乙葉しおりの朗読倶楽部:第37回 川端康成「伊豆の踊子」立ちはだかる格差の壁

「伊豆の踊子」作・川端康成(新潮文庫)の表紙(左)と乙葉しおりさん
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「伊豆の踊子」作・川端康成(新潮文庫)の表紙(左)と乙葉しおりさん

 美少女キャラクターが名作を朗読してくれるiPhoneアプリ「朗読少女」。これまでに50万ダウンロードを突破する人気アプリとなっている。「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさんが「朗読倶楽部」の活動報告と名作を紹介する「乙葉しおりの朗読倶楽部」。第37回は、川端康成の「伊豆の踊子」だ。

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 皆さんこんにちは、乙葉しおりです。

 台風などの雨模様が続いて日差しは弱まってきましたけど、その分湿度が上がって不快指数が増したせいか、暑さは簡単に収まりそうにないですね。

 先日外にいたときには大きな雷が鳴ったりして、思わず耳をふさがずにおへそを抱えちゃいました……(>_<)

 さて、話は変わって9月11日はアメリカの作家、オー・ヘンリーさんのお誕生日です。

 オー・ヘンリーさん、本名ウィリアム・シドニー・ポーターさんは、今からおよそ150年前の1862年に生まれ、1910年に47歳の若さで亡くなられるまで、実に400作近くにも上る短編を発表しました。

 以前ご紹介させていただいた「最後の一葉」や、貧しい夫婦が自分の大事なものと引き換えにお互いのクリスマスプレゼントを用意する「賢者の贈り物」など、誰もが知っている名作をたくさん送り出しているんですよ。

 この「オー・ヘンリー」というペンネームは、どうしてつけられたのでしょう?

 ……実は、ペンネームを名乗らざるを得ない事情があったようなんです。

 作家になる以前、彼は薬剤師や製図技師などさまざまな職を転々としましたが、その中に「銀行の出納係」がありました。

 ところがこれが後になって横領の疑いで起訴され、刑務所に服役することになってしまったのです。

 この時既に執筆活動を始めていた彼は服役中も作品を書き続け、なんと刑務所の検閲を受けずに出版社へ原稿を送り出し、発覚を防ぐためにペンネームを使い始めたということらしいのです……この創作意欲にはびっくりですよね。

 ではここで朗読倶楽部のお話。今回は「対面朗読」についてです。

 一般的に対面朗読とは、視力の不自由な方が読みたい本を朗読者が代わりに音読することをいいます。

 そのため、朗読するのは必ずしも文学作品だけではなく、雑誌や新聞を音読することもあります。

 対面朗読を行う場所は、図書館などの公共施設にある専用スペースを使うのが一般的で、朗読倶楽部の部室がある学校図書館にも対面朗読室があるんですよ。

 ちなみに私たち朗読倶楽部の場合は、「聴く読書」の楽しさを広める目的と、自分たちの練習目的で、目の不自由な方以外にも対面朗読を行っています。

 ですがこの対面朗読、実は部員全員が苦手とする分野なのです……(>_<)

 漢字の苦手な部長さんは、以前より国語の成績は上がったものの、新聞記事の政治経済面の朗読をお願いされるとお手上げになってしまいます。

 みかえさんも朗読倶楽部当初より読むペースは速くなりましたが、対面朗読中は相手によく先の文章を促されてしまいます。

 そして私はといえば、相手が大勢でなく一人なら上がらないかと思いきや、かえって緊張してしまう有り様で……

 うまくできるように、これからも頑張ります!……と、いうところで、今回はここまでです。

 次回もまた、よろしくお願いしますね(*^^*)

■しおりの本の小道 川端康成「伊豆の踊子」

 こんにちは、今回は川端康成さんの「伊豆の踊子」をご紹介します。

 このお話は1926年の文芸時代2月号から3月号に発表され、数度にわたって映像化された著者代表作の一つです。

 孤児という自分の出生に悩んだ末、一人旅に出た「私」は、20歳の旧制一高生。

 旅芸人の一座と出会い、踊り子の薫さんに心を奪われた「私」は、伊豆への道中を一座と共にすることを望みます。

 不当な差別にもめげず、明るく生きる旅芸人一座、中でも純粋無垢(むく)な薫さんと触れ合ううちに、やがて「私」の心の中に巣くう、孤児であることの悲しみや甘えが、心地よい涙となって洗い流されていくのでした……。

 このお話は1918年、19歳のときに伊豆に旅行した川端康成さんの実体験をもとにしたお話で、ご本人も2歳から15歳までの間に5人の家族を失って孤児になった過去がありました。

 作中の「私」同様、川端康成さんも通っていた旧制一高は現在の東京大学の前身だといいますから、誰の目から見てもエリート的存在だったことが分かります。

 一方、旅芸人一座の地位については作中でも書かれていますが、茶屋のおばあさんが悪口を言ったり、村の入り口に「物乞(ご)い・旅芸人村に入るべからず」と看板が立てられていたりと、差別の対象だったようです。

 そのことを踏まえたうえで作品を読み返してみると、旅芸人一座と「私」のなにげない会話の中に、お互いに打ち解け好意を持ちながらも、階級格差の壁が立ちはだかっていることが伝わってきます。

 特に、一座の最年長であるおふくろさんの「私」に対する接し方、直接の血縁ではない踊り子の薫さんを思う気持ちに注目して読むと、初めて読んだときと違う印象を受けるかもしれませんよ。

 ところで、川端康成さんはこの作品を発表するまで実に4年半もの間、作中にも登場する湯ケ島の旅館に滞在していたそうです。

 宿代をほとんど払わなかったという逸話もあるようですけど、それだけこの場所に愛着があったんでしょうね……。

 ※本コラムをしおりさんが朗読する「乙葉しおりの朗読倶楽部」がiPhoneアプリ「朗読少女」のコンテンツとして配信が始まりました。1話約20分で250円。

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