中の「菊池亜希子の道草」を単行本化した。菊池さんの直筆イラストマップと、心が温かくなるエッセーで街歩きをナビゲートする。

 岐阜で生まれ育ったという菊池さんは、子どものころから“道草”好きだったという。本書には可愛らしいイラストで描き込まれたオリジナルのマップが掲載され、見ているだけで“道草”した気分になる。絵やイラストについては「教科書の隅に描くような落書きみたいなのは小さいときから描いていました。でも、クラスにいる『絵が上手な子』という特別な部類ではなかったですね」と振り返る。連載のきっかけは、撮影の間に菊池さんが手元にある紙に落書きをしているのを編集者が見て、「イラストを使った連載をやってみたら」という“ゆるい”感じで始まった。

 本には、何だか懐かしい感じがする街が次々と登場する。次にどこの街を取り上げるかは基本的には菊池さんが決めている。「あまりしっかりと打ち合わせするわけではなく、ただその街を気になっているときって何かがその街にある。『ここが見たい』(というスポット)とか、そこには『絶対行く』と決めて、あとはそこに行くまでの間に見つけたり、行き当たりばったりなんです。いきなりお店に行って『撮らせてください』って。普通だったらあり得ないんですけれど、ありにしちゃっているのが『みちくさ』です」とわりと緩やかに決めて取材をしている。

 菊池さんは「みちくさ」の取材を通じて、人と話すことが上手になってきたという。「あまり初対面で話せる方ではなかったんですが、私自身が話した方が伝わるので、初めて会った人との会話が昔よりうまくなってきました。その方が臨場感も出るし、『見つけた!』という感じが写真にも伝わるし、そこ(取材先)で教えてもらって次の場所に行ってみることも多いので、決めずに行く方が発見があって面白い」と”道草”を心の底から楽しんでいる様子だ。

 イラストは「その場では描かないで基本的には記憶を頼りに描いています。記録として写真で押さえてはおくんですけれど、写真を見返して思い出しても、写真の通りにはあまりしないですね。似顔絵もたまに登場するんですけれど、完全に私の記憶の似顔絵なので、似ているか似ていないかは分からない。おじさんに出会うことが多くて、おじさんは絵に描きやすいですね」という。「みちくさ2」に「道草おじさん図鑑」という菊池さんが出会ったおじさんばかりが載ったページがあるが、「それも別におじさんばかり描こうと思ったのではなくて、編集の方が『みちくさ』におじさんが多いことに気づいて、そういうページを作ったんです」と明かした。

 「みちくさ2」ではインドネシアのバリ島やフィンランドまで足を延ばして“道草”した様子が収録されている。海外取材は「プライベートで行こうかなと思っていると、『せっかく行くなら“道草”してきて』と話が広がることが多い。『みちくさ』は私の限りなくプライベートに近い」という。

 海外の中でも特にお気に入りは東欧。「映画は東欧の作品が好きなんです。ルーマニアの映画とか、明るくはないんですけれど、空気、湿り気のある、茶色っぽい感じ。鮮やかではないんだけれど、人と人との関係が濃そうな感じ」と話す。「イギリスとかパリとかメジャーなところには行ったことはないんですが、そういう街も『道草』の視点で行ったら面白いんだろうな」と語った。

 菊池さんは高専で建築を学び、大学では建築学科に進み、街づくりを学んだ。菊池さんによると建築は限りなく文系に近いという。「建築って特殊で、歴史の授業とか建築史の授業とか『社会』みたいな感じなんです。ただ単に図面を描いて構造を描いてっていうのだと、いい作品は作れない。建物をつくるときってそこにストーリーがないと。どんな人が集まって、そこで何かが生まれてっていうのってやっぱり文系の頭だなと思う」と話し、それが「みちくさ」の連載につながっている。

 映画「森崎書店の日々」(10年)で初主演を務めるなど、女優としての活躍も楽しみなところ。今後については、「あまり決めてないです。いただいた役柄に自分を当てはめて、役を面白がっている感じなので、自分からこの役をやってみたいとかそういう“野望”はないタイプで……。本当に縁だなあと思います。(何かの)タイミングで私のことを知ってもらって役が来るかも。流れに任せる方がいいのかな」と自然体だ。「なるべくフラットな状態でやっていきたい。映画のシチュエーション、ストーリーの中で素直に相手の言葉とか環境に反応できれば。考えてすることではないので、気持ちのコントロールを上手にできなきゃいけないなと思う」と前向きに語った。

 <プロフィル>

 1982年8月26日生まれ。岐阜県出身。ファッション誌「PS」(小学館)でモデルとして活躍。05年からイラストとエッセーをすべて手がける「道草」(「PS」に掲載)を連載中。独特の存在感で女優としても注目を集めている。主な映画出演作に「ぐるりのこと。」(08年)、「森崎書店の日々」(10年)、「ファの豆腐」(11年)などがある。初めてハマったポップカルチャーは「映画」で、「両親がすごく映画が好きだったので物心がつくころから映画を見ていました。夜になると常に何かを見ていた」とのこと。お気に入りの映画はウディ・アレン監督の「アニー・ホール」(77年)やルイ・マル監督の「地下鉄のザジ」(60年)、女優・原節子さんが出ているような昔の邦画。

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